テラーノベル
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夕日が沈みかけ、空は茜色に染まっていた。
花子の結婚式をなんとか無事に終えた太郎は、休む暇もなく走り出していた。
一朗が人質にされている約束の刻限は、もうすぐそこに迫っている。
「オレは必ず間に合う……! 一朗を絶対に助ける!」
足は重く、肺は焼けるように苦しい。
だが太郎の目は燃えていた。
村人たちが道の途中で声をかける。
「太郎! 水だ、持っていけ!」
「がんばれ! お前の友情に賭けるぞ!」
その声援が太郎の背を押した。
途中、嵐のような豪雨に襲われる。
川は増水し行く手を阻む。
「ふざけるな! オレの足は止まらない!」
太郎は濁流に飛び込み、必死に泳ぐ。
服は重く、体力は削られるが、心の炎は消えなかった。
やっとのことで岸に上がり、ボロボロの体で再び走り出す。
泥まみれの顔に笑みを浮かべ、太郎はつぶやいた。
「一朗……オレたちは、ずっと友達だろ……!」
ついに中央広場が見えてきた。
すでに空は暗く、月が昇り始めていた。
人質のステージには一朗の姿。
周囲の係員たちは冷ややかな目を向けている。
「間に合わなかったか……」
一朗が諦めかけたその瞬間、土煙と共に太郎が現れた。
「ま、待たせたなぁぁぁぁっ!!」
全身ずぶ濡れでそれでも笑顔を浮かべて立つ太郎。
その姿に一朗の目から涙がこぼれる。
「バカ野郎……本当に来やがったのか!」
村人たちが後から駆けつけ、係員たちに訴える。
「この男は約束を守った! 友情のために命をかけた!」
沈黙ののち、係員たちは縄を解いた。
太郎は一朗に駆け寄り、肩を抱きしめる。
「一朗……生きていてよかった!」
「太郎……お前は……最高の友達だ!」
2人は涙を流しながら笑いあった。
周囲も感動しているとき、太郎の腹がぐぅぅぅと鳴った。
「……すまん、走りすぎて腹へった。誰かおにぎり持ってないか?」
一郎は涙を拭いながらも吹き出した。
「お前なぁ! 感動返せ!」
係員まで笑い出し、場の雰囲気は一気に崩れた。
結局、一郎は無事に解放され村人たちは“走れ太郎は腹の虫にも負けなかった“と後に語り継いだという。
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