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*鳴神、日本の民間信仰(ミンカンシンコウ)や神道における雷の神である。雷様・雷電様・鳴神・雷公(ライコウ)とも呼ばれる*
孫悟空ー
「親…って。は?意味が分かんねぇ…。」
いきなり何を言い出すんだ?
この女は…。
親?
「まぁ、本人に聞いた方が理解しやすいだろ。付いて来い。」
そう言って、羅刹天が歩き出しだ。
俺は疑問を抱いたまま羅刹天の後ろを歩いた。
しばらく歩いていると、屋敷から大分離れた距離に洞窟の入り口が見えて来た。
「この中に入るぞ。」
「洞窟の中に何かあんのか?」
「黙って付いて来れば良い。」
洞窟の中は暗く、空気が冷んやりしていた。
外の暖かさとは違って、洞窟の中は別の世界に繋がっているのではないかと思わされる。
真っ暗な道をただひたすら真っ直ぐ歩いた。
ボ、ボボボボボボ…。
俺達が通るとロウソクに火がつき始めた。
「どうなってるんだ?いきなり火が…。」
「鳴神が付けたんだろ。」
「鳴神が?」
「アイツなりにお前を出迎えてんだろ。」
羅刹天と話していると目の前に鳥居が現れた。
だが、鳥居の先には壁しかなかった。
「おい、行き止まりじゃねーか。この先に進め…。」
俺の言葉を聞かずに羅刹天は歩き出し、壁の中に入って行った。
「は、はぁ!?」
「何してんだ、さっさと来い。」
「来いって…。壁の中に入れるわけ…。」
スッ。
壁の中から羅刹天の手が伸びて来た。
「ほら、引っ張ってやるから手を伸ばせ。」
「あ、あぁ…。」
俺は羅刹天に言われた通りに手を伸ばした。
羅刹天は俺の手を掴み、壁の中へと引き摺り込んだ。
「うわっ!!」
むにゅっ。
顔に柔らかい感触が広まった。
「いらっしゃーい。」
俺は羅刹天の胸の中に収まっていた。
羅刹天はそんな俺をニヤニヤしながら言葉を放った。
「あ、悪りぃ。」
俺はスッと羅刹天の胸の中から離れた。
「何だ、もっといても良かったぞ。」
「今はそう言う感じじゃねーだろ。」
「今じゃなきゃ良いのか?」
「好きに受け取れ。」
周囲を見渡すと、岩の壁一面に鎖が貼り巡られていた。
それと封印の札と思われる札も沢山、貼られていた。
「この先に鳴神が封印されてる。」
「封印…って、誰にされたんだ?」
「毘沙門天の糞野郎。」
俺の質問に答えた羅刹天は嫌々に毘沙門天の名前を口に出した。
ゾクッ!!
背中に寒気が走った。
いる。
この奥にいる。
封印されていても、力が漏れ出ているのが体に伝わって来た。
俺は冷や汗をかきながら、奥に進んだ。
ジャラッ。
鎖の音が洞窟の中に響いた。
目の前にいたのは、沢山の鎖に繋がれた堅いのデカイ男。
「鳴神、連れて来きたよ。」
羅刹天の言葉を聞いた男は顔を上げた。
黒髪は全て後ろに流されているが、両サイドの髪は残し、静電気のせいで髪が立っている。
鋭い目付き、顔には沢山の傷と整えられた髭。
全身に龍の和彫りが入っていた。
この男が…、鳴神?
「よぉ、お前が俺の息子か。」
心地の良い低い声が耳に届いた。
「アンタが鳴神…か?」
「ハッ、生意気に俺を呼び捨てにすんのはお前で3人目だな。」
「本当に俺の親…なのか?」
「ま、そうなるな息子よ。俺より伊邪那美命(イザナミ)に似てんな。」
そう言った鳴神の顔は穏やかな表情を浮かべていた。
その顔を見たら本当に俺の父親なんだろうなって納得した。
鳴神は更に言葉を続けた。
「お前の母ちゃんだよ。そんで俺が生涯愛してる女だ。」
*伊邪那美命、日本神話の女神で神世七代の7代目(妹)。伊邪那岐命(イザナギ)の妻。女神伊邪那美命は、夫伊邪那岐命と性交し、神々を生んだが、最後に火神を生んで火傷を負って死に、黄泉の国に行ってしまった*
「は?伊邪那美命は…、確か伊邪那岐命の妻だよな?どう言う事…なんだ?」
神話とは違う事実があるのか?
「ハッ、あの糞野郎が書いた話を読んだんだろ。綺麗に並べた言葉で真実を塗り潰し、伊邪那美命は綺麗に死んだ事にしやがった。」
そう言うと、鳴神の表情は怒りに満ちていた。
「糞野郎って…?もしかして、毘沙門天の事か。」
「毘沙門天は伊邪那美命様を使うだけ使って黄泉の世界に落としたんだよ。その伊邪那美命様を救ったのが鳴神なんだ。」
俺の言葉を聞いた羅刹天は言葉を放った。
黄泉の世界に落とした?
使うだけ使って…って?
「俺がここに封じ込められてんのは、毘沙門天の仕業だ。俺は黄泉の世界で神になった犯罪者として牢獄された訳だ。」
「は、はぁ…?ちゃんと説明してくれないと分かんねーよっ!!?」
「鳴神、悟空は知っておいた方が良いんじゃないの?伊邪那美命様とアンタの過去、そして毘沙門天の悪事を。」
羅刹天はそう言って鳴神を見つめた。
鳴神はゆっくりと、口を開き話を始めた。
今から語られるのは神話の裏側に隠された真実。伊邪那美命と言う女神の本当の死の物語。天界にあまり神と言う存在がいなかった頃に遡る。
伊邪那美命と言う美しい女神がいた。
赤茶色の長い髪を靡かせ、雪のように白い肌に煌びやかなアクセサリー、金茶色の瞳を持つ女性だった。
伊邪那美命は沢山の男達に求婚を申し込まれていた。
だが、伊邪那美命は誰一人の求婚を受け入れはしなかった。
また今日も伊邪那美命の周りに男が集まっていた。
「伊邪那美命様!!どうか、私の妃となってくれませぬか!!」
「いや、私が先だ!!」
「私こそが伊邪那美命様を!!!」
男達は次々に伊邪那美命に愛を囁いていた。
「断る。」
伊邪那美命は一言だけ言葉を放った。
だが、伊邪那美命の言葉を聞いた男達は納得が行かなかった。
「そんなっ…。」
「誰か相手がいるのですか!?」
「五月蝿い。誰も私の心を動かせぬからだ。」
「おい、伊邪那美命様から離れろ。」
伊邪那美命の後ろに1人の男が立った。
その男とは鳴神であった。
まだこの男が神になる前、人として生きていた頃だった。
当時、鳴神は伊邪那美命の側近として彼女の側にいた。
男達は鳴神の姿を見た後、すぐに伊邪那美命の側から離れた。
「遅いではないか。」
「伊邪那美命が勝手に部屋から抜け出したからだろ。」
「縛られるのはどうにも好かぬ。飛龍(フェイロン)、私を連れ戻しに来たのか。」
飛龍と言うのは鳴神になる前の名前である。
「まさか、俺がそんな事すると?伊邪那美命の側にいないと、また男達が群れますからね。それの防止です。」
「ハッ、飛龍だけだな。私に惚れぬ男は。」
そう言って、伊邪那美命は笑った。
伊邪那美命と飛龍は主人と従者と言う関係ではなく、友として共に行動していた。
飛龍は伊邪那美命に抱いていた好意を隠し、伊邪那美命の側にいた。
平和に暮らしていた伊邪那美命の元に、2人の男が現れた。
伊邪那美命邸ー
伊邪那美命の屋敷に毘沙門天と名乗る男と、伊邪那岐命と名乗る男が訪れた。
伊邪那美命は太々しい態度で2人を招き入れた。
「それで?私に何の用だ。」
「お噂の通りに美しいお人で驚きました。伊邪那美命様、一体どれだけの男を夢中にさせたのですか?」
毘沙門天の言葉を聞いた飛龍の眉毛がピクッと反応した。
「御託は良い。要件があるからここに来たのだろが。さっさと申せ。」
伊邪那美命は冷たく言葉を放った。
「なら、単刀直入に申します。この伊邪那岐命と婚約し神を生み出して貰いたいのです。」
「は?」
伊邪那美命は思わず声が漏れ出てしまった。
「いきなり、何を言い出すかと思えば神を産め?無礼にも程があるぞ!!」
飛龍はそう言って剣を抜いた。
「飛龍、剣を下ろせ。」
「しかしっ…!!」
「私の命令が聞けぬのか。」
伊邪那美命はそう言って、飛龍を睨み付けた。
飛龍は渋々、剣を下ろした。
伊邪那美命は伊邪那岐命に視線を向けた。
伊邪那岐命の顔立ちは、男前だが男らしさを感じられなかった。オロオロとしていて、毘沙門天の顔色を伺っていた。
「私が神を生み出す?どう言う意味だ。」
「言葉の通りですよ伊邪那美命様。神と神の間に出来た子は神の子となります。伊邪那岐命と性交して貰い神々を生み出して貰いたいのです。」
伊邪那美命の問いに毘沙門天が答えた。
「何の為に。」
「天界には我々以外の神がいるべきだと天帝が申しておりました。これも天界の為であります。」
「天命…と言う事か。」
「はい、その通りでございます。伊邪那美命様。」
この時の天帝を毘沙門天の意のままに動かせていた。
そして、この伊邪那岐命も毘沙門天に逆らえないでいた。
天帝の命令は絶対。
伊邪那美命も天帝の命令には背ける筈がなかった。
だが、その命令は毘沙門天の仕業と言う事を伊邪那美命は知るよしもなかった。
「天帝の命令には従う。だが、私の心を動かしたと思うなよ毘沙門天。私は誰の物でもないのだから。」
そう言って、伊邪那美命は毘沙門天を睨み付けた。
毘沙門天が不敵な笑みを浮かべた事を、飛龍は見逃さなかった。
毘沙門天と伊邪那岐命がいなくなった後、飛龍は声を荒げた。
「まさか、アイツと婚約するのか!?」
「話を聞いてなかったのか。」
「聞いた上で言ってるんだよ!?アイツの子を産むのか!?」
「それが天命だからな。仕方のない事だ。」
「仕方のない…って、好きでもない相手と性交するのか!?」
「天帝の言っている事も分かる。今の天界には神が少な過ぎる。」
伊邪那美命はそう言って、遠くを見つめた。
「神がいなければ人は導けぬ。生が産まれる意味も、生きる意味も与えるのは神だ。」
「…。だが、酷過ぎるだろ。伊邪那美命の気持ちはどうなるんだ。」
「お前だけが私の拠り所だよ。」
そう言って、伊邪那美命は飛龍の顔に触れた。
「飛龍、お前だけは変わらないで。この先もずっと。」
飛龍はただ、伊邪那美命の手を握る事しか出来なかった。
翌日、すぐに伊邪那美命と伊邪那岐命の挙式が行われた。
2人の挙式を祝う為に天界に住んでいる住民達が集まり祝福の言葉を送った。
だが、それは悲劇の始まりだった。
「何で伊邪那美命様の側近から俺を外すんですか!?」
毘沙門天の命令により、飛龍は伊邪那美命の側近から外されてしまった。
飛龍は毘沙門天に意義を申し立てていた。
「貴方がいては、性交の儀を台無しにしてしまう可能性がありますからね。伊邪那美命様には他の者が従者をしますので貴方には用はないんですよ。」
「それを伊邪那美命様は認めたのか!?」
「はい。」
「なっ…?!嘘だろ!?伊邪那美命様はそんな事を言う筈がない!!」
「貴方には妖怪討伐兵に入ってもらいます。これも天帝の命令です。」
「っ!!」
「貴方は天帝の命令に従っていれば良いのです。」
毘沙門天の意図により、伊邪那美命と飛龍は引き離されてしまったのだった。
飛龍は妖怪討伐兵に加入させられ、各地に飛ばされた。
伊邪那美命が最初の神を産んだと言う話を聞いたのは、半年後の事だった。
伊邪那美命は、次々に神を産み出した。
飛龍は天界に戻れたのは10年後の事だった。
討伐から戻った飛龍は、天界を見て驚きを隠せなかった。
何故なら、たった10年で天界は華やかな街と化していたのだから。
「どうなってんだ…、天界がこんなっ…?」
「隊長、俺達がいない間に神が増えたんですよ。だから、天界が華やかになったんです。」
妖怪討伐兵に加入してから、飛龍を慕う者達が増えていた。
殆どの討伐兵は飛龍を隊長と称え、数々の戦場を駆け巡っていた。
弱々しかった妖怪討伐兵は、堅いの良い輩の集まりなった。
「伊邪那美命様が次々に神を産み出しているお陰で、天界が豊かになって来たんだそうですよ隊長。」
飛龍は黙って兵士達の話を聞いていた。
飛龍の心の中に伊邪那美命が消える事はなかった。
離れていても伊邪那美命の事を毎日、思い出していた。
「お疲れ様です。飛龍隊長。」
声を掛けて来たのは伊邪那岐命だった。
オロオロと弱々しかった伊邪那岐命が、今は堂々としていた。
その姿を見た飛龍は違和感を覚えた。
「まさか、あの弱かった妖怪討伐兵がここまで強くなるとは思ってもいませんでしたよ。」
伊邪那岐命の言葉を聞いた兵士達は、一瞬で顔色が変わった。
何故なら伊邪那岐命は穏やかな口調で飛龍達を馬鹿にしたからだ。
その事を飛龍もすぐに察知していた。
「貴方こそ、雰囲気が変わったようで。」
飛龍はそう言って、伊邪那岐命を睨んだ。
「それはどうも。貴方達も少しの休暇を楽しんで下さい。」
伊邪那岐命はそう言って歩き出した。
「何なんだよアイツ!!」
「落ち着つけ。」
飛龍は苛立っている兵士達を宥める為、飲み屋に連れて行った。
兵士達と酒を楽しんでいる中、客達の噂が耳に入った。
「しっかし、伊邪那美命様の変わり果てたお姿を見たか?以前までの華やかさがなくなってしまって。」
「仕方ないだろ?休みなく神を産み出しているんだ。」
その言葉を聞いた飛龍の動きが止まった。
「隊長…?」
「どうしました?」
兵士達は飛龍を心配そうな顔をしながら言葉を投げた。
飛龍は苛立た様子で、話をしていた客の1人の肩を掴んだ。
「詳しく聞かせろ。」
「い、いきなりなんだよっ!?」
「良いからさっきの話を詳しく話せ!!」
飛龍に恐れた客は恐る恐る話を始めた。
飲み屋から飛び出した飛龍は、伊邪那岐命邸に向かった。
飛龍を慕う兵士達も飛龍を追うように居酒屋を飛び出した。
「隊長!!どうしたんですか!?」
「伊邪那美命様に何かあったんですか!?」
飛龍と伊邪那美命の関係を知っている兵士達は、伊邪那美命に何かあったのだろうと悟っていた。
「伊邪那美命が危ねぇ。助け出さねーと!!![
飛龍の言葉を聞いた兵士達は、剣や銃を構え伊邪那岐命邸へと踏み込んだ。
飛龍が率いる兵士達は次々に、伊邪那岐命が率いる兵士達を倒し邸にの奥に進んだ。
ドドドドドドドドドドッ!!!
乱暴な足音が長い廊下に響く。
奥の扉を乱暴に開けた飛龍は、衝撃的な光景が目の前に広がった。
痩せ細った伊邪那美命の手足に手錠が付けられ、白いシーツには赤い血が沢山付着していた。
産後の後だと言う事がすぐに分かった。
そんな伊邪那美命を伊邪那岐命が抱こうとしていた。
ブチッ。
飛龍の中で何かが切れた。
「な、な、ななんだ!!?貴様等!!」
伊邪那岐命は状況を理解出来ておらず、オドオドとしていた。
そんな伊邪那岐命を伊邪那美命から引き剥がし、伊邪那岐命の性器を切り落とした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
伊邪那岐命は切り落とされた部分を押さえながら倒れ込んだ。
「伊邪那美命!!おい、しっかりしろ!!」
伊邪那美命の目には光が映っていなかった。
だが、飛龍の声を聞いた瞬間だった。
「飛龍…?」
伊邪那美命の目に光が宿った。
「俺の声が聞こえるか??!」
「飛龍…、飛龍…っ。」
伊邪那美命はそう言って、飛龍に抱き付いた。
飛龍は黙って伊邪那美命の体を抱き締めた。
「隊長、コイツの手足を斬り落としても宜しいですか?」
黒髪の長い髪を靡かせた副隊長の雲嵐(ウンラン)が飛龍に尋ねた。
兵士達の中でも飛龍に一番、忠誠を誓っている男だ。「落とせ。俺が許す。」
そう言うと、雲嵐は伊邪那岐命の手足を切り落とした。
ブシャアアア!!!
伊邪那岐命の斬り落とされた部分から血が飛び出した。
「うがぁぁぁわあわあわあわあわあ!!貴様等ぁぁぁぁ!!神である私の、私のぉおおおおお!!」
伊邪那岐命は飛龍達を睨み付けた。
だが、その視線すら飛龍達には届かなかった。
「これはどう言う事だ。」
飛龍はそう言って、後ろを振り返った。
振り返るとそこにいたのは、毘沙門天だった。
「おやおや、何の騒ぎですか?」
「毘沙門天殿!!」
手足のない伊邪那岐命が毘沙門天の足元に擦り寄った。
「び、毘沙門天殿。お、おたすー。」
グシャッ。
ボトッ。
床に伊邪那岐命の頭が転がった。
毘沙門天が刀を使って、伊邪那岐命の首を斬り落としたのだった。
「お前が何で、伊邪那岐命の首を斬るんだっ?毘沙門天。」
飛龍はそう言って、毘沙門天に尋ねた。
「貴方にも民達にも、伊邪那美命様の状態が漏れ出てしまいましたし。神も十分、増えたのでゴミを処理しただけです。」
「処理…だと?お前、まさか!?」
毘沙門天の意図を察した飛龍は、伊邪那美命を背に隠した。
「ゴミ処理を始めましょうか。」
そう言って、毘沙門天は満面な笑みを浮かべた。