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side Riva
通話を切っても、耳の奥におもちさんの声が残っていた。「会って話したい」
あのときの柔らかい響きが、何度も頭の中で繰り返される。
……優しい人だと思う。怖くはない。
それでも、久しぶりに外の世界と繋がることは、やっぱり少し怖い。
インターネットの中の関係は、顔が見えないからこそ、軽やかでいられる。
余計な表情や反応を気にせず、ただ言葉だけで繋がれる。
それが私には心地よかった。
「とりあえず……寝よう」
そう呟いて、ベッドに身を沈める。
朝か夜かも、何曜日かも分からない日々。
ずっと変わらないと思っていた景色が、少しだけ揺らいでいる気がした。
昼過ぎに目を覚ます。
重い体を起こして、顔を洗う。
ほぼ空っぽの冷蔵庫からヨーグルトを引っ張って、PCの電源を入れる。
昔から、生きることに漠然とした不安はあった。
でも――明確な「悩み」や「迷い」が胸に居座るのは、本当に久しぶりだ。
それは、決して悪いことじゃない。
人と関わり、心が動くからこそ生まれる感情だから。
昨夜の声を思い出す。
「会って話してみたい」
あの優しい響きが、まだ耳の奥に残っている。
……会ってみたい。
画面の向こうじゃなく、目を見て、声を聞いて、話してみたい。
その想いが、少しずつ、怖さよりも大きくなっている。
結局、「会いたい」という気持ちと「怖い」という感情の間で揺れる日々は、二日ほど続いた。
その間、おもちさんからも連絡はなく、まるでこちらの出方をうかがわれているような気がした。
——あーもう。悩んだって答えは出ない。こうなったら当たって砕けろ、だ。
自分でも少し笑ってしまうような、男勝なセリフを心の中で吐く。
そしてキーボードに指を置き、静かな部屋にカタカタと打鍵の音を響かせた。
“こんにちは。
おもちさんにお話ししたいことがあります。
お暇な時に話せますか?”
送信ボタンを押すだけなのに、指先が震えていた。