「た、只今戻りました」
「あ、おかえり鏡花ちゃん〜。と、火橋さん……」
「ふふ、私、白髪くんに見るからに警戒されてしまっているな。そこまで丸出しじゃ、流石に私悲しいなあ」
「え、あ、す、すみません?あと、僕は敦です」
「嗚呼、敦くん」
「敦くん、火橋さんは屹度君の思っている様な人物ではないよ」
「あ、太宰さん」
茶髪のもじゃもじゃだ。
「太宰さん、というのですね」
「ええ、ところで、火橋さん。嗚呼、とても麗しい人だ。どうか其の細くしなやかな指で私の首を絞めてくれ」
嗚呼、こういう系統の人か。
「私、人殺しには成りたくないですね」
「……其れは残念ですね」
まぁ、之からなるかもしれないのだけれど。
「私、鏡花ちゃんと仲良くしたいのですよね。なので直直此処に寄ってもいいですか?」
「え?ど、どうしましょう太宰さん……」
「ん?良いんじゃない?」
「でも、国木田さんとか怒りますよ絶対……」
「大丈夫だよ」
「ええ〜……」
「其れに、鏡花ちゃんも火橋さんとお話したいだろう?」
「……したい」
「嬉しいこと言ってくれるね鏡花ちゃん」
「だって、何だか、お姉さんと話していると……心が暖まる感じが、す、するの」
へーぇ、私は気持ち悪いとしか思えないけれど。
まぁ、之は私の
奇妙な能力のお蔭でもあるのだろう。
「そうなの。奇遇ね、私もなのよ」
今日、嘘を吐いた回数でギネス世界記録を更新出来る気がしたきた。
因みに、太宰さんと泉鏡花は先に事務所へ戻った。
「あ、あの」
「何です?敦くん、と云ったっけ」
「……僕、調べたんですけど、如何して貴女の母親をこ、殺した鏡花ちゃんと話せるんですか?」
「……おや、此処はデリカシーの無い方が多いようですね」
いけないな。少し殺気を漏らしてしまった。故に敦くんが怖気付いてしまっている。
気をつけないと、気が緩んできてる。
「す、すみません……!」
「……嗚呼、別に良いですよ。でもまぁ、そういうのは余り聞き過ぎない方がいいと思います。聞き過ぎると巻き込まれてしまいますから、私ですから良かったですけどね」
ふわり、と笑う。先程の殺気を誤魔化すように。
「……私の母親は、死んでもいいような、恨みしかない人間でしたから。差程母親の死に興味はないんです……驚きました?」
敦くんは口をあんぐりと空けて意味が分からないという顔をしている。
まぁ、其れもそうだろう。愛してくれる両親を何よりも欲していた敦くんだから、ね。
「……世の中は、愛で溢れている家族だけでは無いんですよ。解るでしょう?敦くん」
私の恨みも愛では無いもので生まれたけれど。
其れでも尊いものであったから。
私は、泉鏡花か、私の斧(命)を……落とすのだ。