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かんな
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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扉を開けて入ってきたのは、リリーと体格の良い男の人だった。
歳の頃、三十半ばくらいだろうか。日本の会社なら中間管理職とかしていそうなお年頃だ。
「クロウ団長、座ってよ」
そう促して、リリーが手前のソファに座った。クロウと呼ばれた男が、奥のソファに掛けた。
「これぁ、誰の部屋だ」
「俺に宛がわれている部屋だよ」
実際はただの空き部屋で、リリーの部屋ではない。
レイヴン商団の団長を引き込むために、仕立てた部屋だ。
「へぇ、御妃候補ともなると、庶民でも待遇が変わるもんだねぇ。ルシアンを巧く誑し込んでいるんだろうな」
クロウがニタリと口端を上げる。
心根の汚さが見える笑みだと思った。
「正直、手応えを感じてる。俺のために婚約者のイソトマを説得してくれた。イソトマも本まで作って祝福してくれてるよ」
「頭の悪そうな婚約者だな」
「うん、馬鹿だと思う」
ガン、と頭の上に石でも落ちてきた気分だ。
隣のディルクがさりげなくイソトマの頭を撫でてくれた。
一瞬だけ、ルシアンの視線を感じた。
「ルシアンには、イソトマとの婚約破棄と、俺との婚約発表を同時にやりたいって言ってる。時期はいつがいいかって、聞かれているんだ」
リリーが立ち上がった。
コーヒーを淹れると、クロウに出した。
「気を抜くつもりはないけど、巧くいってると思うよ。俺、クロウの役に立てると思う」
リリーが拳を握った。
「こっち、来い。リリー」
隣に腰掛けたリリーの頭を、クロウが撫でた。
「よくやった」
労いの言葉と共に、ひたすら頭を撫でる。
「お前を奴隷で買い取った時、刻印をしなくて良かった。魔種持ちは庶民でも王妃にだってなれる。お前の価値を証明してやりな、リリー」
「うん……」
リリーが、頭を撫でられながら俯く。
「いいか、リリー。お前は顔も綺麗だし、体も良い。次は体を使ってルシアンを誑し込め。逃げられねぇようにな。王妃として政治に関わる権限も、しっかりもぎ取っておけよ」
「わかってる」
あまりに酷い命令に、イソトマの胸が軋んだ。
リリーの表情がずっと晴れない。
(きっと今まで、ずっとこうだったんだ)
優しく撫でて褒めながら、体を使えと強制する。
リリーの表情は、耐えてきた子供の顔だ。
(こんな関係は、終わらせなきゃ)
仲間を消費するような商団から、リリーを救い上げないといけない。
「婚約破棄と、婚約発表の日、クロウの希望ある?」
「そんなのは決まってる。今年の闇市は二カ月後に決定だ。その日に被せろ。王室が婚約の話題で持ちきりの間に、こっちは人間の売り買いを終わらせておくよ」
イソトマは気が付いた。
ルシアンがぶら下げたお土産はこれだ。しかも、この情報はお土産以上に大きなリターンだ。
「わかった。ねぇ……クロウ団長。俺のこと、見捨てないでね」
まるで捨て猫のような目で、リリーがクロウを見詰める。
クロウがリリーの頭を撫でた。
「当然だろ。利用価値があるうちは、大事にしてやるよ。俺のために精々、ルシアンに愛されな」
クロウが優しい口調で、全然優しくない言葉を吐く。
これが日常会話なんだろう。反吐が出る。
(こんなの変だ。こんなの優しさじゃない。リリーがいるべき場所は、レイヴン商団じゃない)
イソトマの中に、確かな感情が生まれつつあった。
その隣では、ルシアンが口を引き結んで、リリーとクロウのやり取りを聞いていた。
コメント
1件
第34話、読み終えました……。クロウの「優しい口調で全然優しくない言葉」という描写、心に刺さりました。リリーがずっと耐えてきた子供の顔をしていたところ、そしてイソトマが「こんなの優しさじゃない」と気づく流れが、読んでいて胸が苦しかったです。リリーの居場所はここじゃない、と静かに決意するイソトマの視点がとても良かった。次が気になります!