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「ロレックスの腕時計とは、またベタだなぁ」


手にしたばかりの戦利品を掲げながら初心者ながら健闘した先程の客を思い出す


勝負はしっかり剣持が勝ち取っていた


所作や服装でどこか良いとこの坊っちゃんだろうという読みはアタリ。年齢のわりに今までギャンブルなどに関わりがなく真面目そうな雰囲気が見え隠れするのも声をかけた要因だ。


うん、我ながら最低…。

だがここでは褒め言葉と同義である。


「ふふ…あのお客さん、また来てくれるかな」


剣持は無邪気に笑いアキが休憩にどうぞとくれたドリンクを味わった

取り巻きの客達はそんな彼を眺めつつ愛しい彼に狂わされたそれぞれの出会いを思い出す

さっきの男を同志と呼ぶ日も近いだろうと何処か遠い目をしながら



パリンッ


「キャー!」

「おいっ…」


グラスの割れる音。女性の悲鳴。男の怒鳴り声。突然、店の中央にあるメイン卓から揉め事を連想させるような音の大合唱が響く


「へぇ?珍しく穏やかじゃないですね」


片眉をピクリと上げて聞き耳を立ててみるが最奥の離れ小島であるこの卓では詳細は分かりづらい

それでも嫌な予感がするのは明確だった。



剣持は、愛用の刀を掴み帯刀する「ちょっと様子を見てきますね」と言い残して一番信用している客に時計を投げ渡した。

暗に『あなたを信用しています、だから他の客が野次馬のように付いてくるのをそれとなく止めろ』の意である

客が意図に気づき了承して頷くのを見届けるとニンマリと笑って「良い子」と呟いた

上手に“待て”が出来たら、あとでご褒美でもあげようかな


剣持は女王様並みな思考回路で店内の廊下を足早に進んだ




場は騒然としていた。

一つの卓を囲むようにして客が群がり、その奥から未だ揉めるような会話が聞こえてくる

剣持は決して身長が低い方ではないが高身長の男性も混じっているため渦中を覗くのは難しい

立場やプライドもあるのでぴょんぴょん跳ねて目立つ行為もしたくない

となると


「あの、何があったんです?」


素直に周りの客を頼るに限る。答えてくれたのは真っ赤な口紅がよく似合うロングヘアの美女だった


「あら!用心棒さんじゃない…こんばんは。…んーと端的に言えば、何処ぞの社長さんが連れてきたお気に入りの愛人ちゃんが他の常連客のイケメンくんに一目惚れして迫っていたのを社長さんが見つけて痴話喧嘩になった、みたいな?」


「はぁ?」


「ふふ、よくある話ね。でもね実は愛人ちゃんも可愛い『男の子』らしいわよ?」


「全員、野郎かよ」


「私は用心棒さんの方が好みかなぁ」


「そりゃどーも」


女性に褒められて嬉しくない男は、そういない。今から、あの嵐の中へ身を投じなければならないのかと気落ちしていた心も美女のリップサービスで少しはマシになった。ありがとう。


客の海を掻き分け、中心に近づく。ようやく会話の登場人物達が見えてきた。


「君、誰のものに手を出したかわかっているな」


「ごめんなさい僕が悪いんですっ。僕が彼とお話してみたかっただけで!」


「お前は、黙ってなさい。よくもまぁ人のものを誑かしておきながらダンマリか!なんとか言ったらどうだ!」


一方的に怒鳴っている者はおそらく40代前半くらいの紳士然とした男で、それを必死に止めているのは線の細い20代くらいの美青年だ。童顔のせいで10代にも見えなくもない。


「やめてっ!ごめんなさい僕の為に争わないでぇ!」


「……。」


美青年は一応健気な台詞で謝ってはいるが、どうにも大根役者すぎる。表情から察するに相当“いい性格”してそうだ。


「…はぁ」


溜息の聞こえた方に視線を動かすと、なるほどコイツが件のイケメンくんかと納得してしまう男が対面にいた。

生まれ持った華やかさなのだろう、特に着飾ったりしていないのに男は甘い整った顔立ちをしている

少しだけ上がった吊り目は妖しく細められ不本意なこの状況をどうしたものかと憂いている。しかしそんな表情にも独特の色気が混じった。


「言いがかりは止めて下さいよ、あんたの猫が勝手にすり寄ってきたんです。まだあの人見つけてないのに揉め事起こして出禁になったらどうしてくれるんスか」


「はぁ!?何を訳のわからない事を」


「そんなに不安なら、そいつに首輪でもなんでもしてればいいだろ?」


「っ…お前」


一触即発の雰囲気にギリギリまで平和に解決しないかと祈っていた心も折れる。仕方ない、仕事をしよう。

剣持は小さく嘆息するとスッと前へ躍り出た


「はいはい、そこの御三方。申し訳ありませんがこの店での揉め事は他のお客様のご迷惑になるので見つけ次第とっととお帰りになって頂いております。」


通りのいい声が、その場を一気に支配する。全員が勢いよく剣持を振り返った。


「剣持くん…」


それまで怒りを露わにしていたおっさんが呆然と剣持の名前を呼び、あれ?知り合いだったかな?と首を傾げる。


「げっ…」


よくよく観察して思い出した。このおっさん一時期、しつこく交際を迫ってきた男だ。確か盛大に振ってやった記憶がある。ますます拗れそうな事態に目眩がしてきた。

美青年を見て、なんとなく既視感を感じていた理由がわかり顔が引きつる。認めたくないが己の背恰好と似ているんだ。鳥肌、不可避。


「あなたでしたか。さすがに今回ばかりは許容できません」


「っ…私はただ、人のものに手を出そうとする若造に常識を説いていただけで」


「手を、出されたんですか?」


突然、剣持から会話の中心にされた美青年はしどろもどろに口を開く


「え…と、いや…出されたって言うかぁ。出して欲しいっていうかぁ。」


「おい」


さすがの社長さんも欲望丸出しのあけすけな言葉に美青年を睨む

馬鹿なのかなアイツ

似てるのは身長だけか、よかった。


「はぁ…なら誤解のようですね。巻き込んでしまった彼に謝罪をしましょう。それで解決で…ぇっ!?」


それまで静観を貫いていた人物がいつの間にか剣持の真横にいた事にも吃驚だが、いきなり両頬を大きな筋張った手で包み、ぐるんっと自分の方に向けさせた




「みつけた」



老若男女を落とす蕩けるような微笑を浮かべたイケメンは周囲の関心など全く無視して、ただただ剣持に甘い視線を送る。みつけた?なにを?不意打ちすぎて頭が追いつかない。何がどうなって。


「…っ」


黄金に輝く彼の瞳から目を逸らせない。囚われている間に片手は剣持の腰まで下りていき優しく抱き寄せる。なにやってんだよ変態と詰ってやりたいのに声も出ない。まるで魔法か金縛りにでもあったみたいだ。


思考が纏まらないまま何故か男の顔はどんどん近づいて






そのまま重なった。






つづく。

Place your bets.【リクエスト企画①咎人】

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