テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
シェイドが興奮気味に「極秘作戦」へと旅立ち、アイリスちゃんが「え……あ、はい……!」と可愛らしく頷いてくれた翌日。俺――ルシアン・ヴァルハイトの、記念すべき「監獄学園ラブコメ化計画」第1節が幕を開けた。
【原作の展開】
『監獄のデザイア』第一章中盤。
目覚めた悪の支配者ルシアンは、手始めに校内の物流とブラックマーケットを武力で強奪。
生徒たちを飢餓と恐怖で支配し、監獄学校を完全なるディストピアへと変貌させる……はずであった。
【ルシアン視点の実際】
「……ふぅ。よし、完璧なセッティングだ」
俺は中庭の木陰にあるベンチで、満足げにうなずいた。
目の前のテーブル(※昨日まではカビの生えた木箱だったが、俺が無意識の圧で校務員をビビらせてどこからか上質なテーブルクロス付きで運ばせた)には、美しい磁器のティーカップと、香ばしい匂いを漂わせる焼きたてクッキーが並んでいる。
あの怖そうな先輩――シェイドに頼んだやつだ。
パシリ扱いして怒らせたらどうしようとヒヤヒヤしていたが、まさかこんな完璧な仕事をしてくれるとは。あの人、意外といい奴かもしれない。
「お待たせ、アイリスちゃん! クッキー、用意できたよ!」
手を振ると、物陰からアイリスちゃんが恐る恐る歩み寄ってきた。
ボロボロの雑用服を着ていても伝わる、この可憐さ。天使か? 天使だな。
「あ、あの……ルシアンくん。本当にいいの……? 私みたいな雑用係が、こんな素敵な紅茶とクッキーをいただいちゃって……」
「いいに決まってるじゃないか! アイリスちゃんのために用意したんだから!」
俺が満面の笑みで勧めると、彼女の隣にぴったりくっついていた女の子――同じ雑用係の服を着たボブカットの少女が、ガタガタと膝を震わせながら俺を指差した。
「あ、アイリス、正気!? この男、昨日生徒会室に殴り込んで『アイリスに雑務をさせたら学園ごと消す』って生徒会長の胸ぐら掴んだって噂のルシアンだよ!? なんでそんな平然とクッキー食べようとしてんの!?」
(ん? この子、アイリスちゃんの友達かな? ていうか、噂って何? 生徒会長なんて会ったこともないんだけど……怖っ。この学校、デマの拡散スピードやばくない?)
俺は友達ちゃんに安心してもらおうと、できる限り優しく微笑みかけた。
「君もアイリスちゃんの友達なら一緒にどう? 遠慮しないで」
「笑顔の威圧感が世界滅ぼすレベルなのよ!! 無理無理無理! 命が惜しいから私、帰る!!」
「ミーナちゃん、待ってよー」
ミーナちゃんというらしい彼女は、悲鳴を上げながら脱兎のごとく走り去っていった。
……うーん、人見知りな子なのかな。仲良くなれるといいんだけど。
「ごめんねルシアンくん、ミーナちゃん、ちょっと最近ストレスが溜まってて……」
「ううん、気にしないで! さあ、冷めないうちに飲もう!」
「うん……! いただきます……わぁ、すごく美味しい……!」
アイリスちゃんが一口紅茶を飲み、パッと表情を輝かせる。
その瞬間、俺の脳内では祝砲の打ち上げ花火が何百発も打ち上がった。
ルル
105
502
200
(尊い……!! 健気……!! この笑顔を守れるなら、俺、なんだってできる気がする……!!)
「あのね、ルシアンくん。今日から急に、今まで大変だった廊下の拭き掃除が『魔導ルンバ』みたいな機械の導入で全部自動化されたの。おかげで私、こんな風にお休みが取れて……すごく不思議」
「へえー! 最近の監獄学校ってハイテクなんだねぇ!」
(よかった〜! アイリスちゃんの手が荒れずに済む! 最高の学校じゃないかここ!)
俺たちがそんな平和で甘々なティータイムを楽しんでいた、まさにその時。
植え込みの陰から、冷や汗をダラダラと流しながら俺たちの様子を伺う男が一人。
校内のブラックマーケットを仕切る商人、関西弁のジローだった。
【ジローの脳内ツッコミ】
(ほんまに何してんねんあの兄ちゃん!!!!)
ジローは物陰で胃を激痛に苛まれながら、血の涙を流していた。
(シェイドの旦那から『ボスの極秘作戦のために最高級の茶葉とクッキーを命がけで調達せよ』って言われて、裏ルートで命懸けて仕入れてきたんやぞ!? なんやねん『アイリスちゃんのために用意した』って!! ただの意中の子への貢ぎ物やないかい!!)
しかも、ルシアンの背後から漂う**「邪魔する奴は分子レベルで消去する」**と言わんばかりの超絶殺気。
校内最強の生徒会長・レオンハルトすら一瞬でトラウマ状態に追い込んだあの恐怖の圧が、「女の子とのお茶会」のためだけにフルパワーで発動しているのだ。
(ミーナの姉ちゃんも正論言っとったのに、なんでアイリスちゃんは『ルシアンくん優しい♪』で全部流してんねん! 脳みそお花畑なのはルシアンだけやなくてアイリスちゃんもか!? この学校、まともな人間はおらんのか!!?)
「……あ、ジローさん?」
ふと、ルシアンが植え込みのジローに気づき、爽やかに手を振った。
「昨日クッキー売ってくれてありがとう! アイリスちゃん、すごく喜んでくれたよ!」
(ヒエッ……!! こっち見た!! 笑顔で感謝しながら『次トチったら殺すぞ』って目が言っとる!!)
「ほ、ほんまですか〜! お役に立てて光栄ですわルシアンの兄貴ぃぃ!!」
ジローはガクガクと全身体を震わせながら、命乞いのように深々と頭を下げた。
【ルシアン視点】
「ジローさん、すごく丁寧な商人さんだなあ」
「ふふ、本当ですね」
アイリスちゃんとクッキーを分け合いながら、俺は心底思った。
原作の『監獄のデザイア』って、もっと血生臭くて胸糞悪いデスゲーム小説だって聞いてたけど……。
みんな優しくて、ハイテクで、美味しいお菓子もあって、何より可愛いアイリスちゃんがいて。
(なんだ、めちゃくちゃ最高で平和な学園生活じゃないか!)
自分がその「血生臭い惨劇」を力技で全て粉砕している元凶だとは1ミリも気づかず、俺はアイリスちゃんの口元についたクッキーのくずを拭ってあげるのだった。
コメント
1件
うわー、めっちゃ面白かったです!「ラブコメ化計画」が完全にホラーになってるの最高ですね。ルシアンは「みんな優しい」って本気で思ってるけど、周りは全員ビビり散らかしてて、その認識のズレがたまらない。ジローの脳内ツッコミが特にツボでした。「ただの意中の子への貢ぎ物やないかい!」って、そうなんですよ! アイリスちゃんが無邪気に受け入れてるのも、この世界の空気感を引き締めてて良い。設定の噛み合わせが絶妙で、続きが気になります。