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#ファンタジー
芙月みひろ
94
設楽理沙
1,542
気づいたら眠っていて、目が覚めると机にはラップのかかった晩御飯が置いてあった。
<あたためてね 綾葉>
今日は綾葉が作ってくれたんだ。肉じゃがを温めながら、私は考える。夏目くんの言葉、あの彼の言葉、どれも私には意味がわからない。大体、あの人は本当に何者なんだろう。急に現れて、急に私の頭を忙しくさせる。私の心に眠る人ってどういうこと?
「綾愛、起きたんだ」
「綾葉、ご飯美味しかった。ありがとう」
「ほんとー?!良かった!」
綾葉は嬉しそうに私の食器を洗ってくれた。幼い頃、お母さんから2人で教わったから、私たち姉妹は料理が得意なの。
「2人とも、早く寝なさいよー」
「はーい」
机に置いてある指切り姫に触れると、どこか温かい感じがした。開くと、あの時と同じ香りがする。なんの匂いなんだろう。どこか懐かしい、甘くて優しい香り。
「綾愛その本…」
「これ、お母さん昔読んでくれたよね?私ずっと好きで、あの彼から貰ったんだよね」
「もうこの本手に入らないのに、どうして…」
お母さんは驚いたように、指切り姫を見ている。5秒ほどの沈黙の後、私たちを早く寝るように急かしてきて、仕方なく部屋に戻った。改めて指切り姫を読んでみたけど、やっぱり私はお姫様のこの強さに強い憧れを抱いてしまう。こんな風に、私も誰かを助けてみたい。気づけば日付は越えていて、私は目を瞑った。
___
『ねぇ、知ってる?小指で約束するの』
『知ってるけど、どうかした?』
『私ね、それで約束したいことがあるの!
いつか、困難を乗り越えた時に私と約束してくれないかな?』
『いいよ。何を約束してくれるの?』
『内緒だよ、私が心の底から思ってることだから』
___
不思議な夢を見て目を覚ます。沢山のお花に囲まれた私は、見知らぬ誰かと話している。その人はどこかで会ったことのあるような、ないような。
「綾愛ー?遅刻するよ!!」
お母さんが下から私を呼んでいる。お弁当、作れていない。飛び起きて、制服を急いで着て下に行くと、2つのお弁当箱が机に置かれていた。
「え…?なんで」
「一緒に食べるんでしょ?お友達と。借り、返してね?」
「ありがとう、お母さん!!」
いい香りのするリビングを抜けて、家を出た。今日の空は明るい。自然の気分は上がると思いきや、昨日の夏目くんがきっかけで学校に行く気は湧かない。教室にはいつもより人が沢山いた。私が最後に教室についたみたい。机の上には、新しい短冊が置かれている。
「綾愛、おはよ!」
「茉唯おはよー、短冊貰ってくれたの?」
「ううん?私じゃないよ。夏目じゃない?」
窓側に座る夏目くんを見てみると浮かない顔をしていた。昨日の出来事が原因だよね。新しい短冊には、[これからも沢山美味しいご飯をたべられますように]と書いた。これでいいの。
昼休みになった途端、私は屋上へ向かう。
「おーい、蒼眞ー?」
屋上に行くと、蒼眞はコンクリートの上で寝ていた。
「…綾愛か」
少し機嫌が悪そうに、身体を起こした蒼眞は大きなため息をついている。
「いつも屋上来るの早いよね、教室行っても居ないけどどうして?」
「そんな事いいから、早く食おーぜ」
お弁当の中身は、とても可愛いデコレーションがされていた。
「すげー気合い入れて作ってくれてる。いただきます」
蒼眞は、ひと口食べると昨日の同様にいいリアクションをくれた。お母さんの卵焼きは塩っぱい。私の卵焼きは甘い。そういう味の感想は、あまり言わないんだ。
「ねぇ、夏目翔弥くんって知ってる…?」
恐る恐る聞いてみると、蒼眞の箸の手が止まった。
「なんで?」
「いや、なんか知り合いそうだなーって」
「…その名前二度と出すな」
少し残されたお弁当箱を置いて、蒼眞は立ち上がってどこかへ行ってしまった。
「え、ちょっと待って…!」
何なの、本当。喧嘩でもしたのかな。殺したとか一体どういうことなの。お母さんに申し訳ないから、残ったお弁当の中身を全部食べた。寝っ転がって、空を見てみる。コンクリートは、すごく固くて痛い。こんなとこで寝るのは、疲れるな。
突然開くドアの音とともに、私は身体を起こした。
「…これ、渡し忘れてた」
蒼眞はわざわざ戻って、小さい封筒を渡してくれた。すぐに屋上から出ていってしまったけど、私はわざわざ戻ってきてくれたことが、何故か少し嬉しかった。開けてみると、セロハンテープでくっつけられた私の短冊だった。
「なんで…」
裏側には、小さく文字が書かれている。
“せっかくの夢、捨てんな”
明日は七夕祭。新しい短冊を飾るか、ボロボロの短冊を飾るのかは私次第。昼休みが終わって、授業を受けて帰る。私の頭には、ずっと蒼眞からのメッセージが残っている。ぼーっとして歩いていると、校門に見覚えのある人が立っていることに気がついた。
「綾愛さん…!」
私に笑って手を振っているのは彼だった。
「どうしたの?!こんなところまで…」
「よく分からないんですけど、会いたくなっちゃったんです」
困ったように頭を搔いている彼の姿は、誰かに似ている気がした。
「ねぇ、どうしてあの本持ってたの?」
「僕の服のポケットに入ってました。読んでないんですけど、どんな本なんですか?」
ふと彼の瞳を見てみると、夕日に照らされて輝いていた。
「勇敢なお姫様が初めて恋をするお話、かな」
「お姫様…綾愛さんみたいだ」
「…え、私がお姫様?!」
驚いて隣にいる彼を見ると、彼は少し先にある夕日に夢中だった。
「また、あの炎を見れたらいいのにな」
そう呟いて、進み出す彼は何処か寂しそうだった。思い出せない誰かを、遠くにいる誰かを思っているような、そんな感じがした。
「…じゃあ、今度私と一緒にあの輝く炎を見に行こうよ」
「綾愛さんと…?」
「うん、約束だよ」
私が小指を差し出すと、彼は突然震えだしてしまった。どうしたのかと聞いても、返答はなく、小指だけを絡めて、指切りをした状態で私たちは静止していた。
「大丈夫…?具合でも悪い?」
すると彼の美しい瞳から、沢山の涙が溢れ出した。綺麗な水滴が、彼の美しい顔を伝っている。けど、綺麗なのは私から見るからであって、彼にとってはきっと苦しくて濁っているものなのだろう。
近くの公園のベンチで彼の隣に黙って座った。
「落ち着いた?」
小さく頷き、私を見つめてくる。
「なにか思い出したの?」
彼は、唇を噛んで何かを我慢しているようだった。
「…少しでいいから、僕を抱きしめて欲しい」
私が声を発する前に、彼は私を強く抱きしめてきた。驚いてしまったけど、辛い気持ちを抱えているのだと思い、私は抱きしめ返した。いい香りが広がる。甘くて、優しい香り。何処かで嗅いだような、そんな香り。
「辛かったんだね、ひとりできっと苦しかったよね」
「…僕、なんで綾愛さんに惹かれるのか分かったんです」
彼は、私から離れて真剣に見つめてくる。流れる空気は、優しかった。
「綾愛さんは___」
「綾愛…?何してんの?」
振り返ると、蒼眞がいた。
「え、蒼眞?!偶然だね」
「…彼氏?」
指を指す先は、彼だった。まぁ、そうだよね。こんな2人きりで公園にいるなんて勘違いしちゃうよね。
「いやいや、そんな訳…」
「いるなら言えよ、弁当なんか頼まなかったのに。明日から大丈夫だから、悪かった」
蒼眞は、そう吐き捨てて走って行ってしまった。私の話、少しは聞いてよ。
「…綾愛さん?」
「あ、ごめんね。続き、聞かせてよ」
気づけば空は暗くなっていた。蒼眞のことが気になってしまって、彼の話が頭に入ってこない。
「ごめん、もう1回聞かせて欲しい」
私がそう言った瞬間、彼は立ち上がって私を綺麗な瞳で見つめる。
「僕は、君の運命の人なんだ」
再び言われたその言葉が、今度は痛かった。
吹き付ける風は、いつもより冷たい気がした。
コメント
1件
うわぁ、めっちゃ気になる展開だ…!綾愛ちゃんの周りで少しずつ謎が絡み合ってきてる感じがたまらない。蒼眞くんのあの反応、絶対何かあるよね。それに“運命の人”って言う彼の涙、何かを思い出したのかな…。小指の約束のシーン、すごく切なくて心に残った。続きが気になる!