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#ファンタジー
芙月みひろ
94
設楽理沙
1,542
朝が来た。窓からは暖かくて眩しい光が差し込んでいる。今日は七夕祭。いつもは髪を下ろしているけど、今日は三つ編みにしていこう。そんなことを考えながら私は身体を起こす。
「綾愛さん、おはようございます」
「おはよー」
何事も無かったように、私は彼と接する。私が彼の運命の人なんて信じられないし、信じてもいない。運命の人に出会うことには憧れているけれど、会ったばかりの人にそんなことを言われたって実感が湧かない。けど、確かなのは彼と何処かで出会ったことがある気がすること。
「綾愛、私が今日はお弁当作ったよ!
七夕祭、去年は委員会で忙しくてあんまり参加出来なかったみたいだから楽しんできてね」
綾葉はそう言って、2つのお弁当を渡してくれた。言えない。もうお弁当は1つでいい、なんて。
いつもより早く学校に行って、屋上に行ってみたけど蒼眞はいなかった。昨日のあの短冊を見てから、ずっと蒼眞を考えていた。セロハンテープを剥がした跡が沢山あった。きっと、何度も何度も綺麗にくっつけようとやり直してくれたんだ。
まだ蒼眞をあまり知らないのに、話して間もないのに、どうしてこんなに蒼眞と話したいんだろう。どうしてこんなに考えてしまうんだろう。
「何してるの?」
教室に居ない私を気にかけてくれたのか、茉唯が屋上まで私を探してくれていた。
「なんもしてないよ、ただ空気を吸いたくて」
小さなため息をついた茉唯は、私の隣に座る。
「嘘でしょ。綾愛はここ2日間屋上で誰とご飯食べてるの?」
茉唯は怒ったような顔をしていて、少し面白い。黙っててごめんね、と私は言って全てを話した。3日前に私を励ましてくれた男の子と一緒にお弁当を食べていること、お弁当を作ってること、突然家に来た男の子を彼氏と勘違いされてお弁当を拒否されたことを。
「たった3日間でそんなことがあったの?なんでそれ話してくれないの、バカ綾愛」
「ごめん、なんか言いづらくて」
「…で、その一緒に食べてる人は誰なの?」
羽瀬川 蒼眞、その名前を口に出すのが妙に緊張する。まだまともに話してから3日しか経ってないのに、あんなに一緒にいて心地が良い人と出会ったのは初めてだった。どうにかして誤解を解いて、また一緒にお弁当を食べられたらいいのに。だってまだ、蒼眞のこと何も知らない。
「あ、なんか短冊が落ちてる」
茉唯は私のすぐ横を指差す。そこには、クシャクシャに丸められた短冊が落ちていた。拾って、少し罪悪感を持ちながらも気になってしまう自分の欲に負けて開いてみた。
“夢の中のあの子にいつかどこかで会えますように”
そんな願い事が書かれていた。
「これ、去年も書いてた人いたよね」
「茉唯、よく覚えてるね」
「いや、だって___」
「なにしてんの、そこで」
聞き覚えのある声で顔をあげると、蒼眞が立っていた。けど、昨日夏目くんの名前を出した時と同じように私を睨みつけている。
「蒼眞…!あのね、昨日の」
「どうでもいいから。それ、ゴミでしょ。貸して」
私の手から、するりと短冊が抜ける。
「それ、誰のか分からないのになんで捨てるの。ならせめて、ここに置いておこうよ。もしかしたら落としたのかもしれないし」
私は返してもらおうと、蒼眞の高い身長に抗ってみる。けど、やっぱりそれは本当に難しいもので、届かない。
「これは、意図的に捨ててる。くしゃくしゃだろ、要らないんだよ。俺が捨てとくから、もうどっか行け」
その一言で、私は腹が立った。私のことをわざわざ助けて、私の背中を押してくれたのに、昨日の一件で線引きすると意味わかんない。私の短冊は捨てても、丁寧に直して返すくせに。
「その人だって、その願い事を頑張って書いたかもしれないのに。茉唯行こ。ごめんね、こんなとこ見せて」
去り際に、蒼眞を見てみたけど、何処か悲しそうな顔をしていた。何かを思い詰めているような、そんな顔。
「…あの人がお弁当食べてる人?」
「そうだよ。けど、怒られちゃったの。夏目くんの名前を出してから」
「ダメだよ、羽瀬川の前で夏目の名前出したら…」
「え、蒼眞のこと知ってるの?」
茉唯は深刻そうな顔で、私にそう言う。七夕祭が始まるまで、あと30分。
「夏目と羽瀬川は、私と去年同じクラスだったの。仲が良かったんだけど、去年の七夕祭以降、全く話してなかったんだよね。羽瀬川は、学校サボることも増えたし、休み時間はどっか行くし」
私は、七夕委員会に所属していてその日はとても忙しかった。頑張って書いた短冊を飾ろうと思ってたら、どうやら作業してる間に落としたのか間違えて捨てたのか分からないけど手元になかった。結局、去年は短冊は飾らずにみんなの願いを見ただけだった。
「2人の間に何があったかは知らないけど、あんまり羽瀬川の前で夏目の名前は出さない方がいいよ」
夏目くんの、あの言葉の意味があと少しで分かるような気がした。
遠くで頬杖をついて、寂しそうにしている夏目くんに話しかけようと思って席を立つと、放送がかかった。
『只今から、七夕祭スタートです。屋上にある笹の葉に短冊を飾り付け、売店や出し物を楽しんでください!』
放送が終わると、教室で待機していたクラスメイトは一斉に駆け出す。騒がしいけど、楽しそうで微笑ましい。
「ねぇ綾愛、体育館で男女ペアダンスあるらしいよ?体育で練習した、ワルツだって!」
茉唯は目を輝かせて私にそう言う。行きたいって気持ちが表情から漏れてるよって伝えたくなるくらいに。
「じゃあ、そこ行こっか!」
体育館には、沢山の生徒がいた。男子が女子を選んで、踊っていくスタイルらしい。こんなの絶対に私は選ばれない。茉唯の周りには沢山の男子生徒が集まっている。私は、ただ見ているだけでいいやと思って、列を外れようとした。
「待って、俺と踊ってくれないかな」
手を掴まれ、振り返るとしっかりと髪をセットしている蒼眞がいた。いつもと違う雰囲気に、思わず目を逸らしてしまう。
「…蒼眞と私はもう友達?」
「え?」
「蒼眞、私と友達になってよ。蒼眞のこともっと知りたい。蒼眞のこと、全然分かんないよ」
何秒間かの沈黙の後、蒼眞は驚いたような表情を見せた。もしかして、変なこと言っちゃったかな。気まずくて、下を向くと蒼眞は笑っている。
「もう友達だよ」
蒼眞の顔を見ると、優しい表情だった。何かに悩んでいるようだったから。何かを抱えているようだったから、正直びっくりした。
「綾愛の彼氏が、嫌がるのはわかってる。けど、俺は綾愛と踊りたいと思ってる。ダメかな」
「…あの人彼氏じゃないよ?まあ事情があって私の家族と一緒に暮らしてはいるけど」
「え?そうなの」
「うん。蒼眞、昨日私の話聞かずに帰っちゃったから今日説明しようとしたのに」
大きなため息をついてあと、全身の力が抜けたのか姿勢が崩れている。
「そんな安心することなの?」
「いや、だって…」
「まあ、いいや!踊ろうよ、蒼眞」
私は蒼眞の大きな手を取って、体育館の真ん中にスタンバイする。高校生に、ワルツはハードルが高い。だからか、曲が始まった途端異様に緊張してしまって何度も蒼眞の足を踏んでしまった。どうしてこんなに緊張するんだろう。
「ごめん、いつもは上手く踊れるのに」
何度も踏んだ蒼眞の上履きは、少し黒くなってしまっていた。蒼眞はそれを見て、笑っている。優しい人だ。辺りを見回すと、茉唯はいなかった。スマホには、〈さっき踊った男の子、めっちゃイケメン!一緒にまわることになったから、綾愛も楽しんでね〉と通知が入っていた。
「ねぇ、短冊飾りに行かない?」
蒼眞にそう言われて、私はポケットに入ってる2つの短冊を思い出す。
屋上には、沢山の人がいて短冊を飾っている。
<志望校に合格できますように>、<お金持ちになれますように>、<薬剤師になりたい!!>とか素敵な夢ばかりだった。
「ねぇ、蒼眞は何を願った__」
蒼眞の手には、あのクシャクシャの短冊があった。
「これ、俺の短冊なんだ。ズボンに入れてたつもりが、落ちてたみたいで。俺も、綾愛と同じだな」
苦しそうに笑っている。怖がっているように。
「ねぇ、夏目くんと何があったの?」
勢いが落ち着いたのか、人が少なくなった屋上は静かだ。
「…たった一言で、俺は夢を見るのが怖くなったんだ。翔弥に言われた。変な願い事だ、そんなの叶うわけないだろって」
ボロボロの短冊を、強く握りしめている。今、何を考えているんだろう。
「悲しかった。冗談でも、辛かった。俺は、夢を見ることが好きだった。夢で会える、顔も声も分からないけど雰囲気が優しいあの女の子が、もしかしたらこの世界に存在するかもって信じてたから」
私はチクリと胸が痛む。なんで、こんなに私まで苦しいんだろう。
「翔弥は、俺が『1人くらい肯定してくれる人もいる』って言った後、すぐまた俺にこう言ったんだ。こんな願い事普通は書かないだろ、そいつもおかしいなって。俺は悔しくなって、あいつの短冊を破ったんだ。口論になって、それからはもう…」
私は、ポケットからボロボロの短冊を出す。
「一緒に飾ろうよ、本当のお願い事」
少し難しかったけど、短冊のリボンを結んで飾った。蒼眞も私の隣にクシャクシャの短冊を飾ったけど、その顔はやっぱり苦しそうだった。
「…いい願い事だよ。いつか絶対出会えるよ、その女の子に」
「そう言うと思ったから、俺は綾愛に願いを捨てて欲しくなかったんだ。去年も、そう言ってくれたから」
「どういうこと?」
___
「この願い事誰のだろうね?すごいロマンチックじゃない?!」
「ね、ロマンチックだ。誰が書いたんだろ?」
「やばくない?これ書いたの男なら、なんかキモいかも」
「そんなことないでしょ。人の願い事馬鹿にするくらいなら自分の願い事叶える努力しなよ」
「羽野さん、真面目すぎ。いつも思ってたけど、橘はよくこの子と仲良くしていられるね?」
「だって…こんなにも良い願い事なのに、その人の夢を傷つけるようなこと言ったらダメだよ」
___
同じ委員の子と茉唯の3人で、空き時間に見に行った笹の葉に飾られた願い事を見た時の事だった。
「あんまり覚えてないけど、確かにそんなこと言った気がする」
「その後、翔弥と色々あったから結局立ち直れなかったけど、嬉しかった。ありがとう」
蒼眞は、嬉しそうに私に笑いかける。その笑顔で、私の鼓動は早くなる。
「あの時、助けてくれたのは綾愛だって気づいたのは保健室で願い事を見た時だったんだ」
「私の願い事、知ってたの…?」
蒼眞は少し俯いて、そっと微笑んでいる。
「拾ったんだ。その時、綾愛は短冊を探してて、話しかけようとしたら走って何処かに行っちゃって」
困ったような顔をして、私の顔色を伺っている。そんなので、怒るわけないでしょ。
「夏目との出来事から俺はずっと、人と関わるのを避けてたんだ。否定されるのが、怖かった。だから人目のつかないここによく居た。けど、傷ついた綾愛を見て、助けたいって思った」
暖かい風は、私たちの短冊を揺らす。蒼眞の瞳の奥が綺麗で、誰かに似ているような気がする。
「ねぇ、一緒に探そうよ。その女の子」
「え?」
「蒼眞に願い、叶えて欲しい」
私よりもずっと高い身長で、少し長めの黒髪、目は大きくて、綺麗な顔立ちをしている蒼眞を見て、私は胸が高鳴る。
やっと、この気持ちの正体に気づいた。
きっと、私は蒼眞に恋をしたんだ。
私を助けてくれた蒼眞に。
「蒼眞には、幸せになって欲しいって思ったの」
私は、私の恋を叶えるつもりはない。
チクリと痛む、蒼眞が女の子を思う気持ちを無視する。
ただ、ただ幸せになって欲しい。それだけなの。
私の夢を、何度も受け止めてくれたから。
コメント
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お疲れ様です〜!!🌸 第5話読み終えたよ!もうね、過去の出来事がリンクした瞬間に鳥肌たったんだけど!?😭💕 去年の綾愛が蒼眞の願い事を守った言葉が、今の蒼眞を動かしてるの、エモすぎるでしょ…!!あと「もう友達だよ」からのダンスシーン、最高にキュンと来たよ🥺💞 綾愛が自分の恋を叶えようとしない切なさも、じわじわ来る…次が気になりすぎる!✨