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静かに部屋に入り、ベットに近づく。そこに横たわっている小さな体、すっかり温かくなってしまった額の濡れタオルを変えるため、額からそれを取り去る。
ふっ、と意識が浮上したのか熱で潤んだ蒼い目が薄く開く。
「あ……にき……」
声はかすれていて、息も荒い。風邪の辛さを物語っている。
キルが風邪をひいた―
それを聞いた時、何故か純粋な驚きと懐かしさと少しの嬉しさを感じたような気がする。
新しい濡れタオルを額に乗せてやると冷たくて気持ちいいのかふ、と息を吐いて軽く脱力する。
久々の風邪でキツイのか完璧にダウンしてしまっている。
半開きの目を閉じさせるように手を目に当ててやる。
「……兄貴の手……冷たくて気持ちいい……」
そうしてされるがままになっている、いつもなら払い除けているのに。
「キル、薬はちゃんと飲んだ?」
「ああ……相変わらず苦くて不味かったから飲みたくなかったけどな」
「苦いから飲みたくないなんて、キルもまだまだ子供だね」
「……うっせ」
その小さな口から出される言葉に元気な頃の勢いはなく、何かを言おうとすると言葉に咳が混じってうまく喋れていない。
「キルが風邪をひくなんて、久しぶりだね」
「まあね……もう風邪なんかひかねーと思ってた…」
「うん。俺も、また風邪ひいたキルの看病できるなんてね」
「…なんか嬉しそうでムカつく」
少しムッとした口調で自身の目を塞いでいた俺の手を緩くどかした
「もういいの?キル。」
俺の手を見るキルの目が若干の名残惜しさを訴えていた。
「ん、もう十分だし、ここに長く居ると兄貴に風邪がうつっちまうぜ…?」
少しこちらから顔を背けながら発せられた心配の言葉は、いつも通り俺を自分から遠ざけようとする言い訳に過ぎないが響きに本心から一応、心配していることがわかった。
……例え風邪であろうと他人に感情を、心を見せるなんて。本当にまだまだ未熟だね、キル。
「変な事言うね、キル。キルが風邪ひくのだって珍しいのに俺がひくわけ無いだろう?」
「っ万が一ってことだってあるだろ!」
わかっていたとしてもやはり指摘されるとムカつくのか一向にこっちを向こうとしない。
そんな小さな反抗にクス、と形だけのような笑みをこぼしてしまう。
「じゃあ俺はもう行くね。何かあったら誰か呼ぶんだよ?」
「わかってる……」
「余計な心配と情けは、心の油断だよ、キル。」
「…………」
「次からはソレ、見せないようにね。例え実の兄の俺であっても。」
そう忠告して、部屋を出る。
「……実の兄貴くらい、心配したっていーだろ…大嫌いなイル兄でも。家族なんだ。」
そんなキルのつぶやきも、聴こえないフリをして。