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・さねぎゆ
・任務するだけの創作
「おい、不死川」
「…あァ?なんだあテメェ」
「……いや…。気のせいだった。すまない」
「…ったく、話しかけやがってェ」
「…………はぁ」
ずかずかと通り過ぎていく不死川の背中。
鋭い目つきが俺につき刺さる。
……俺は嫌われてない。
いや、不死川には確実に嫌われている。
それでも。
嫌っている相手を命を懸けて守れる奴でもあると、俺は知っている。
「……よく来てくれたね」
「…御館様の頼みならば」
「以前、十二鬼月が潜んでいた那田蜘蛛山で、新たな鬼が縄張りを張っていると、報告があった」
「……!」
「送った隊士たちは、ほとんど殺されてしまった。 強力な鬼がいるに違いない」
「柱を行かせなくてはならない。義勇、実弥」
「御意」
「チッ、なんでコイツと組まなきゃなんねェんだよ」
「……御館様が仰るのだから我慢しろ」
「…ンなことわかってる」
記憶に新しい那田蜘蛛山。
しかし、その雰囲気は明らかに違っていた。
「…なんだァこの気配は」
「……」
「お前、足引っ張ったらブチ殺すからなァ」
「……そうか。気をつけよう」
この時、すでに2人とも血鬼術にかかっているとは気づいていなかった。
「……!?」
「…冨岡。急に立ち止まるとはなんだァ?」
「……錆兎が、…錆兎が、見えるんだ」
『…なんで、まだお前は生きているんだ』
「……!」
『義勇があの時死んでいれば。俺は柱になれていたかもしれないのに』
「……」
幻影を見せる血鬼術か。……いや、違うな。
この声は俺の心に巣食い続けているものだ。
周囲に鬼の姿は見えない。 不死川の気配もどこにもなかった。
「…先に仕掛けられた」
『どうして蔦子姉さんを庇わなかった』
「……お前は錆兎ではない。関係ない話だ」
『またそれか。お前はいつも逃げてばかりだ』
「……」
『逃げるんだな、義勇。お前には飽き飽きだ』
「……やめろ」
その時、錆兎の形が変形して鬼が姿を表した。
その瞳は、俺の内側までを見透かしているようだった。
「過去の悪夢を見せるだけで、人間は簡単に壊せる……」
「幻だけじゃねぇ…。俺はその人間の心の痛みを実体化するのさ」
その瞬間、樹木の隙間からツルが伸びて俺の脚にまたたく間に絡みついた。
「……!?」
しくじった。動けない。
「冨岡ァァァ!!」
「風の呼吸・壱の型ーー塵旋風・削ぎ!!」
風がうねり、ツルが千切れる。
「……!不死川…!?」
「突っ立ってんじゃねェ!!飲み込まれるぞ!!」
「あの糞野郎……俺の家族を利用しやがって!!」
まただ。
俺はまた…仲間に助けられている。
「……すまない」
不死川は鬼への怒りを露わにして、肩を上下に震わせている。彼にも幻を見せたのか。
「いいねいいねぇ…あの柱でさえ、感情に負けてこのザマだ」
「もっと思い出せ…お前らの見た悪夢を」
瞬間、地面がうねる。鬼の手からツルが這い、不死川の周囲を囲む。
「不死川。動くな」
「ンだと無理言うな!!」
「…あれは感情を刺激して行動を読んでいる。不意をつかれるぞ」
「糞が……ッ!!わかってんだよ!!」
そう言いつつ、不死川は踏みとどまっていた。やはり、信頼できる男だ。
「水の呼吸・肆の型ーー打ち潮!!」
「失った者の痛み…どれだけお前らを憎んでるのか教えてやるよぉ……」
鬼が突進してくる。それはただの突進ではなく、心を逆撫でする言葉が刃のように乗っていた。
「全員死ねばよかったんだよぉ…!!」
「殺られんじゃねェぞ冨岡ァ!!」
不死川は、自らの腕を切り裂いた。濃い血の匂いが霧中へ広がる。鬼の瞳が見開かれる。
「へ…、う、うわあぁあッ!?」
鬼の動きが鈍る。不死川の稀血が効いてる。
その隙を見逃さなかった。
俺の刃が鬼の脚を斬りつける。その隙に、不死川が腕を断ち斬る。
「キズだけじゃ足りねぇ…っ感情を、もっと感情を」
「……もう十分だ」
俺たちの中には確かに痛みも、喪失もある。
でもそれは、弱さじゃない。痛みは、体を動かす原動力となる。
「…合わせるぞ、不死川」
「あぁ。遅れんなよ、水柱ァ!!」
「水の呼吸・参の型ーー流流舞い!!」
「風の呼吸・参の型ーー晴嵐風樹!!」
水と風が交差する。
その瞬間、鬼の頸が斬り落とされた。
霧が晴れ、静寂が訪れた。鬼の体が崩れるのを横目に、不死川の方を向いた。
「……助かった。不死川」
「お前が置物みてェに静かで助かったぜ…」
「……それは、褒めているのか?」
「褒めてる訳ねェだろうが!いつも葬式みてェな顔しやがって!!」
「悪かったな…」
「……でもまあ」
一瞬だけ、不死川がこちらを見た。
怒っているようで、どこか和らいだような表情だった。
「こういう時は、お前みてェな冷静な奴がいると安心するよな」
「……そうか。それはよかった」
不死川の背は、さっきよりも少しだけ近くに感じた。