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かんな
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学園祭三日目。
東のキャラバンのカフェブースで、イソトマはルシアンと向かい合って座っていた。
木苺ソーダのシュワシュワが心地良い。ベリーのパンケーキが美味しい。
けれど、ルシアンは笑っていない。
(僕も親し気に話しかけないほうがいいよね)
今まさに「他に好きな人がいるけど婚約者だから仕方なくイソトマの相手をしているルシアン」を演じている最中だ。
だからイソトマも「わかっていて付き合っている婚約者」になり切らないといけない。
(なんていうか、こう……冷めた感じ? 乾いた感じ?)
とりあえず、パンケーキとソーダに集中して意識を逸らした。
無心でソーダ水を飲んでいたら、一昨日と昨日の戦利品を思い出した。
(中津公国のGペン職人さん、会える機会あると良いな。早くGペンで絵を描いてみたい)
Gペンを使ったことがないのだが、扱いが難しいと聞いたことがある。
練習が必要だ。そう思うと楽しみで仕方がない。
「何か、嬉しいことがあったのか?」
「へ?」
突然、ルシアンに問われて、視線を向けた。
「とても良い笑顔だったから、ついね」
「え!」
自分の顔にペタペタと触れる。
どうやら、笑っていたらしい。
(笑っちゃいけないのに! 楽しそうにしちゃ、いけないのに!)
イソトマは頑張って笑顔を隠した。
「昨日、良い買い物ができたようだね」
「うん、そうなんだ! Gペンていってね、すっごく珍しいペンが手に入ってね! あれで絵が描けたら……」
またつい興奮してしまった。
イソトマは空気が抜けた風船のように椅子に萎んだ。
「詳しくはノアルに聞いてね」
「わかったよ」
ルシアンが笑いを堪えている。肩が震えて見える。
ちょっと面白くない気分になって、イソトマは頬を膨らませた。
「さて、そろそろ行こうか」
「はぁい」
立ち上がったルシアンの後ろを付いて歩く。
カフェでも、歩いていても、周囲の視線を感じずにはいられない。
(仕方がないし、それが目的でもあるんだけど、疲れるな)
注目されるのは、あまり好きではない。前世を思い出す前のイソトマなら、何とも思わなかったのに。
「ん? あれ……ルシアン、どこに行くの?」
考え事をしていたら、いつのまにか学園内の、貴族の個室がある棟に来ていた。学園祭の間は休憩などに使う生徒もいるが、基本は人気がないエリアだ。
ルシアンが、イソトマの手を握った。
「やっと手が握れる」
ルシアンが、イソトマの髪に口付けた。
触れたところが、何となくくすぐったい。
「そのために、こんなところまで来たの?」
手を握られたまま、おずおずと聞いてみる。
「そうだよ、と言いたいところだけど。そうじゃないんだ、残念ながらね」
ルシアンがイソトマの手を引いて部屋に入った。
「誰の部屋?」
「空き部屋だよ」
ルシアンが手招きした。呼ばれるままに、隣に立つ。
「ここから、覗いて」
ルシアンが指さした壁に穴が開いていた。中を覗く。隣の部屋が見える。
「これから、リリーがレイヴン商団のトップを連れてくる。その会話をここで聞くんだよ」
「えぇ!」
「そういう大声は、禁止だよ」
イソトマの唇に、ルシアンが指を添えた。
「ディルクも、よく見聞きしておいておくれ」
「承知しました」
離れた場所に立っていたディルクがイソトマに並んだ。
「でも、どうして急に。トップを呼び出すなんて」
レイヴン商団は学園祭に大型キャラバンを入れている。とはいえ、急すぎる気がする。
「急ではないんだ、リリーとレイヴン側にとってはね。この学園祭で、レイヴン商団は毎年、アスランズ国内の様子を観察する。国内の状況で、人身売買の闇市の時期を決めるんだ」
ドクリと、心臓が鳴った。
「人身売買の闇市って、アスランズ王国でやっていたんだね」
だから、ルシアンはこんなに躍起になってレイヴン商団を追いかけているのだ。
「王族を操るために、レイヴン商団はリリーを私の元に送り込んだ。この学園祭はレイヴン側がリリーと堂々と接触できるチャンスだ。逃すはずはない。リリーには、お土産もぶら下げておいたからね。必ず接触してくる」
「お土産?」
扉の向こうから、複数の人の気配がした。
「来たようだ。静かにね」
ルシアンが声を潜めた。
隣の部屋で扉が開く音がした。
イソトマは固唾を飲んで穴から隣の部屋を覗き込んだ。
コメント
1件
うわ、第33話読んだよ!「ルシアンとデート?」ってタイトルからして甘いのかと思いきや、ちゃんとスパイ要素あってめっちゃ良かったわ。イソトマがGペンの話でついテンション上がっちゃうとことか、ルシアンが笑い堪えてるのも可愛いし、その後の「やっと手が握れる」って髪にキスするところ、ドキッとした…。でも最後は闇市の話で一気にシリアスに!次が気になりすぎる🔥