侵入してすぐに、爆風で身動きが取れなくなっていた人間の頭骨を手で握りつぶした。骨が掌を掠めて血が流れたけど、それも瞬きの間に治ってしまった。
青鬼のチカラ。
肉体の強化と、条件によっては神々をも凌ぐ再生力。
おかげで随分と前には天使たちの間で神殺し、なんて呼ばれ方もしてたらしい。
「退け、邪魔」
自らの意思で肥大化させ、青く染まった腕を横に薙ぎ払うと、人間はお手玉のようにポーンッと簡単に吹き飛んだ。
「ははっ、久しぶりだな…こんなにはしゃいだのっていつぶり?」
「…お、お前……!!」
「ネェ?いつぶりかなぁ?」
「何故生きてるんだ!?あの時、銃弾は確かに心臓を貫いたはずだ!!」
喚き散らす人間の胸ぐらを掴み上げて、勢いよく床に叩きつける。
あの時とうるさい時の対処法は一緒らしい。
ゲホゲホと咳き込んでいるのを横目に、俺は辺りを見渡した。
連れられたばかりの奴隷を調教する区域。
血の匂いが染み込んだこの部屋に、みどりの微かな気配があるけど、それも数時間前のものだろう…ぺいんとの気配もゼロだ。
「懐かしいね、ココ」
「ゲホッ…ハ、ハハッ!!今更何のマネだ!?復讐が目的か!?」
「話はよく聞けって…昔からおめぇがよく言ってただろーが」
「ガッ、ァ……」
「…?」
ゴシャリと音がしたっきり、目の前の人間は小さく痙攣するだけでちっとも俺の話を聞く気がない。
「…みどりとぺんちゃんは何処かな」
気配を頼りに上の階へと登ると、人間が銃を構えていた。
「放てぇ!!」
一斉に鳴り響く銃声。
きょーさんとコンちゃんが目隠しをしてくれているからいいものの、二人がいなかったら今頃ここは野次馬に取り囲まれていたに違いない。
「改めて感謝だなぁ」
「なっ!?バ、バケモノだ!!」
一人の悲鳴を皮切りに、銃を構えていた屈強な男たちは高そうな銃を放り投げて、犬の様に尻尾を巻いて逃げ出していく。
「ばーか、ざーこ、よっわ」
ぐしゃ、ぐちゃ、べしゃ。
リズミカルに殺戮の限りを尽くす。
通路が静かになる頃には、辺りは夕焼けの真っ赤な色に染まっていた。
「…ここから気配がする」
やたらと綺麗な扉を開けると、何をしているのか、レウがドールハウスに向かって一生懸命に語りかけていた。
「…なにやってんのレウ、遊んでるの?」
「違うよ!!ここにみどりくんがいるんだけど、守りを固めすぎてて声が届かない…」
「何コレ?」
「箱庭…ミドロンパの舞台の洋館だよ」
「え!あれって外から見るとこんなに小さいの!?シワクチャになってない!?」
可愛らしいみどりが折り紙の様にクシャクシャに丸まった姿を想像して、サッと血の気が引いた。
そんなの、あまりにも怖すぎるじゃないか。
怯える俺とは反対に、困ったように天を仰いだレウさんは指先に炎を灯した。
「この館は外から一定のダメージを与えると壊れて、中にいる人が出てくるっていうのが弱点になってるんだけど…」
すると、蝋燭の様にゆらゆらと頼りない炎がたちまち鋭く燃え上がり、青い炎へと変化した。
バーナーの様にパチパチと火花を散らしたそれが館の壁に触れると、館の壁がバッと焼き切れて……
「あ…元に戻った……」
「こんな感じでみどりくんが中から魔力を流し続けてるみたいでさ…俺の火力よりも館の修繕の方が早くて……」
「どうするの?」
「この箱庭は移動できないから、みどりくんの魔力が尽きるまで待つか…」
チラリとレウの赤い瞳が俺を見上げた。
「修繕を上回る力で無理矢理こじ開けるか」
「…少し離れて、誤殺したくない」
「ごさっ!?……わ、わかった」
部屋の隅っこまで離れたレウさん。
信頼性の低さに若干の恨みを込めつつ、俺は久方ぶりに妖刀を取り出した。
「んー…お前を顕現させるのも久々かも」
早く血を吸いたいと言わんばかりに紫の淡い光を放つ妖刀に心の中で謝罪しつつ、箱庭に向かって剣先を滑らせる。
シャリン、と鈴の音を響かせた箱庭がみるみる膨張して「あ、マズイ」と思った時には超至近距離で大爆発を起こしていた。
「い”っっ……!!」
「あっつゔぅいッ!?!?」
レウの元気な叫び声が聞こえた事に安堵しつつ、炸裂によってやられた視力をどうにか再稼働させる。
「……っ!!みどり!!ぺいんと!!」
「ァ…ラ、ラダオクン……!ぺんさんが!」
悲痛な声にハッとみどりのよこに視線を向けると、見たことのない姿をしたぺいんとが口の端から血を流して苦しそうに呻いていた。
とても体調が良いとは言えない。
「何があったかは後で!」
「らっだぁ、こっちの窓から出られるよ!」
「みどりは先にレウのとこに行って。俺はぺいんと運ぶから」
「ウン…!」
力無く項垂れるぺいんとの体温の低さにゾッとしながら窓枠を飛び越えて外に出ると、きょーさんとコンちゃんが二人で何か話し込んでいる様だった。
どことなく、きょーさんの顔色が良くない…
尽きる事がない不安に心を痛めながら二人に近づくと、きょーさんが大きく目を見開いた。
「ッ!?なんで…」
「…きょーさん?」
俺の言葉にフルフルと首を振ったきょーさんは無言でぺいんとを引き取ると、ガストの上に寝かせて額にそっと手を当てた。
淡い光が漏れて、ぺいんとの様子も少し楽になった様に見える。
「…回復してんの?」
「俺の場合はちょっと自己回復力を高めるだけや…その、ぺんちゃんは?」
「ぺんちゃんはそこにいるよ?」
「あー、やっぱ…そうやんなぁ……」
「?」
きょーさんはそれ以上は何も言わなかった。
ただ、後ろ姿はひどく悲しそうに見えた。
そんな事を考えていると、裾をぐっと引かれて振り返る。
みどりは何かを言おうとして、それでも言えずにいるようで……それが何だか信用されてないみたいで悲しかったし、何よりあれから一度も目を合わせてくれない事が嫌だった。
「みどり、みどり?」
「……ァ…」
名前を呼んでやると、彷徨っていた視線が重なって、うるりと涙の膜ができた。
「ペンサン…俺の怪我治してたから…だから…」
「みどりのせいじゃないよ。遅くなってごめんね…今は寝ときな」
頭を撫でて、背中をそっと叩いてやるとみどりはすぐに眠ってしまった。
竜体になって体を丸めるみどりの背には無理矢理鱗を剥がされた跡がまだうっすらと残っている。
ぐつぐつと鍋を煮ているような音が心の奥から聞こえてくるようだった。
「…起きたら、全部話すよ」
みどりを取られた俺が、どんな思いを知ったのか…全部ね。
その日は寝室に布団を並べて、みんなで一緒に眠った。
ー ー ー ー ー
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コメント
4件
ほんとお話の展開が大好きです♡
わ…う”ぁあ……ぁ…最高…神…好き……