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あれは 、そう
風の強い日のことだった 。
先生に呼ばれ職員室で長話が続いたせいで
辺りはすっかり暗くなり
残っている生徒も少なかった 。
「 チッ、秋本話長ェんだよ … 」
友達もみんな帰っていて
とぼとぼ一人で帰ろうとしていた時
「「 あ 」」
靴箱に立っていた女と声が重なった 。
「 …絃か 。 」
「 慧じゃん 。久しぶり 」
絃は幼馴染で 、幼稚園から一緒の友達だ。
付き合いが長すぎて 、半分家族みたいな感じだが 。
それでも高校生になってからは
新しい環境になれるのが必死で関わることも少なくなっていた 。
久しぶりに話せたというだけで 、こんなにも簡単に嬉しくなってしまう 。
「 一緒に帰ろっか 。 」
こんなにも嬉しい誘いがあるだろうか 。
此奴からすると何気無い提案なのかもしれないけれど
10年近く片思いを続ける俺にとっては
デートのお誘いの様なものだった 。
自然と横に並び同じペースで歩けているという事実だけで俺の心は癒されてしまう 。
何年一緒に居ようが
俺のドキドキが色褪せることは無かった 。
「 そーいえばうちのお兄ちゃん結婚するんだよね 」
「 え 、おめでとう 」
俺と絃は家族ぐるみで仲が良く
共に旅行に行ったりすることもある程だった 。
「 慧さー 、結婚したいとか思う? 」
いきなりの話題に噴き出しそうになる 。
『 結婚願望 』
あるのか 、と聞かれれば素直にYesとは言えない気がする 。
確かに絃のことは好きだけど
こうやって隣を歩けるだけで充分幸せだと思うし 。
「 んー 、わかんない 」
俺にはまだ難しい質問だった 。
「 絃は 、思うの? 」
結婚願望はあるのか
絃が認めたとき 、俺はどんな反応をしたらいいんだ
そう思いながらも聞かずにはいられなかった 。
「 私もわかんないなー 。まず恋もしたことないし 」
そう言う絃の横で胸を撫で下ろす 。
恋をしたことない 。
だから俺は此奴に想いを伝えないし
伝えたところで 、と思う 。
「 でも独身もやだな笑 」
それは同感 。
自分が誰かと結婚している想像なんて出来ないけれど
もしするなら 、君がいいかな 。
「 あ 、じゃあさ! 」
俺の数歩前を歩いていた絃がくるりと振り向いて提案した 。
「 もしお互い 、30になっても独身だったら」
「 迎えに来てよ笑 」
風に吹かれる髪を手で抑え
冗談交じりの笑顔でそう言う 。
俺は 、まだ君を想って独りだよ 。
あれから11年
俺は28歳になった 。
今は公務員として社会を回す一つの歯車として頑張っている 。
何年経っても俺は 、あの時の約束を忘れたことは無かった 。
『 30になっても独身だったら迎えに来てよ 』
挫けそうになった時はこの言葉を思い出し
頑張る糧にしていた 。
あと2年 。
この11年間誰とも付き合わず 、絃だけを想って努力してきた 。
突然 、タイミングを見計らったかの様に
絃からメッセージが届く 。
顔も合わせていなければ
インターネット越しの会話も懐かしく
無意識に顔がほころぶ 。
だが神様は 、そんなこと知らないとでも言うように
俺の努力を無下にするらしい 。
メッセージに目を通すと
『 久しぶり 。元気してる? 』
『 私ね 、結婚します 』
嗚呼 、俺は今迄
何の為に 。
君を想って頑張り続けたこの時間に
一気に穴が開き 、冷たく凍えた気がした 。
会社から帰っている今 、外だろうと関係無く膝から崩れ落ちる 。
外が暗くて良かった 。
運良く一通りも少ない細道だったので
俺はその場で静かに泣いた 。
『 おめでとう 』
そう返す他なく 、短文で済ませる 。
今の俺には
心の底から絃の幸せを祝うことなんて出来なかった 。
天井の高い
光輝くホコリ一つない式場に独りで立ち尽くす 。
とうとうこの日が来てしまった 。
そう思うことしか出来ずただ呆然とする 。
「 慧 。 」
後ろから声を掛けられ振り向く 。
「 …絃 。綺麗だね 」
白く美しいウエディングドレスに身を包まれ
恥ずかしそうに此方を見る 。
君は本当に 、もう 。
改めて突き付けられた現実に
涙が溢れそうになるのをぐっと堪える 。
絃が何か言おうと口を開いた瞬間
『 絃! 』
「 あ 、直己さん 」
後ろから綺麗なスーツを着た男性が走って来た 。
この人が旦那か 、と 直ぐに気付いた 。
絃を見つめる真っ直ぐな目線で
絃がこの人を選んだ理由がわかる 。
俺とは正反対の 、素直な人 。
絃の隣で幸せになって
絃を幸せにするのはこの人なんだ 。
俺が
俺が絃を
幸せにしたかった 。
絃の隣で買い物をして
絃の隣でテレビを見て
絃と子供と食卓を囲んで
絃の隣で寝たかった 。
でももうそれは叶わなくって
それを成し遂げるのはきっとこの人で 。
今更後悔なんてしても遅いと分かっているのに
どうして
なんで
俺が
そう思うしか出来なくて虚しかった 。
絃
絃
絃
いと 。
どうか
幸せになってください 。
それが 、俺の幸せだから 。
「 僕 の 愛 す る 君 の 隣 は 」
fin .
コメント
25件
いやいやいや始まり方どタイプ
受験お疲れ様おかえり!!! 相変わらず表現力ばか高くて泣いた 男性視点なの好きですわたし 繋がってるって信じてた赤い糸がふとした瞬間ぷつんと切れるように、いつの間にか手を伸ばしても届かない場所まで離れてしまってたの最高に切なくて大好物。ずっと一途に想ってたのかわいい。ニヤける。慧くんには申し訳ないけど一生独身で居て欲しいですはい
はーーーーー、好きすぎる、!。 受験の疲れが吹っ飛ぶよーー!! 本人にとっては軽く言った約束で、相手はそれをずっと健気に守ってるっていうこの重さが本当に天才すぎるよ😱 だいすき