コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
しばらくするとクスリが切れたのか、それに反応して体が微かに震えた。
「・・・」
目の前のバケモノもクスリが切れたからか、最初の時と同じようにボーっとし始めて、憎たらしく思えた。
「・・・さっきの契約だけど、良いわ、サインしてあげる。」
どうせ私は地獄へ堕ちることが決まっているんだ。それなら、いっそのこと周りも道連れにしてやる。
了承を得れたことが嬉しかったのか、バケモノはニコリと不気味に笑った。
「それじゃ・・・改めて自己紹介・・・俺、柳シンドウ。心に童話の童で、心童。」
これから出来るだけ、末永くよろしくね。
なんて、プロポーズに似た見えない束縛を約束させるかのように差し出された手を、私は強く握り返した。
「・・・そろそろ戻ったほうが良いわ。疑われちゃ、この契約も水の泡だもの。」
そう言うと納得がいったのか、それとも命令だと感じたのか、柳は頷くと部屋を出ていった。
はあ、その場で座り込み溜息を吐く。
そうすると、空気になぞられた気がした。優しく、優しく、壊れものを扱うかのように、するりと肌を撫でられる。妙に冷えていて、怖くなったが、その手を振り払うことはしなかったし 、出来なかった。
「・・・側にいてあげる、ね。」
不意に、彼が言った言葉を思い出した。
人は、必ず誰かに依存している。それは親でも、己でも、友人でも、ネットにも言えることだ。要は、私もきっと、言葉を思い出してしまっている時点で彼の言葉に縋っているのだろう。ああ、なんて、なんて・・・
「側にいれるわけ、ないのにね。」
なんて自嘲して、私も部屋を出た。
「あ、戻ってきた。」
暖炉の場所へと戻ると、毒舌の物体が私に気付いた。
「・・・そういえば、佳は?」
柳が異変に気づいたのかそう聞いた。確かに見てみれば、あの物体の姿はどこにも感じられなかった。
「あれ、いつの間にクスリ切れてたのさ、珍しい。しばらくそのままで居たらどう?というよりそのままで居てよね、キマった状態で喋られると面倒くさいから。」
「おいおい志津、そんな言い方ないぜ!それと柳!佳なら無言でどっか行ったっきり帰ってきてないぜ!!」
一斉に喋るなよ、うるさいなぁ。なんて思いながらも元気な物体の言葉にどこか引っ掛かった。行ったっきり帰ってこないなんておかしい。いや、そもそも無言で行くこと自体がおかしいのだが。
「・・・え、何、この雰囲気。まさか探しに行くとかじゃないよね?ヤダよ、面倒くさい。柳も言ってたけど足枷は置いていったほうが良いんでしょ。それなら置いていこうよ。」
俺もう眠いんだよね。と欠伸する物体を横目に外を見てみれば、太陽はもう沈みかけていて、少し薄暗くなっていた。
「・・・いくら暖炉があるとはいえ、夜は寒いわよ。」
そう言うと物体はきょとんとした顔をした。
「え?もしかして毛布の1枚や2枚すら持ってきてくれないわけ??なら持ってきて。はい、これで持ってきてくれるよね?」
ああ、面倒くさいことを言ったな、と耳を塞ぎたくなった。この物体と話すとろくなことがない。だから嫌いなんだ、こういう奴らは。
勝手に人の家をほっつき歩いたり、意味のわからない契約を持ち込んだり、変に正義感だけは一丁前に持ってたり、何かあるとすぐに泣いて助けを求めようとしてきたり、もてなされる事が当たり前かのように言ってきたり。無性に髪を掻きむしりたくなった。
「・・・分かった、分かったわ。持ってくるから、勝手な行動はしないで頂戴。」
「あの正義感バカは知らないけど、少なくとも俺は動く気ないから、早く行って。」
そう急かすような文句だけを残して、物体はソファに座りだした。
ふつふつと込み上げる怒りをどうにか抑えて、暖炉の場所からほんの少し離れた場所にある部屋に入り込んだ。
「・・・まあ、このくらいあれば良い方ね。」
少し多めに取り出した毛布を見て思った。
効率よく運ぶにはどうしたら良いか。
生憎、私は目の前にある少なくとも10枚くらいの毛布を一気に運べるほどの力は無く、かといってわざわざ往復してまで運べるほどの気力もないため、どうするか考えていた。
毒舌の物体、アイツはダメだ。どうせ動いちゃくれない。
弱い物体、アイツも無理。私が何をするか分からない。
柳、彼は……ダメね、途中でキメられたらたまったもんじゃない。
まだマシな正義の塊の物体を呼ぼう、と立ち上がると、後ろから声をかけられた。
「それ、持ったほうがいいやつ?」