コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
後ろを振り向くと、そこには出てきた候補の誰でもない。最初に出会った物体が、ただこちらを見ていた。
「・・・生きてたのね」
「そりゃ、生きてるよね。なに?死んだほうがよかった?それとも、向こうのバカ共が勝手に僕のこと殺してたりするの?」
「・・・」
「無言は肯定と受け取っておくよ。見た感じ、後者っぽいね。一番最初に僕を殺したのは誰?真衣?まあ十中八九、真衣だろうね。アイツ、時間に厳しそうだもん。遅刻とかするとすーぐ怒ってきそう。僕そういうの嫌いなんだよね。」
ハハハ、と、まるで文字を読んだだけのような無機質な声で物体は笑っていた。
「それで、結局のところ、それは持ったほうがいいの?それとも放っておいて戻ってもいい?」
「・・・手伝ってくれると、嬉しいわ。」
「そ、なら手伝ってあげる。僕は優しい人間だからね。」
ありがとう、とは言わなかった。
暖炉の場所まで戻る時も、物体はずっと話しかけてきた。
「てか、柳と一緒に部屋に行ってたけど、何かされたりしたの?」
「別に何も、柳と少し二人で話したかっただけ。」
「ふーん、ま、僕には関係ないしいいや。というか、柳のことは柳って呼べるんだ。なに、やらしいことでもしたわけ?」
ディープキスとか?とニヤニヤ笑う物体を少し蹴ると、痛くもかゆくもないのか、更にニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだった。
「てか、君って人に興味あったんだ。僕はてっきり、人にも名前にも何にも興味を示さないと思ってたのに。」
それとも、柳だけは特別だったりするの?
「・・・黙って毛布を運んで」
「はいはい、分かったよ」
それだけ言うと、向こうも話す気は失せたのか、そこからはただ、無言の空間が広がっていて、時折少し冷えた風が私たちの肌を掠めるのだった。
「あ、帰ってきた。なんだ、佳も生きてたんだね。」
「うん、勝手に君らに殺されてたらしいけど生きてるよ、どうせ真衣が言い出したんでしょ?」
「んー・・・あー、うん、真衣が言った。」
「え…?わ、私言ってない、言ってないよ!そんなこと!!」
毛布をわけていると、声をあげる弱い物体。確かに、過去の会話を振り返っても、弱い物体は一度もそんなことは言わなかった。なんなら、一度も声を出してすらいなかった。
まあでも、どうでもいいかな。なんて思ったから、助けたりはしなかった。私が助けたところで何か良いことがあるわけでもなければ、物体から何かしてもらえるわけでもない。つまり、私が助け舟を出したところで利益が返ってこないのだ。それなら、利益が要らない分、こちらからも提供しないほうが、よっぽど良い。
「・・・時間」
柳がそう呟いた。その呟きにつられて時計を見てみれば、時刻はもう夜の11時になろうとしていた。
「・・・ここで寝ても構わないけれど、少し向こうに部屋があるわ」
「へぇ、僕はいいかな、ここで寝るよ。部屋で寝たいけど、いびきに挟まれでもしたら嫌だし。」
そう言うと、毒舌の物体も、確かに、と気持ちが浮き出たのか眉間に皺が寄っていたが、部屋で寝たい気持ちのほうが強かったのか、溜息を吐きながらも奥の方へと向かって行き、それに続いて他の物体たちも歩いていった。
「君は行かないの?って言っても行くか。柳の部屋でナニかするの?」
「・・・貴方、そろそろ殴るわよ」
「冗談冗談、そんなに怒らないでよ。まぁ、僕から君に一つだけ話をしてあげる」
早足で歩く足が止まった。だって、その声がとても辛そうな声だったから。振り返ると、目の前の物体は笑っているのに、どこか悲しそうな顔をしていて、口から息が静かに飛び出した。
「もし、もしもの話だけれど、今日の深夜、君の部屋にノックがきたならば、絶対に開けないほうがいい。まあ、君が死を望んでいる人間なら、話は別だけどね。」
いい?もう一度言うよ。今日の深夜、絶対にノックされてもドアを開けないでね。