もう一度できたばかりの曲を弾いてみた。
二度、三度、と弾くうちに、気づいたことがある。
俺は事務所からプレッシャーを掛けられすぎて、RBに関わる者のために金を稼ぐことばかり考えていたから、曲がどんどん書けなくなったのだ、と。
今みたいになにかきっかけがあれば曲は溢れてくる。それは自らの体験やその時に感じた気持ち――様々な空想の世界に上手く浸ることができなかったから、俺は曲が書けなくなってしまった。
プロの作曲家については作曲自体が仕事で、俺みたいなぬるいことは言わずに割り切って、その時代に合ったアレンジや歌詞を駆使し、曲を量産してヒットをさせる。
でも、アーティストは少し違う。曲をひとつのアートとして熟考し、時間をかけてひとつひとつ産み出す。
それはまるで、命を産み落とすかのように。
全ての作品が己の分身になるから、どんな曲でも大切にしたいという気持ちがある。
最初は若くエネルギッシュで勢いもあったし、がむしゃらにやればそれで良かった。若い容姿を駆使するだけでもミーハーのファンを含めて人気が出た。
ヴィジュアル系の多くは演奏や曲よりも、キャラ重視で売り出されることもある。事務所さえしっかりしていれば、てっとり早く簡単に売り出して稼ぐこともできる時代があった。
そういう売り方をする場合、自分たちでは楽曲を作らず有名な作詞家や作曲家に依頼する。プロの作詞家や作曲家が多く利用されているにも関わらず、曲がヒットしていないのは、キャラ重視であるが故の結果としか言えない。
肝心の演奏や歌がお粗末だから、鳴かず飛ばずで終わってまう。
音楽業界は恐ろしい。生き残りはほとんど皆無な世界や。
俺みたいな一曲入魂型のアーティストは、創作のネタが尽きたら命取り。
せめて他のメンバーに曲が書けたらと後悔したが、メンバーの育成を怠り、自分一人で全部抱え込んできたツケが回って来た結果だった。剣の事件が無くても、どのみちRBは人気が翳(かげ)り、世間から忘れられて、そのうち解散の道を辿っていた。
だったら人気絶頂期に電撃解散できた方が良かったのかもしれない。
六年経った今だから気づけた事実。
俺は出来たばかりの曲を何度も繰り返し弾いた。
どんな歌詞を付けようかな。空色中心になりそうやな。
彼女のことを考えるだけで、勝手にほかの曲も浮かんできそうな予感がした。
切ない曲、苦しい曲――明るいメジャーキーの曲は、悲恋には皆無。
でも、いい。
マイナー調の暗い曲の中には、研ぎ澄まされた美しさがある。
人の心を掴む曲は、やっぱり心を抉られるような鋭い傷跡が残る方が名曲やと思うから。
絶対無理だと諦めていた曲作りが、こんな風に形になるなんて。
気持ちを認めて嫉妬も自分の気持ちの一部だと思ったら、なにかがすっと心に落ちた。