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冬休みが終わって、3学期始めのホームルーム前の教室。久しぶりに会うクラスメイトと会って、懐かしいやら、新学期で始まる新鮮さか、複雑な気持ちである。
私、伊藤 紬(つむぎ)高校2年生。今年は進路を考えなくてはならない年頃ですが、進学するか就職するか考え中。
ホームルーム開始のチャイムが鳴ると担任の瀬良拓哉先生が現れた。席に座り、号令が掛かって挨拶をする。
「おはよう。明けましておめでとう」
「おはようございます。おめでとうございます」
とクラスの皆んなはバラバラと挨拶をかえす。
「このクラスでは数ヶ月しか居ないが、転校生が来た」
瀬良先生は入口の引き戸に顔を向けると、
「おーい、渡辺さん入って来て」
呼ばれた渡辺さんは教室に入って来て、周囲の男子はざわめいた。
「渡辺 梨里杏(リリア)です」
と名乗った彼女はとんでもなく、可愛かった。
あまりの驚きに開いた方が塞がらない。
シュナイザー様はワイングラスを鼻の辺りで回しながら香りを楽しむ。
「そんなに嬉しいか?」
「嬉しいとかそうじゃありません!」
楽しいディナーの時間にとんでもない爆弾。名付けて、シュナイザー爆弾。なんて言っている場合ではない。
「私が未来異世界で女子高生!?」
「おお、女子高生っていう言葉があるのか」
「いやいやいやいや、私、幾つだと思っているんですか?人間年齢25歳ですよ。今更制服なんて、犯罪ですよ」
「年齢は気にするな。姫に言って若返りの魔法をかけて貰うから」
「それなら良かった」
じゃない!
シュナイザー様は綺麗な所作でテーブルのステーキをナイフとフォークで切り分けると、私の口元に運び言った。
「リリア」
愛おしそうに私を見るシュナイザー様に私は「あぁ〜」そんな目で見られると断れないのよねぇと諦め口を開き肉を食べた。
「シュナイザー様、私が女子高生になってなにを知りたいのですか?」
ニヤリと笑みを作るシュナイザー様は肉を口に入れ暫くして言った。
「お前は魔王の事どの位知っているか?」
「魔王様といえばシュナイザー様ですけど、確かパパの話だと、他に3人いると聞きました」
「そうだ、俺を入れて4人。東の魔王、北の魔王、南の魔王、そして俺、西の魔王だ。それで、東の魔王マスティフの息子が城を抜け出して、未来異世界のお前の好きな東京のある高校に潜り込んでいる」
「家出王子のいるところは分かっているなら連れ戻せばいいんじゃないですか?」
「ああ、それは簡単なのだがな」
シュナイザー様は立ち上がると、私の横の椅子に座り顎を指で上げると、
「キスしていいか?」
と今までの話の繋がりと全く関係なく言った。
なになになに、イケメンにそんな事言われると断れないじゃない。
な、訳あるか!
「ダメです」
「だよな」
そう諦めたと思ったら、素早く唇を重ねた。
結局いつもシュナイザー様の好き放題。
私は彼に逆らえません。
唇を離すとシュナイザー様は言った。
「どこかでお前を見たらしい。帰るにはお前と結婚を望んでいて、俺の婚約者だと言っても諦めない。マスティフがお前に説得して欲しいそうだ」
「はぁ?」
意味わかんないんだけど。と私の気持ちを他所に、シュナイザー様は困惑した表情で
「悪いな断れなくて」
と頭をポンポンと軽く叩く。
「そんな…」
シュナイザー様とこ婚姻はお祖父様とシュナイザー様の約束だったとパパから聞いた。
今まで知らなかったのは、パパはそんな婚約無効だと思っていて、ずっと黙っていた。だけど、パパの思いとは反対にシュナイザー様は私を気に入ってくれて今に至る。パパは歯向かう事が出来ず、大叔母様にも相談したけど、大叔母様はむしろ賛成で結局破談にはならなかった。
私の気持ちは分からない。シュナイザー様も本気かどうかも分からない。だけど、頭をポンポンした時のシュナイザー様の顔が心配そうだったのは私の思い違いかな?とか思ったりしたのだった。
「渡辺さんはどこから来たの?」
休み時間。興味津々のクラスメイト達が美少女を囲い、仲良くなるきっかけを探っている。少し戸惑いながら梨里杏は答えるのであるが、その表情は周囲をドキドキさせる可愛さがあった。
「えーっと…。父が米軍に勤めているので、沖縄とか岩国とか、今回転勤で横須賀に来たので、母の実家の鎌倉に私だけ引っ越してきました」
「えー!お父さん米兵さんなの?」
身近に知らない世界が広がると、女子達は興奮気味に好奇心が顔を出す。
その光景を紬は遠目で見ていた。
皆んな珍しもの好きね。確かに渡辺さんは可愛い。お父さんが米兵と言うことは、ハーフでお母さんは鎌倉出身の人なのね。おそらく、渡辺は母方の姓なのか。
しかしあんな可愛い娘、彼氏が居ないわけがない。
紬は頭の中で梨里杏の彼氏を想像していた。
「きっととんでもないイケメンよね」
お昼時間になって、私リリアはクラスメイトの質問攻めを避け、校内を散策する事にした。目立つので、来る前に教えてもらった大叔母様直伝の存在を消す魔法を自分にかけて、ターゲットの我がまま王子を探す。
基本、魔界人の人間変化は美しいのが相場である。我がまま王子でもその美しさは隠せないだろう。校内をぶらぶら歩いてあると、1年生の教室に一際目立つ美少年を発見。
おやおやおや、シュナイザー様もビックリな美少年がいるではないか、周囲の目線も直視してはいないが、こっそり見つつ心奪われているぞ。
あの妖艶さは、間違いない。北の魔王が収めるセーベル国。一族は九尾の狐、で間違いないだろう。と、言う事で、見なかった事にして…と、教室を通り過ぎようとしたら、結界を張られ閉じ込められた。
「あぁぁぁぁ〜」
とやっちまったとばかりに声を出すと、背後から声が掛かる。
「ねぇ、朝からビンビン強固な妖気を漂わせてたのはあんたなの?」
とさっきの美少年の九尾の狐である。
「あらごめんなさいね。威嚇するつもりはなかったのよ。知り合いを探していて、妖気も気配も全く消して潜入しているものだから、逆に私のを垂れ流していたのだけれど。迷惑を掛けたわね」
「知り合い?」
「ええ、あなた知らない?東の魔王の息子」
「……。知らない」
嘘つくの下手ね。少し反応を見せる彼。
「そう。じゃあ彼に会う事があったら、リリア・ララドールが探していたと伝えてね」
「リリア・ララドール?!知らないって言っただろ…」
彼は目を軽く泳がせ不貞腐れたようにしている。
私は小声で
「結界打破」
と言うと結界が割れ砕ける。
彼は自分の結界が簡単に破られて驚いた顔をしている。シュナイザー様のように指パッチンで破れればカッコいいのだけど、ま、私も私で大叔母様に近い魔法は使える。負けてないと思う。
そして、何処かに隠れている我がまま王子に恐らく繋がりが出来たと収穫があった事に手応えを感じながら、自分の教室に戻るのであった。