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王都を出てから数日が経過していた。
「ここからは気をつけないとダメだよ」
「セイさんお願いしますね」
「任せろ」
何で俺が得意気にしているのかというと、魔力波を使うからだ。
俺達は今、徒歩で森の中にいる。
話は2時間ほど前に遡る。
「よし。じゃあ出るか!」
俺達は旅の道中に寄った町に泊まっていた。
この日も何事もなく旅を再開しようとしていた矢先、門に人が駆け込んできた。
「村が魔物に襲われているんです!助けてください!」
門の兵士に嘆願するが……
「どこの村だ?被害状況は?」
「テヌ村です!お願いします!今なら村を捨てなくて済みます!村民は無事ですが農作物が…」
「テヌ村…兵は出せん。必要なら冒険者に頼め」
えっ?助けないのか?
「そ、そんな…村の状況を知ってるんだろ!?不作で一度だけ税を納められなかったら見殺しか!?」
「悪いな。俺は命令には逆らえん」
何かしらの理由で不作だったのか。
確かに前回不作で納税出来なかったくらいで助けないのは酷いが、兵士にそれを言ってもな。
「セイくん…」
まさか、またか?
聖奈さんを見ると目で訴えるから…頷いちゃったじゃん……
「ちょっといいでしょうか?」
「ん?なんだあんたら?」
例の男は、怒りと悲しみで充血した目をこちらへと向けてくる。
「私達は冒険者です。お力になれるかもしれないので話を聞かせてください」
町の門の兵士にここで話すなと言われたので、大人しく村人と町を出た。
「冒険者っていってもな。悪いがうちの村に冒険者を雇う金なんかないんだ」
門から少し離れたところで会話を再開させた。
「まずは話を聞かせてください」
聖奈さんの迫力に、村人は吃りながらも経緯と現状を教えてくれた。
村では一年前から魔物の被害に悩まされていて、遂には税も払えなくなった。
税も払えないということは、金がない。
金がないということは、被害を改善するための冒険者を雇うことも、村を捨てて引っ越す余裕も無いと 。
「それまでに冒険者を雇わなかったのですか?」
金がなくなる前に対応するのは当たり前だよな。
「もちろん雇ったさ。だけど、いつまで経っても魔物は討伐されなかった。やがて冒険者を雇う金もなくなり、税も免除を頼むしかなくなった」
そうか。この辺りの冒険者が狩れないくらい元々討伐が大変な魔物だし、村の今後の納税額と兵を割く費用を、統治者は秤にかけたのか。
「それまでは税を納められていましたか?」
「当たり前だ!確かに裕福では無かったが、俺たちにとって少なくない税を払ってきたぞ!」
男は聖奈さんに食ってかかる。
「落ち着いて下さい。魔物の種類は?」
「ふぅ。空を飛ぶ魔物だ」
「わかりました!私達が無料でその依頼を受けましょう!」
「ちょっと待ってくれ。3人で話しをさせてくれ」
勝手に話を進める聖奈さんを引っ張って、馬車の反対側に行く。
「何でだ?」
「べ、別にワイバーンが見れるなんて、お、思ってないよ??」
わざとらしいなぁ。
「いや、別にそれは構わない。俺が怒ってるのは相談しなかったからだ。
別に偽善だろうが何だろうが、理由は構わんが、命や生活が掛かる場面で相談しないのはなしだ」
「ごめんなさい…」
「ミラン、どうする?」
聖奈さんがシュンとしたところで、我らが心のリーダーに聞く。
「一先ず見るだけなら構いません。出来ればセイさんにある程度の強さを測ってもらえれば尚いいですね」
「よし。聖奈。それで話をつけてきてくれ」
俺の答えに元気を取り戻した聖奈さんは、小走りで村人の元へと向かった。
時は戻り。
「反応があるな。でも、反応はそんなに強くないぞ?」
よくある亜竜種と呼ばれるワイバーンであれば、もっと強い反応なんじゃないかな?
「えっ?そうなの?ワイバーンって弱いのかな?」
「あのー。もしかしてワイバーンではないのでは?
村人さんは空を飛ぶとしか、言ってなかったですよね?
そもそもワイバーンだと、間違えてもドラゴンと言うのではないですか?」
「そうかもな。しかし、数は多そうだぞ」
反応は複数ある。移動速度が速いので、正確な数はわからん。
「そうなんだ…」
「がっかりしてるとこ悪いけど、どうする?ボランティアだから帰っても文句は言われないだろ?」
「いくよ!ワイバーンは違ってそうだけど、逃げるのは嫌だからね!」
「とりあえず見るだけな。無理そうなら即時撤退だ」
「はい」
俺達は反応のある場所へと近づいていく。
村にほど近い森の中で、ミランが立ち止まった。
「見えました。畑のところにいます。小さいですが…」
よく見えるな…まだ200mは離れているぞ。
俺と聖奈さんはスコープを覗いて確認した。
「ホントだ!思ったよりも小さいね。…蝙蝠?…を食べてる、でかい飛蝗だ!?…うえっ」
「50センチ以上はありそうだな…しかも飛ぶ速度も速いな…」
「セイくん。ここから魔法でドカンとやらない?」
動いていない最初の1匹には銃弾を当てられたとしても、飛び始めたら当てられる自信はないな。
「そうだな…気は進まないけどやってみるか」
俺は魔導書を開いて詠唱に入る。
『アイスブロック』
大活躍のいつもの魔法を唱えた。未だに暗唱出来ないが……
「木に隠れろ!」
「はい」「うん」
俺達は木陰から着弾を見守る。
ドゴーンッ
巨大な氷塊は畑のど真ん中に落ちた。
「やったね!」
「土煙が落ち着くまでは飛び出すなよ?」
「見える限りでは飛び立った個体は確認出来ませんでした」
さすリダ。あの中でよく確認していたな。
「よし。近づかずに確認しよう」
土煙が落ち着き、スコープを覗いて確認した。
「うおっ!気持ち悪いな…何でこんなに透明なんだよ…」
氷だから仕方ないけどさ…スコープにモザイク機能が欲しい。
「いゃぁあ。セイくん!キモい!まだ動いてるよ…」
おい!俺がキモいみたいに言うな!
「無傷な個体もいる様ですが…何故か集まってきてますね」
「いくら魔物でも、元が昆虫じゃあ知能は低いんだろうな。
もしかしたら仲間を食う為に集まってるのかもな」
魔物の発生原理や理屈に興味はないけど、頭が悪いのなら助かるな。
「あっ!」
不意に聖奈さんが声をあげた。
「どうした?」
「セイくん!あれを取りに行って欲しいの!」
あれ?まさかあそこの飛蝗の死骸じゃないよな?
その後、聖奈さんご所望の品を取ってきた俺は、飛蝗がいる畑に近づいて行き……
「くらえ!」ビュン
バル◯ンを投げた。
「うぉぉお!」
俺に気付いて、数匹の飛蝗が飛んでくる。
俺は走って離れるが、距離は縮まる。
そりゃそうだ。
「今です!」
ミランの掛け声で二人が木陰から飛び出してアー◯ジェットを噴射した。
俺達はゴーグルとマスクをしているので、フレンドリーファイアを気にせずに噴射した。
辺り一面に殺虫剤の白煙が立ち込める中、仲間の無事が気になる。
「大丈夫か!?」
「うん!弱ってる今のうちにトドメを刺そう!」
「大丈夫です!撃ちます」
俺達は地面に落ちてバタバタともがいている飛蝗へと、銃弾を撃ち込んでいく。
「終わりましたね」
ミランの言葉に周囲を確認した。
「とんでもない奴らだったな…」
「うん。嫌悪感が振り切れたよ…」
「?そうですか。昆虫系の魔物は油が採れるそうですが、手間に比べて…」むぐっ
何か嫌な予感がしたのか、聖奈さんが珍しくミランの発言を止めていた。
口を塞ぐという、物理的な方法によって……
「とりあえずそこら中に転がしたバ◯サンを回収しよう」
「魔石は…」ムグッ
またもや口を閉ざされた我らがリーダー。
確かにこいつらの体内から魔石を穿り出すのはな。
「魔石は村の復興の為に使って貰うから、良いんだよ?」
聖奈さんが凄い圧力を放ちながら、ミランに確認と言う名の命令を出した。
「わ、わかりました。流石セーナさんですね」
ミランは無垢なんだ。知らないことは知らない方がいい。うんうん。
俺は一人で納得しながら空き缶を拾うことに専念した。
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
安全が確認された後、村に戻ってきた村人達に見送られながら、俺達は旅を再開した。
道中馬車の中。
「セイくん。殺虫剤のストックはどうかな?」
「今日でほとんど使ったな」
虫が苦手な聖奈さんの指示で家に大量の防虫殺虫グッズを用意していて助かったな。
今も馬車の中では、蚊取り線香を焚いている。
「今日の夜は…無理だよね…」
「新月だからな。諦めろ」
聖奈さんはアー◯ジェットがないと禁断症状が……
タバコや酒よりなんぼも良いけどな。
今夜の野営は普段にも増して、聖奈さんの悲鳴が響いた。
あれ?地球には戻れないけど、虫がほとんど出ない家には帰れたな……
聖奈さんでもテンパると知能が下がるんだな。とか、考えていたら寝ていた。
月の神様。次の満月では話せたらいいな。
夢の中でそう願っていた。