テラーノベル
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監獄学校『ディスペア』――最深部、第零地下エリア。
重厚な鉄格子と、不気味な符術が刻まれた鎖に縛られた暗闇の中。
冷たく湿った石畳の上で、一人の少年――ルシアンが静かに目を覚ました。
「……う、頭が……」
その瞬間、彼の脳内に前世の記憶が鮮明に蘇った。
(――あ、思い出した。俺、前世はごく普通の高校生で……事故って死んだんだっけ)
転生。
その事実を理解すると同時に、自分が置かれている状況を見回す。
(待って、ここ……生前にネットで見かけたWeb小説『監獄のデザイア』の世界じゃないか!?)
『監獄のデザイア』。
タイトルと「凄惨な監獄学校で生き残りを賭けて戦う胸糞ダークファンタジー」という概要だけは知っていたが、積読したまま死んでしまったため、詳しいストーリーも登場人物も何一つ知らない。
(やばいやばいやばい! タイトルからして絶対ロクな学校じゃないじゃん! 自由を奪われてデスゲームさせられるタイプだろこれ! 俺みたいなモブ、真っ先に死ぬやつじゃん……!)
自分に特別な力があるとも思っていないルシアンは、己の悲惨な将来(※妄想)に絶望しかけた。
――まさに、その時だった。
「――あの、大丈夫ですか……?」
静寂を破って、掠れた可憐な声が聞こえた。
暗闇の中、鉄格子の隙間から差し込むわずかな光。
そこに立っていたのは、ボロボロの雑用係の服を着た、小さな少女だった。
手には、粗末な清掃道具。
怯えながらも、彼女は心配そうに桃色の瞳をルシアンに向けていた。
「すごい音がしたから……怪我、してませんか? これ、あまり美味しくないかもしれないけど……水です」
鉄格子の隙間から、震える手で差し出された木製のコップ。
彼女の名前はアイリス。
この過酷な監獄学校で雑務を押し付けられている、心優しい少女だった。
――ズキュゥゥゥゥン!!
ルシアンの脳内で、危険を知らせるアラームではなく、祝福のウェディングベルが盛大に鳴り響いた。
(……え? ……天、使……?)
光の射す角度、少女の可憐な毛先、上目遣いの瞳、差し出された手。
ルシアンの視界が一瞬でピンク色のフィルターに染まり、キラキラとした花びら(※幻覚)が舞い散る。
(なにこの子……可愛い……健気……尊い……! え、こんな過酷な監獄で、見知らぬ俺のために水を……!? これってもしかして……運命の出会い(ディスティニー)ってやつじゃ……!?)
前世で純愛ラブコメを愛読していたルシアンの「超絶お花畑な恋愛脳」が限界突破で暴走を始める。
(決めた。俺、この過酷な学校でこの子と甘々青春ライフを送る! 放課後に中庭で手作りお弁当食べる! 雨の日は相合い傘で帰る! 絶対にだ!!)
「あ……ありがとう……!」
震える手でコップを受け取るルシアン。
その時、地下の暗闇からひたひたと足音が近づいてきた。
ルシアンの存在を察知して駆けつけてきた、学校の闇を仕切る配下の男――シェイドだ。
「……ボス。ついに目覚められましたか。フフフ、この腐りきった監獄学校を崩壊させる計画、命令を」
影の中から膝をつき、邪悪な笑みを浮かべるシェイド。
しかし、ルシアンは「自分はただの一般生徒」だと思い込んでいるため、シェイドを**「なんか物騒な学校のやべー先輩」**と勘違いしていた。
(ひえっ……なんか怖そうなやつ来た! 刺激したら殺されるかも……! でも、アイリスちゃんの前で格好悪いところは見せられないし、何より彼女を巻き込ませたくない!)
ルシアンは必死にポーカーフェイスを保ち、無意識に全開になってしまった【無自覚なラスボスの圧】を放ちながら威圧した。
「……用件なら後にしてくれ。俺は今、彼女とお茶の時間を楽しむのに忙しいんだ」
「ッ……!?(な、なんだこの肌を刺すような絶望的な殺気は……!?)」
シェイドは冷や汗を流して激震した。
ただの挨拶でこの圧。本物の『影の支配者』の覚醒を確信する。
「失礼いたしました……! では、ボスの御心が整うまで、私は何を……!?」
「……じゃあ、明日までにこの学校で一番美味しい紅茶と可愛いクッキーを用意しておいてくれ。それと、彼女が二度と雑務で辛い思いをしないよう、掃除のルールを裏から都合よく変えておけ。邪魔する奴がいたら……分かってるな?」
(よし、これで怖そうな先輩に都合のいいパシリを頼んで追い払えたぞ! ついでにアイリスちゃんもお茶に誘えるし一石二鳥だ!)
ルシアンは脳内でガッツポーズを決めていた。
だが、シェイドの解釈は違った。
(ま、まさか……あの何でもない少女をダミーのキーパーソンに仕立て上げ、学校のインフラと補給線を裏から掌握するおつもりか……!? なんという深く恐ろしい深謀遠慮……! 流石です、ボス!!)
「御意に……! すぐに『極秘作戦』を開始いたします!」
感極まった様子で暗闇へ消えていくシェイドを見送りながら、ルシアンはアイリスに向き直り、とびきりの笑顔を浮かべた。
「アイリスちゃん、明日一緒においしい紅茶飲もうね♪」
「え……あ、はい……!」
自分が「原作のラストボス」であることすら知らず、ただのモブ生徒として平穏と恋愛を望むルシアン。
しかし彼がアイリスのために動くたび、監獄学校の裏社会は「影の支配者が本気で世界を壊しにかかった」と大混乱に陥っていくのだった――。
【原作の展開】
『監獄のデザイア』第一章。
監獄学校『ディスペア』の最深部、第零地下エリアにて、世界を滅ぼす真の黒幕【隠しラストボス】ルシアン・ヴァルハイトが封印から目覚める。
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彼は目覚めと同時に世界への無差別な復讐を誓い、冷酷な暗躍を開始。偶然通りかかった名もなき雑用係の少女を「不快な虫」として冷血に切り捨て、監獄全体を血と絶望のデスゲームへと叩き落とすはずであった――。
本来ならここで、ルシアンは「監獄の結界を破り、全校生徒を恐怖で支配する暗黒術式」の実行をシェイドに命じるはずであった。
コメント
1件
わあっ、第1話からすごい設定だね…!😳✨ 転生したら監獄学校のラスボスで、しかも本人は気付かずに恋愛脳全開でアイリスちゃんにデレデレしてるギャップが可愛すぎるよ〜!!💕 シェイドが「深謀遠慮」って勘違いしてるのも笑ったw アイリスちゃんに紅茶とクッキーをごちそうしようとするルシアン、推せる…!🥺💖 続きどうなるのか超気になるよ〜!