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このまま、ここで朽ち果てるつもりだった。
地の底の大空洞。
明かりの届かぬ闇の中、クロードは目を閉じ、一人座す。
空洞の中央には、人の頭ほどの黒い球体──ダンジョンコアが浮かぶ。
魔力の鎖がクロードとコアを繋ぎ、彼の魔力でダンジョンは辛うじて崩壊を免れていた。
同時にクロード自身も、コアの力で生かされている。
肉体は死を迎えることなく、ただ、人としての意識だけが消えていく。
死すらどこか他人事のようだった。
――もうすぐ、全てが終わる。
コアはダンジョン内の様子を具に伝える。人の気配が絶えて久しいことを、クロードはとっくに知っていた。
ならば務めは終わり。
守るべき者のいない地に、もはや自身は必要ない。
気力だけで保った意識が闇に沈んでいく。
コアとの繋がりが遠のき、ダンジョンが崩落を始めた。
最初に、最下層にいるクロードとコアが押しつぶされる。
本来なら、それで全てが終わるはずだった。
だが、最後の時、クロードは視た――
コアが伝える、ダンジョン内に突如現れた反応。複数階層に散らばる気配。
もう二度と現れないと思っていた人の存在に、クロードの意識が急激に覚醒する。
瞬間、コアを通してではない――同じ空間に現れた人の気配に、クロードは目を見開いた。
上を見上げる。
高い天井。コアルームの遥か上空。
クロードは、小さな点のような人影を捉える。
意識のないまま落ちて来る少女。
――守らねば。
消えかけた意識に残る、たった一つの思い。
クロードは、瞬時にありったけの魔力をコアに注ぎ込んだ。
ダンジョンの崩壊を防ぐため、この地に迷い込んだ者達を地上に返すために。
クロードの魔力核――魔力生成の源が軋む。
限界を越えての魔力放出。
コアはクロードの魔力を全て奪うと、鈍く稼働を始めた。
クロードは魔力の鎖を断ち切り、落下する少女の元へ跳ぶ。
一瞬で詰めた距離。手を伸ばして少女を抱きかかえた。
地に降り立ったクロードは、少女を抱えたまま上空を見上げる。
コアルームの天井がパラパラと剥がれ落ちてきた。
(……足りないか)
クロードの残存魔力はダンジョンを僅かに延命したのみ。
崩壊は止められない。
(すまない……)
クロードは、少女をそっと地に横たえる。
意識の戻らぬ青ざめた顔。色を失った唇。
幼子のようなその面差しを見つめ、クロードは少女の上に覆いかぶさった。
黒髪を撫で、全身で彼女を抱み込む。
次の瞬間、轟音とともに天井が崩れ落ち、巨大な瓦礫が二人へ降り注いだ。