【路地裏】
カミキside
夜、僕は路地裏を歩いていた。時刻は深夜の3時。 いつもは眠くて中々起きられないけど、今夜は特別の日だ。
カミキ)お待たせ。アクア
そう言って微笑むと、真っ黒な星が僕を捉える。あらゆる憎悪が込められた、綺麗な瞳だ。ぞくぞくと身体に快感が走る。
アクア)カミキ、ヒカル……
アクア)っ、殺してやる…!
ポケットから果物ナイフを取り出し、刃先をこっちに向けるアクアを見て、思わず笑いが込み上がる。そんな僕を彼は不思議そうに、だけど警戒を強めながら見ていた。
カミキ)面白い冗談だね
アクア)冗談…?
気づいていないのか、それとも気づかないフリをしているのか、さらに不思議そうな表情をしている。
カミキ)ほら、自分の手を見てみてよ
アクアは自分自身の手を見て、目を見開いた。分かりやすく動揺しているのが可笑しくて、少し可愛いと思った。
アクア)なんで……
カミキ)凄く震えてるね。いくら僕がアイを殺した犯人でも、人を殺すのには抵抗があるんだ
アクア)う、るさい……!
自覚したからなのか、さっきより震えが強くなっている。いくら復讐相手だとはいえ、自分が人を殺すのが急に怖くなったのかな。
カミキ)……
変なの。
人を殺したら、その分だけ自分の命の重みを感じれるのに、どうしてそれが怖いと思うんだろう。僕の感性が周りとズレているのは理解はしてるけど、納得は出来ない。昔はこうじゃなかった気はするけど……。
カミキ)何処で間違えたんだろう……
アクア)え?
カミキ)なんでもないよ
聞こえちゃったかな。いや、反応的にそれはない。それよりも、どうしようかな。アクアがあれだと僕は死ねない。別に死ななくても良いけど、いい加減この人生に疲れた。終わらせても誰も困らないでしょ。
カミキ)ほら、こっち来て
アクア)え…?
カミキ)大丈夫。君が手に持っている包丁を僕に渡してくれれば、何もしないから
アクア)そ、んなの、信じるわけないだろ…!
カミキ)…信じてもらえないのも、仕方ないか
言葉だけだと何も進まない。だから、僕はアクアに近づく。その度にアクアは1歩ずつ下がる。それも長くは続かなかった。アクアの肩が壁にぶつかったからだ。
アクア)っ、あ……
恐怖心が勝ったのか、ナイフを握っている力が少しずつ弱々しくなっている。そのアクアの両手を包み込む。そのまま勢いをつけて自身の腹部に突き刺した。
カミキ)っぐ…!
アクア)ぁ、なん、で……?
僕の血で汚れたアクアの手を見て、自身の気持ちが昂るのを感じた。彼の瞳は今、どんな感じかな。安堵、驚愕…それとも憐れみ?
カミキ)あは、ひどい、顔…復讐相手で、ある、僕を、殺したんだ……
アクアは、僕から目を離さない。どちらかと言えば、離せないのかな。そうだよね。復讐相手が自分の腹部にナイフ刺したんだ。でも、それだけじゃない。凄く苦しそうで、絶望した顔をしていた。
カミキ)どうして、そんな…酷く苦しそうな、顔をして……
アクアは何も返事をしない。僕が息絶える瞬間が来るのを待ってているのかな。これで、君の復讐は幕を閉じるんだろうね。
カミキ)復讐なん、て、しなくても、君は……
この言葉がアクアに届いたか分からないまま、僕は意識を手放した。
【病院】
目が覚めたら、病院にいた。どうやら、僕が意識を失った後にアクアが通報したらしい。後に人工呼吸や心臓マッサージを手際よくしていたと聞いた時は耳を疑ったよ。
アクア)何飲む?
カミキ)…インスタントなら
アクア)身体に悪い
カミキ)えー
アクア)ガキじゃないんだからいじけるな
カミキ)はいはい。僕はアクアのパパですよ〜
アクア)顎にジャブ入れて揺らすぞコラ
カミキ)怖いなぁ…言葉のセンスが破滅的ぃ
アクアから暖かい飲み物を渡される。最初からこれしかなかったじゃん。なんで聞いたのさ。
アクア)はい
カミキ)ありがとう
ん、美味しい。意外と淹れるの上手なんだ。お茶も美味しいけど、それよりもアクアに聞きたい事があった。
カミキ)アクア、どうして僕を……
アクア)勘違いするな。お前だから助けた訳じゃない
言葉を遮られる。本人の中でも葛藤があったのだろうか。僕の息子でありながら、アクアの事は何も知らない。一緒に過ごしてきた訳じゃないし、話したのもあれが初めてだ。
アクア)僕は、目の前にある命を救っただけだ
カミキ)…そっか
なんだろう。アクアだけど、『彼』じゃない何かを感じた。何かの役にでも引っ張られているのかな。
カミキ)でも、残念だな。僕はあの瞬間に死ぬのが、1番綺麗だと思ってたのに
僕がそう言うと、アクアは怪訝そうな顔をした。アクアにも、人の命を奪った時の快感を感じて欲しかっただけなのに。
アクア)…俺、新しい目標を見つけたんだ
少し目を逸らしながら、話を切り出される。
カミキ)なに、僕にそれを言って何かメリットでもあるの?
アクア)じゃないと言わないだろ
カミキ)っ!
メリット、あるんだ。少しニヤついてしまった。さっきから、どうしてかアクアに対しての反応がおかしい気がする。
カミキ)それで、何?
促すと、アクアは深呼吸をし始めた。そんなに大切な話なら、僕に話さなくても良いのに。
アクア)俺と一緒に暮らす気はない?
カミキ)…えっ?
何を、言っているんだろう。
アクア)ルビーも、ミヤコさんも…他の奴らも捨てて、俺はお前に着いて行く
カミキ)『捨てて』、ね……
アクア)……
カミキ)『僕に殺されないように離れる』の間違いじゃない?
アクア)そう捉えても良い
カミキ)素直じゃないなぁ……
少しずつ冷静になって来た。どこか他人事のように話を進めていたけど…そういうことか。
カミキ)良いよ。だったら、僕が君を育てる。君に執着してるあの三流監督よりも、いい役者にする
『三流監督』という言葉が気に食わなかったのか、少し睨まれる。情が深いようで何より。
アクア)それでも良い。お前が俺から離れなければなんでも
カミキ)分かった。まぁ、まずは僕が退院するのを待ってて。話はそれからだ
アクアside
話がまとまった。カミキはもう一眠りする事にしたのか、布団を被った。それを横目に、さりげなく手渡されたコップを片付けようと席を立つ。
アクア)…あの時の言葉
カミキ)え?
アクア)あの言葉の後、聞き取れなかったんだけど、なんて言ってたんだ
血をダラダラと流しながら呟いたあの言葉。正直、アイと重ねてしまって、トラウマを呼び起こされそうになっていたから聞いてる余裕はなかった。
カミキ)な〜いしょ
アクア)うわ……
つい引いてしまった。アイと同じ事を言うとか、なんか嫌だな。夫婦らしいことなんかしてなかったくせに、なんか似てるのが癪に障る。
カミキ)そんな顔しないでよ
アクア)するだろ。アイと似てて興が削がれた
カミキ)才能に満ち溢れたアイと似てるなんて、光栄だな
アクア)……
ムカつく。
アクア)もう出るから
カミキ)また見舞いに来てね
呑気に手を振ってくる。それを無視して、念の為に忠告する。
アクア)…ルビー達に余計な事するなよ
カミキ)しないよ。アクアが僕の傍にいるならね
アクア)ならいい
アイツらが幸せに生きていくなら、俺はどうなっても良い。
アクア)…例え、殺されても
カミキside
病室から出ていったアクアの事を思い出し、歪んだ笑顔が抑えきれないのを感じる。
カミキ)彼をどう育てようかな。敢えて何もせずに殺すのも悪くないけど、それだとつまらない
カミキ)ふふ、これからが楽しみだ
終わり
コメント
9件
誰か墓を用意してく、れ、(死)
やっぱ神ですね!!!!((初コメ失礼します アカウント作る前から裏技(?)で読ませていただいていました!! めっちゃ好きです!!ちょっとセンシティブで見れないやつは、 裏技使って見てきます!!!()
やっぱりアクアは最高やな@…