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『廃棄物』の目的は……、誰しもが特別になれる世界を作ること……?
「ヒーロー、君は権能をどう思う?」
「どう思うって、オカルトみてえな不思議だってくらいしか……」
「そう、不思議。 普通じゃあない現象を、故意に発生させることのできる力、それが権能。 まるで魔法みたいな特殊能力だって思わないか? 俺は思ったよ、EXEから権能を貰った時、なんだこのリアルチートはって」
ジョン・ドゥは膝枕している白猫の隣に転がるヘッドセットのような仮面を拾い上げて、
「俺さ、子供の頃からずっと悩んでたことがあるんだ。 きっと俺だけじゃない、皆悩んでいること。 君も悩んだことないか? 自分らしさって何だろうってさ」
「自分らしさ?」
「君は学生だろ? もう進路は決まったか? 考えたことは? 自分のやりたいことは何だ? 長所ってどこだ? 自分に個性と呼べるものはあるのか? これかも、なんて思いついたところで、もっと凄い人間は世の中に沢山いる。 どこかの誰かの劣化コピーでは、長所や個性だと言い張っても、劣等感が付き纏う。 特別になりたい、特別にならなくちゃと渇望する。 自分に特別な点があれば、それを伸ばすのに。 自分を特別と認めてもらえる場所があれば、そこへ進むのに。 そう、特別さえあれば……。 俺はEXEに力を貰った時、遂に特別になれると思った。 これでやっと、こんなモラトリアムからはオサラバだって。 でも、仮面をつけた時に気付いた。 俺はかつて自分が劣等感を感じていた羨みの対象になっただけで、まだ世の中には山ほど自分らしさの所在に苦悩してる奴がいるって。 権能が世の中に蔓延すれば、全ての人が特別になれる。 特別が普通になる。 無個性が消え、自分らしさを獲得し、全員が救われる。 だから『廃棄物』を組織した。 『少数派』のような、権能の存在を独占する者たちの思い通りにはさせない。 俺たちは仮面を以て仮面を拡め、特別を身近にするため戦う。 きっと出来る。 俺みたいな無個性、特筆無しの廃棄物でも仮面持ちになれたんだ。 きっと誰だってなれるはずだ」
それはオレにも意味が分かるように、学生等身大の目線から語られた、理解のできない思想だった。
こいつは……、このジョン・ドゥという男は、権能を、性格や特徴のような、個人に備わった機能のひとつだと思っているのだ。
権能は特殊なものではない、異常なものなのだ。
血を使って武器を創ったり、人を操ったりなんていう他人を傷つける異常が、特別なんて持て囃されて良いわけがない。増してや、そんな危険なものが世間に拡まれば混乱が生まれるだろう。
大騒ぎになるのは容易に想像つく。
そんな未来を推進させんとする危険思想集団
……、『少数派』とはまた別ベクトルの社会危険因子、それがこいつら『廃棄物』なのだ。
「お前らは理解しているのかよ? その目的が叶ったとして、行き着く先は……!」
「混沌、だろ? ああそうだ、きっと行き着くは、一切合切ぐちゃぐちゃになっちまう程の混沌の如き戦乱さ。 権能が飛び交って、死傷者多出は当然、その渦中じゃあ、法律も倫理も利害も損得も道徳も背徳も生産も消費も一緒苦茶だ。 どんな神聖も瓦礫と臓物の上で川の字さ。 きっと火は日本の中だけじゃあ鎮火しない。 世界を巻き込む。 権能は戦略兵器になる。 大戦が起きる。 第三次世界大戦の火種となるだろう! でもさ……、もうそいつは仕方ない。 俺は魔王でもラスボスでもないけど、これだけは言える。 破壊がなけりゃ再建も発展も昇華もねえ。 それにどうせ、『少数派』が決起しちまってる時点で、遅かれ早かれ混沌は間逃れられんのよ。 ならば限りなくより良い形で後世を迎えられるようにするべきだろ?」
「そんな大戦争が起きちまうかもって分かってんのに、どうしてそれを止める方向に頭を向けねえ。 戦乱は避けらんねえけど自分たちの勝手な願いは通す? 命をなんだと思ってやがんだ。 特別を蔓延させる? 無個性が救われる? だからってそんなの、許されるわけねえだろ!」
「ヒーロー。 君、ロマンチストって言われねえ? 避けられない未来なら諦めて、より良い形へ指向する。 現実的だと思うけどな? 俺たちは混沌を加速させるだけであって、戦乱を求めているワケじゃない。 止めれるもんなら止めたいさ? でも原因は『少数派』にあるし、『分派』じゃあ彼らを根こそぎ止めるほどの力はない。 ……俺は、俺たちは、顔も知らん俺の似た者たちは、無個性の奴らは、特別になれなかった哀れな人間さ。 この哀れを拭うには、方法は二つしかない。 自分も特別になって残りの哀れな奴に苦悩を皺寄せるか、特別な奴から特別を取り上げて全員を普通にするか。 『廃棄物』は後者を選んだ。 戦後の、特別が普通な社会を目指した。 ただそれだけのこと」
聞いているうちに、自分が昂ってしまっていることを自覚した。
そうだ、ここは『廃棄物』の巣窟のド中心。このまま口答えを続ければ首をハネられたっておかしくはねえ、それほどに危険な状況下だったんだ。
死んでも夏をループするって異常が、理性を麻痺させちまってた。ここで抑える。これ以上の反発は、死傷を招く。
「ま、すぐに理解されると思ってないし、本題はこっから。 さっき、組織関係のことを知らないだろって言ったのは、『廃棄物』のほとんどは『少数派』から抜けてきた人間の集まりで、ラヴェンダーのことを知らないやつなんているわけがないからだ。 そこのキャンディーみたいな新参とかは例外だけどさ。 あの男はEXEに付き従い、『少数派』の参謀を担ってる。 その道を阻む『廃棄物』を敵視する。 俺らをずっと調べ続けて、潰す好機を探ってる。 このままならいつか、奴は『廃棄物』に辿り着く。 つまりよ……」
「……あんたらと一緒にいれば、直にラヴェンダーに会えるって言いたいのか?」
「テキストメッセージは先読み出来ちまっても飛ばさないのが通だぜ? ディオの洗脳と自己強化能力は初見殺しだ。 あれを攻略したってんなら、どんな権能を持ってたって関係なく、スカウト候補だぜ。 ラヴェンダーと会うのが目的ならさ、どうよ? 俺たちといれば狙いは叶うぜ」
「…………」
オレはラヴェンダーの所在を知りたかっただけだ。
それなのに、まさかこんな展開になるとは。
「ヒーローがラヴェンダーに会いたがる理由は容易に想像出来る。 奴の『椅子取り遊戯』の病に感染したろ?」
「……こちらの状況はお見通しってワケか」
「あんな無敵で恐ろしい力の持ち主に近づきたい理由なんてそれくらいしかない。 ヒーロー、君はこう考えてるだろ。 ラヴェンダーに近づいて、脅迫とか拷問とかして病気の解毒薬を奪い取れないかって。 残念だが答えは不可能だ。 奴の無敵っぷりを増長させてるのは、奴自身の慎重すぎる性格にある。 病にかけた相手の前には必要以上に顔を出すことはないはずだ。 だから今の君が奴と接触するには、『少数派』か『廃棄物』、どっちかに加担して尻尾探ってくしかねえのよ」
オレが仮面の界隈に入るなんて……
そんなの、それしか選択肢がなくったって避けるべき事案だ。
危険すぎて何が起きるか分からないし、今度は本当に警察に追われる側になる。皆に、迷惑がかかる。
「オマケにもひとつ、最高に絶望的なことを教えてやる。 ラヴェンダーは……、権能を二つ所持している」
「は……?」
「権能は一人にひとつ。 例外はないと思っていた。 ひとつの仮面でふたつの権能を扱えるなんて、見たことも聞いたこともない。 でも、奴は特別中の特別なんだ。 病を創り感染させる権能『椅子取り遊戯』の他に、詳細も分からない謎の力をひとつ」
「そんなの……、嘘だ。 あんたがオレを組織の手駒にしてこき使いたいがためについたハッタリだろ?」
「俺の権能を応用すると、他人が権能を持っているかどうかを知ることが出来るんだ。 確実な情報さ。 無敵のチーターがまだ力を隠してるって知って、まだ一人でどうにか出来ると思ってんのか? 俺達と協力するべきじゃねえ?」
今ですら手も足も出ない状況なのに、追加でもう一つ権能を隠しているなんて……、信じられないほどの絶望要素だ。
だがそれは、事実であれば、だ。
「……どーやら、信じて貰えないご様子で」
「ああ、悪いがお前らの仲間にはなれねえ」
「ふっ、安心したよ」
「安心した?」
「君が『少数派』からの密偵なら、今の誘いは懐に潜り込む好機。 断る理由がないはずだ。 だから安心したんだ。 君、本当にただの一般人だったんだな」
……ってことは、今のは鎌かけ?
オレの素性を炙り出すために並べられた、口上トラップだったのかよ!?
「いやー、なら更に興味が出てきたよ。 どこにでもいる普通の一般人が、どうやってヒーローになったのか。 どうだい、今度お茶でもさ」
「……すまねえが、オレには時間がねえんだ。 すぐにラヴェンダーを見つけてこの病気を治療させねえと、あんたとお茶に興じる機会は永遠に訪れねえ」
「命に関わる病か? そりゃあまた、酷い難病に感染しちまったみたいだな。 だけど安心しな、治療は出来ねえけど手術することならオレ達でも出来るぜ?」
ジョン・ドゥは白猫の頭にポンと手を置き、
「彼女はシュレーディンガー。 もう分かってると思うけど、仮面持ちだ。 才能は『行方不明』。 彼女が『箱』……、入れ物と見立てた物体の”中身”を分岐させ、中に入ってるモノが存在する世界線と、存在しない世界線のどちらに入門させるかを選ぶことが出来る能力だ。 いきなり言われても分かんねえだろうけどな、シュレーディンガーの力を使やあ、お前の肉体を『箱』として見立てて、体内の病原を存在しない世界線に入門させられる。 つまり、身体の中に宿っちまった病を強引に取り除くことが出来るっつーことだ」
「奴から感染させられた病気を、その子の能力なら治せるってのかよ……?」
「治すわけじゃあないな。 治療ではなく手術だ。 結局はお前の中から病は除去されるんだから似たようなもんだけど……、まあ細かいことはいいか。 で、だ。 ヒーロー、手術費代を貰いたいんだ。 こんなのはどうだ――――、」
溜めに溜めた手のひらをこちらに向けて、
「俺と友達になってくれないか?」