ドイツ語以外のドイツ生活はもう慣れたもので、スーパーの買い物もバスも外食も、はたまた、週何度か開く朝市での買い物なんていうのも経験した。
もう出来ないものなんて無いだろうと思ったそんなある日。
やること一通りやって、外で一服していた。
私の喫煙は比較的人より早い。ささっと済ませてささっと戻ろうとしたときだった。
鍵がない。
ドイツの家、と言ってもいろいろあるのだが、大体の家、外側のドアノブは回らない。
じゃあどうやって開けるんだよ、と思うかもしれないが、わかりやすく言うとドイツでは(ヨーロッパでは、かもしれないが)鍵自体がドアノブのようなものなのだ。
鍵をさす、回す、回しながらドアを押す。そうしてドイツのドアは開く。
オートロックでセキュリティ的にも安心。
だけど一度鍵を忘れるとそれはもう手の施しようがないインキーというやつなのだ。
それをやってしまった。
当時の恋人はホテル勤めで遅番、帰りは大体23時。
現在時刻は昼の14時。春とは言え北ドイツ、かなり冷え込む中、9時間も外で待つのは無理だ。
そうなると、誰か通りすがりの人に助けを求めるしか無いか。
そう思い、右往左往していると、トイレットペーパーの件で助けてくれたおばちゃんが通りかかった。
しかし、今回の私は少し違う。
持ち物はタバコとライターだけ。先程も言ったが、私の喫煙は人より早く、スマホを見ながら、なんてゆっくりではない。
そのため、持ち物はいつも鍵と喫煙一式のみだった。
つまり翻訳機がないのである。
そしてこのおばちゃん、話せる言語はドイツ語だけである。
どうやってこの状況を伝えようとおろおろしてたら、おばちゃんが察してくれたのか、携帯を出してくれた。
「鍵を家に置いてきてしまい、入れないんです。」
「あら!それは大変!携帯貸してあげるから、電話しなさいな」
「この建物の管理者の番号などがわからないんです・・・」
するとおばちゃんは少し困ったような顔をして、何かをひらめいたようにパッと表情が明るくなった。
どこかに電話をかけ始め、ドイツ語であれこれ会話をしている。
電話を終えたおばちゃんが翻訳で
「50€(当時7,000円くらい)かかるけど、大丈夫?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、ここで10分くらい待ってれば、助けが来るわ!」
「ありがとうございます!」
そうしてにこやかにおばちゃんは去っていった。ありがとう、おばちゃん。
やることもないのでもう一服していると、今度は金のひげを生やしたアウトドアが趣味、という風貌のおじさんがやってきた。
ありがたいことに、このおじさんは英語が喋れた。
「やあ、鍵をなくしてしまったのは君かい?」
「はい、家の中に忘れてしまいました。」
「こっちのドアはそのままでは回らないからね、ドイツの人でもよくやるよ。じゃあすこしまってて」
そう言うと、おじさんは薄い下敷きのようなものを取り出した。
そして下敷きをドアノブ付近の開口部に差し込むと・・・
カチャ
セキュリティ的にも安心、と言ったな。あれは嘘だ。
そうしてなんとか家に入り、これで50€かーと悶々としていたが、相場を見ると割りと安めだったのでそれでなんとか納得するようにした。
ホテルとかだとスタッフも居るし、大丈夫だとは思いますが、インキー、危ないです。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!