テラーノベル
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まだ太陽が昇りきる前の時間。
体育館の中はボールの弾む音と、シューズが床を擦る乾いた音で満たされていた。
☔️「走り込み、あと1周!」
笛を口にくわえながら、こさめ が声を張り上げる。
マネージャーの彼女は、すでに元気いっぱい。
汗で前髪が額に張り付いたバスケ部員たちに、容赦なくメニューを指示していく。
📢「 … はいはい」
言葉とは裏腹に、きっちり走り切るのが いるま だ。
無表情に近い顔のまま、最後までスピードを落とさずゴール下へ戻ってくる。
その姿にこさめは思わず口笛を鳴らした。
☔️「流石エース!クールに見えて、ちゃんと真面目なんだから ~ 笑」
タオルを差し出すと、いるまは無言で受け取る。
けれど、汗を拭きながらぼそりと呟いた。
📢「 … こさめさ、会長と仲いいよな」
こさめの手がぴたりと止まる。
にやりと笑みを浮かべると、わざと大げさに首をかしげた。
☔️「ほーん。やっぱり来たね、その話題!」
📢「 … 別に、⸝⸝」
目を逸らすいるま。
だが、耳まで赤いのは隠せない。
☔️「はいはい、照れてるの丸わかり 笑
… っていうか、こさめでいいの?恋バナの相談」
📢「他に誰に言えってんだよ」
低い声に、少しだけ困ったような色が混じる。
クールに見せたいはずの彼の、その不器用さを知っているのは、きっとこさめだけだ。
☔️「まぁ、らんちゃんは誰にでも優しいからね。
誤解しちゃうのもわかるよ」
📢「誤解じゃねーし」
☔️「おおっ、強気!これは本気のやつだ!笑」
茶化すこさめに、いるまは深いため息をつく。
だが、その横顔は、いつもの冷たい印象よりずっと幼く見えて__
先輩として、可愛げがあるな、とつい思ってしまう。
📢「 … でも、どうしたらいいんだろ。あの人、完璧すぎる」
☔️「完璧でも、人間だよ。弱いとこだってあるはず」
こさめは、少し真剣な顔で言った。
らんと一番近くにいる自分だからこそ知っていること。
その優しさの影に、彼女自身の孤独やプレッシャーが隠れていることを。
☔️「いるまくんが知りたいなら、ちゃんと見てあげなよ。
らんちゃんの“優しさの奥”を」
その言葉に、いるまは初めて正面からこさめを見る。
短い沈黙の後、ふっと小さく笑った。
📢「 … やっぱ、先輩頼りになるわ、笑」
☔️「でしょ?」
こさめは胸を張る。
けれど同時に、自分自身の胸の奥に小さな痛みを感じた。
__だって、自分だって“恋する側”なんだから。
体育館の窓から差し込む朝日が、2人の間にオレンジ色の光を落とす。
それは、まだ誰にも知られていない恋模様の、ほんの始まりにすぎなかった。
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