「…レン」
『どうした?みなと』
「まだ、逃げるべきじゃ無いのか?」
『……うん。にいちゃんがどれだけくるっているか、おまえはわかってるだろ?』
「そうだな…」
『おまえをさがすために、にいちゃんはしゅだんをえらばない。おまえとかかわったひとをころすかもしれない』
俺は、段々レンと会話できるようになっていた。
レンはやっぱり悠斗の弟で、悠斗によって殺された彼女のために首を吊って自殺したらしい。
レンの代わりとなる弟の存在が、俺だった。
そのことをレンは何度も謝った。
俺は、正直許せない気持ちがあったけど、レンの過去を考えたら責めることなんてできない。
レンは意外と慎重派で、なかなか秘密の抜け口から逃亡する機会を言わなかった。
「まず、この足枷をどうにかしないとな……」
この足枷は鍵がついていたりしているわけではなく、ぴったり溶接されているように見えた。
今までだったら、俺一人の頭脳で何とかしなければなかった。
でも、今は違う。
レンがいるんだ。
「レン。この足枷の外し方、知ってるか?」
『うん。…でもそれ、むずかしいやつ』
「え?」
『しくみはかんたんだけど…、はずすまでがむずかしい』
レン曰く、この足枷は溶接されているように見えて、よく見たら薄っすらと線のようなものがあるらしい。
それが足枷の着脱部分。
つまり、足枷を両手でしっかり掴んで、左手を上に、右手を下にずらすと、外れるらしい。
やってみると、思いの外簡単に外れた。
…………まあ、着脱部分の線を見つけるまでに二十分ほどかかったが。
とにかく、これでいつでも逃げれる状態になった。
残りは逃亡後の居場所確保などの細かいことだけだ。
『…みなと、!にいちゃんがきてる!』
「!」
数秒後、レンの言うとおりに悠斗が入ってきた。
「湊、おはよう」
「…おはよ」
「今日はいい天気だね。とっても晴れてる」
「…うん、そうだな」
ああ、まただ。
また、レンが悠斗を悲しそうな表情で見つめてる。
レンは今の悠斗を見て何を思っているのだろう?
『……にいちゃん。おれは、…ここにいるよ』
レンが何度話しかけても、悠斗にレンの姿は見えないし声も聞こえない。
「ねぇ、湊。こんなにいい天気だからさ、外出てみない?」
「……………………え?」
俺は思わず、悠斗の顔を二度見した。
さっき、悠斗が言ったことは本当か?俺の空耳か?
「だから、外に出てみない?」
「い、いい、のか?」
「うん。最近の湊はいい子だからね。俺の車から出ちゃ駄目っていう条件付きだけど、ストレス発散にもなるしね」
俺はバレないようにレンを見た。
レンは『みなと、いくっていって!』と嬉々として賛成した。
「…分かった。行く」
「ん。じゃあ決まりだね。明日の午後くらいに行こうか。何処に行きたいかだけ考えておいて」
「ああ」
俺は、悠斗が出て行ったことを確かめると、レンと向きあった。
「おい、レン。どーすんだよ?」
『ていさつのちゃんすだよ』
「偵察?」
『うん。ここで、あえておとなしいふりをみせながら、だっそうしたときににげこむばしょをさがすんだよ』
「なるほどな…」
その日の夜は、レンと声を潜めながら作戦会議をした。
脱走するのはもう目前だ。
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