テラーノベル
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翌朝。頭を優しく撫でられている感覚で目を覚ますと、雅の腕の中にいた。彼は私を抱き締めたまま、飽きもせずその指先で私の髪を遊ばせていたらしい。
目が合うなり、雅は「あ、起きた」と私の頬を指先で突いてちょっかいを出してくる。
先に起きていたのか、雅の目はぱっちりと開いていた。
「⋯…起きてたの? おはよ」
「おはよ、てか寝てない。仕事夜からだし、寝れなくて起きてた」
私は彼の腕をすり抜けてベッドを這い出し、床に散らばったままの服を拾い集めて身に着ける。
毎度のことながら、こういう夜を過ごした翌朝は、体が重く、だるい。
「どうすんの? 自分の家に帰る?」
背中越しに問いかけると、雅もようやく体を起こし頭を掻いていた。
「めんどくさ」
「面倒臭いって……、どうせ帰らなきゃでしょ。出る時、鍵置いていくから帰りは、ポストにでも入れといて」
「え、合鍵くれんの?」
「人の話聞きなさいよね」
雅に話を聞けと求めること自体、無理な話なんだった。
もっとも、雅からもよく同じことを言われるけれど、以前玲くんに「そういうところが似てるから、波長が合うんじゃない?」と満面の笑みで指摘されたこともある。不本意極まりないけれど、否定しきれない自分がいた。
ベッドの上でまだ馬鹿なことを言っている男を放置して、私は洗面所に向かう。
今日はどんな髪型にしようかと考えながら、ヘアアイロンの電源を入れ、鏡に映る少しだけやつれた自分の顔を見た。
「あ、結ばない方がいいよ今日」
「は? 何でよ」
いつの間にかドアの淵に身を預け腕を組みながら、そう言葉を投げてくる奴に、私は鏡越しに問い返した。雅は私の首の後ろを指差していて、私は意味が分からず首を傾げる。
「マーキングしといた」
私は慌てて、指し示された箇所を手のひらで覆った。
なんて微妙な位置に……! というか、そんなやり方で人の楽しみを奪っていくなんて。
私は鏡越しに雅を鋭く睨みつける。
うなじのどのあたりに痕があるのか自分では確認できない以上、誰かに見られたら、と怖くて髪を上げるセットなんてできない。
「何してくれてんのよ……!」
溜息を吐き出し、仕方なく今日は全体を巻くだけにする方針に変えた。
髪が伸びてきていたから、仕事中に結べないのは地味に不便で困る。
「割り切った関係でいいとは言ったけど、浮気とか誰かに目つけさせたくないし。夏帆が自由にする分俺も好き勝手やるから」
「あんたじゃあるまいし誰彼構わず行かないわよ。言ったでしょ、今から1から関係性作ったりするの面倒だって」
熱を持ったヘアアイロンで毛先を逃がしながら、素っ気なく返事をする。
もし浮気をするくらいの気力があるなら、最初から雅以外のまともな相手を探している。
セットを終え、リビングに戻り、仕事鞄を手に取る。
「家に居てもいいし、鍵も自由にしていいけどきちんと戸締りだけしてね。私はもう出るから」
それだけ言い残して玄関へ向かうと、上半身裸のままの雅が背後をついてくる。
その気配が気になって、私はドアの前で振り返った。
「⋯…何?」
問いかけた瞬間、雅に両肩を掴まれた。
そのまま、唇に触れるだけの軽いキスを落とされる。
その後、至近距離で向けられたあまりに優しい微笑みに、視界がチカチカと明滅した。
「行ってらっしゃい」
「⋯…行ってきます」
まさか雅と、付き合いたてのカップルのようなやり取りをすることになるなんて。
一気に顔が熱くなるのを自覚し、バレないように急いで靴を履いて外に飛び出した。
冷たい朝の空気に触れながら、ふと思う。
……意外と、こんな朝も悪くないのかも、とそんなふうに感じてしまっている自分に、驚きと、どうしようもない照れ臭さが込み上げ誤魔化すように、一人咳ばらいをし、会社に向かった。
コメント
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うわ、朝の空気感がすごく生々しかったです……。頭撫でて起こすとか、あの甘えた声で「めんどくさ」って言う雅、完全に夏帆に甘えてるのがにじみ出てて、読んでてこっちが照れました。痕を見せつけるようなマーキング宣言も、独占欲ひしひしで「クズなのに優しい」って矛盾が刺さりますね。最後の「行ってらっしゃい」の笑顔、あれ反則だと思います。夏帆の「悪くないかも」って揺れ動く心理、続きでどう転ぶのか気になります。
まなこ〜友
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#ますしき
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