コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
卒業式の日、クラス全員でボウリングに行った。あの日の空気はいまでも覚えている。
少し大人びたような、でもまだ子どものままの笑い声。
私は順番を待つ間、友達と二人で荷物を持って別のフロアへ向かっていた。
その時だった。
「もう帰るの?」
ふいに後ろから声がした。
振り向くと、彼が立っていた。
私の名前を呼ぶでもなく、ただ自然に。
驚いた。
彼が直接話しかけてきたのは、それが最初で最後だったから。
一瞬、返事が遅れた。
「まだ帰らないよ」
そう言うのが精一杯だった。
それで会話は終わった。
たったそれだけ。
でも、不思議と心の奥が温かくなった。
嫌われていたと思っていたのに、最後の最後で話しかけてくれた。
何を思っていたのか、今でも分からない。
けれど、あの瞬間の彼の声だけは、今もはっきり覚えている。
⸻
あの日の声は、私の時間を止めた。