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まきぴよ
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みら

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kaede🍁
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阿部は、紙の一番上に書かれた文字をしばらく見つめていた。
『めめと一緒にやりたいこと』
「……こんなの書いてたんだ」
小さく笑う。
書いたこと自体は、何となく覚えている。
でも。
何を書いたのかまでは、ほとんど覚えていなかった。
阿部はその場に座り込み、紙を膝の上へ広げた。
最初に書かれていたのは。
『二人で旅行に行く』
阿部は少し目を細める。
「行ったなあ」
一度だけじゃない。
二人で出掛けたことが何度もある。
次。
『一緒にスーパーへ買い物に行く』
「これも」
今では普通のこと。
目黒がカゴを持って。
阿部が必要なものを入れて。
目黒が勝手にお菓子を追加して。
阿部が「また入れてる」と呆れる。
そんな時間が。
昔の自分にとっては。
わざわざ紙に書き残すほどの願いだった。
『めめの好きな料理を作れるようになる』
今日。
作ったグラタンを思い出す。
目黒はいつも。
阿部が作ったものなら何でも嬉しそうに食べる。
「……これも叶ってる」
次。
『朝起きた時、隣にめめがいる生活をする』
阿部はゆっくりベッドを見る。
目黒が眠っている。
すぐそこ。
手を伸ばせば届く距離。
毎朝。
当たり前みたいにいる。
阿部の口元が少し緩んだ。
「これも」
一つずつ。
読んでいく。
『めめが帰ってきた時に、おかえりって言う』
『一緒に家具を選ぶ』
『誕生日を毎年一緒に祝う』
『二人で写真をいっぱい撮る』
『お揃いのものを持つ』
叶っている。
ほとんど全部。
昔の自分が。
いつかできたらいいなと思っていたことを。
今の自分は。
もう普通の毎日の中でしている。
阿部は少しだけ不思議な気持ちになった。
「あの頃の俺に教えたら、びっくりするだろうな」
女になることも。
あんな事件に巻き込まれることも。
目黒と一緒に暮らすことも。
何度も泣いて。
喧嘩して。
離れそうになって。
それでも。
まだ隣にいることも。
何一つ。
想像していなかった。
紙を下へ辿っていく。
『めめが落ち込んだ時は俺が支える』
阿部の指が止まった。
今日。
自分は。
支えてもらってばかりだった。
踊れなくて。
歌えなくて。
泣いて。
目黒に抱きしめてもらって。
メンバーにも待ってもらった。
阿部は少し俯く。
「……俺、全然できてないじゃん」
その言葉を口にして。
すぐ。
違うと思った。
今まで一度も。
目黒を支えてこなかったわけじゃない。
目黒が疲れている時。
悩んでいる時。
仕事で落ち込んだ時。
隣にいたことだってある。
支えるって。
いつも強い側でいることじゃないのかもしれない。
支えてもらう日があって。
今度は自分が支える日がある。
それで。
いいのかもしれない。
さらに下。
『何も予定のない日に二人でだらだらする』
思わず笑った。
「めちゃくちゃしてる」
休日。
二人でソファから動かなくて。
昼を過ぎても部屋着のままで。
目黒が阿部にくっついて。
阿部が「暑い」と言って。
それでも離れない。
そんな日。
昔の自分は。
それすら夢だったらしい。
そして。
少し下に。
見慣れた言葉があった。
『できるなら、めめと結婚したい』
阿部の視線が。
自然と壁へ向く。
額に入った婚姻届。
自分の名前。
目黒の名前。
二人で。
生放送の最後に数秒だけ見せてしまったもの。
阿部の顔が少し熱くなる。
「……これは」
叶ったと言っていいのか。
法律上。
どういう形になるのか。
未来のことはまだ分からない。
それでも。
あの紙には。
二人の名前が並んでいる。
昔の自分が見たら。
きっと。
それだけで泣くと思う。
その次。
『婚姻届に二人の名前を書いてみたい』
阿部はとうとう笑った。
「書いたよ」
それどころか。
全国に見せた。
しかも。
目黒までやった。
思い出しただけで。
今でも恥ずかしい。
「そこまでは望んでなかったと思うけど」
小さく笑う。
そして。
最後の方。
少しだけ字が小さくなっている。
『めめと一緒に年を取りたい』
その下。
『おじいちゃんになっても隣にいたい』
阿部は。
少しだけ息を止めた。
今の身体では。
昔想像していた形とは違うかもしれない。
それでも。
意味は同じだった。
歳を重ねて。
仕事が変わって。
環境が変わって。
今みたいに踊れなくなる日が来ても。
隣にいたい。
目黒と。
その下に。
もう一つ。
『めめより長生きする』
阿部の指が止まる。
さっき本棚へ戻した封筒を思い出した。
遺書。
もし自分に何かあった時。
目黒へ残そうと思って書いたもの。
何度も。
先にいなくなることを考えた。
阿部はその文字を見つめたまま。
しばらく動かなかった。
「……これ」
ちゃんと守らないとな。
今度こそ。
そう思った。
一番最後。
少し間を空けて。
一行だけ書かれている。
『めめとずっと一緒にいたい』
阿部は。
その言葉を見た瞬間。
何も言えなくなった。
女になる前。
何も知らなかった自分。
まだ。
こんなにいろいろなことが起きるなんて知らなかった頃。
それでも。
願っていたことは。
今と同じだった。
「……俺」
紙を持つ手に力が入る。
今日。
踊れなかった。
歌えなかった。
怖くて眠れない日も続いた。
仕事も一つ減った。
前みたいに戻れるのか。
まだ分からない。
それでも。
「これだけは」
小さく呟く。
「今も同じだ」
阿部は近くにあったペンを取った。
紙の一番下。
昔の自分が書いた最後の言葉の下に。
少し迷ってから。
新しい一行を書き足す。
『めめと一緒に、また笑って仕事をする』
書き終えて。
しばらく見つめる。
そして。
もう一つ。
その下に。
『九人で、またちゃんと踊る』
今日できなかったこと。
でも。
終わったわけじゃない。
休んだだけ。
照も。
「振り入れは逃げない」
と言ってくれた。
みんなも。
待ってくれると言った。
だったら。
焦らなくていい。
「あべちゃん?」
突然。
後ろから声がした。
阿部がびくっと肩を揺らす。
振り返る。
ベッドの上。
目黒が目を覚ましていた。
「……めめ」
「何してるの?」
眠そうな声。
阿部は反射的に紙を胸元へ隠す。
「何でもない」
目黒が少しだけ目を細める。
「何でもない人、夜中に本棚の前で紙隠さないよ」
「これは」
「見ちゃだめなやつ?」
阿部は少し迷う。
昔なら。
多分。
隠した。
でも。
今日は。
紙を見る。
一番最後。
自分で書き足した二つの言葉。
それから。
目黒を見る。
「……見たい?」
「見ていいなら」
阿部は立ち上がった。
ベッドへ戻る。
目黒の隣へ座り。
少し恥ずかしそうに紙を差し出した。
「女になる前の俺が書いたやつ」
「何?」
「めめと一緒にやりたいこと」
目黒の目が少し大きくなる。
「俺と?」
「うん」
「昔から?」
「……そうみたい」
目黒は紙を受け取った。
阿部はすぐ布団へ潜る。
「声に出して読まないでね」
「分かった」
「絶対だよ」
「うん」
少しして。
目黒が笑った。
「ほとんど叶ってる」
阿部は布団の中から答える。
「俺もそう思った」
「結婚したいって書いてる」
「読まないでって言ったよね!」
「声に出さないで、でしょ?」
「同じ!」
目黒が笑う。
しばらく。
紙をめくる音もない。
静かになる。
やがて。
目黒が小さく言った。
「最後の二つ」
阿部は布団から少しだけ顔を出す。
「……今書いた」
「うん」
「今日できなかったから」
「うん」
「でも」
阿部は少しだけ笑った。
「いつかできたらいいなって」
目黒は紙を大切そうに持ったまま。
阿部を見る。
「できるよ」
「分かんないよ」
「じゃあ」
目黒も少し笑う。
「できるまで一緒にいる」
阿部の表情が止まる。
「……それ、ずるい」
「何が?」
「そういうこと言うの」
「本気だから」
阿部はまた布団へ潜った。
でも。
今度は。
少しだけ笑っていた。
昔の自分が書いた願いは。
気付かないうちに。
いくつも叶っていた。
だから。
今書いた願いも。
いつか。
きっと。
叶う。
阿部はそう思いながら。
目黒の腕の中へ戻った。
コメント
1件
ああ、このエピソード……本当に良かったです。昔の阿部くんが書いた「めめと一緒にやりたいこと」リストが、いつの間にかほとんど叶ってるって気づくあたり、じーんと来ましたね。私、特に「めめと一緒に年を取りたい」のところで息が止まりましたよ。最後に阿部くんが自分で新しい願いを書き足す場面も、前を向こうとする強さが伝わってきて——。あと、目黒くんが「できるまで一緒にいる」って言うのも、ずるすぎますよ、もう。こういうさりげない積み重ねが、読んでいてあったかい気持ちになりました🌷