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このままだと、本当に殺されるかもしれない――。
そう思った次の瞬間、遠藤の生温かい顔が、目の前に一気に迫った。
「っ、いや……!」
反射的に下を向き、必死に顔を背けるけれど、すぐに遠藤の大きな右手が僕の顎を骨がきしむほどの力で乱暴につかみ、遠藤の口で無理矢理に僕の口を塞がれた。
アルコールと煙草の混ざった悪臭が、口内に直接流れ込んでくる。
必死に逃げようと頭を動かそうとするが、壁に押し付けられた身体はビクともしない。
生々しい鉄の味が広がり、舌を無理矢理押し入れられて、そのキスはどんどん、深く、執拗になっていく。
気持ちが悪い。
吐き気がする。
やばい、本当にやばい。
今、逃げなきゃ、僕は終わる――。
パニックになりかけた頭の片隅で、本能が叫んだ。
僕は狂ったように力を込め、口内に入り込んでいた遠藤の舌を、思い切り噛みちぎるほどの力で噛んだ。
『――っ、が、っ!!!』
血の混じった絶叫と共に、ようやく唇が離れ、僕を押さえていた男の腕の力が一瞬だけ緩んだ。
今しかない。
その隙を見逃さず、僕は脇目も振らずに路地の出口へと駆け出そうとした。
だが、地獄からの脱出は、そんなに甘くはなかった。
パチンッ――!!!!
狭い路地裏に、硬い破裂音が響き渡る。
視界が火花を散らしたように激しく歪み、左の頬に、焼けるような凄まじい痛みが走った。
遠藤が、思い切り僕の頬を引っ叩いたのだ。
あまりの衝撃に身体のバランスを崩し、ジンジンと拍動する頬を手のひらで抑えながら、僕は恐怖に目を見開いて彼の顔を見上げた。
逃げようとした足は、完全にすくんで止まってしまった。
『……反抗的な子には、お仕置だよ?』
口元から血を流しながら、遠藤が暗がりのなかで不気味に目を細める。
その表情は完全に理性を失い、狂気じみていて、僕の心臓は恐怖のあまりに破裂しそうだった。
今までだって、数え切れないほどの痴漢やストーカーに遭ってきた。
けれど、暴力を振るわれ、ここまで怪物の本性を見せつけられたことは、さすがに一度もなかった。
その時、遠藤がズボンのポケットから、何かをゆっくりと取り出すのが見えた。
チャキ、と金属特有の冷たい音が響いた。
その手には、ナイフが握られていた。
暗闇のなかで、鋭利な刃先が朝日のように鈍く光る。
僕は悲鳴を上げることすら忘れ、ただその悍ましい光景を、黙って見つめることしか出来なかった。
足がガタガタと信じられないくらい激しく震えだす。
もう、これ以上彼を刺激してはいけない。
怒らせたら、本当に刺される。
「ご、ごめ……んなさ……い、……っ、」
許しを請う僕の声は、情けないほどに掠れ、震えていた。
『なに〜? ほら、いつもみたいに笑ってよ。僕のこと、歓迎してよぉ!』
耳を疑うような怒声と共に、僕は胸元を突き飛ばされ、冷たくて硬いアスファルトの地面に無理矢理押し倒された。
背中に激痛が走り、息が詰まる。
間髪入れずに、遠藤の重い身体が僕の上にドスンと覆いかぶさってきた。
身動きの取れない僕の目の前に、遠藤はナイフの切っ先を、ゆっくりと突きつけてくる。
「……っ!!」
鋭利な刃が視界を支配する。
恐怖で、呼吸の仕方が分からなくなる。
遠藤の手が、僕の着ていたシャツを乱暴に捲り上げ、生温かい手のひらが僕の素肌を這うように触れ始めた。
僕の身体に吸い付くその唇の感覚。
皮膚をねっとりと舐め回す、じっとりと濡れた舌の感触……。
気持ち悪いとか、汚いとか……
そんなことを感じるよりも前に、僕はもう、ただただ死への恐怖に支配されていた。
でも…
このまま大人しくしていたら、本当に殺されて、ここに捨てられる。
このまま大人しく殺されるくらいなら、無理矢理にでも逃げなくてはいけない。
そう直感した僕は、狂ったように身体をねじり、必死に彼を押し退けようと抵抗した。
でも、僕が必死に抵抗する度に、遠藤はその据わった目で僕を見下ろし、逃げようと足掻く度に、容赦のない拳で僕の頬を強く、何度も何度も殴りつけた。
――そして。
「……いっ!!」
冷たい、肉を裂く感触が走った。
遠藤が苛立ちに任せて振り下ろした鋭いナイフの刃が、僕の左脇腹の肌を、スーっと深く切り裂いた。
熱い。
肉の奥が、焼けるように熱い。
そこから、ドクドクと自分の血が溢れ出し、脇腹を伝って地面に流れていくのが分かった。
「、、い”ッ!!、イヤ……ゴメンナ……サイっ……やめて……っ」
もう、何に対して謝っているのかも分からない。
ただ、痛くて、怖くて、許してほしくて、声を枯らして泣き叫ぶ。
ナイフで切り裂かれた肌は、心臓の音と連動するようにドクドクと激しく脈を打っている。
何度も殴られた頬は見る影もなく赤く腫れ上がり、口の中からは鉄の味が溢れて止まらない。
あまりの痛みと、底なしの恐怖、そしてこの上ない程の絶望。
僕の身体はガタガタと震え、ただ冷たい路地裏の地面に涙を流し続けることしか出来なかった――。
to be continued……..
コメント
3件

そゆことだったのね、、、悲しすぎるよ、、、
えもうやばい😭😭😭じゅうちゃん😭😭