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「きゃあっ!」と女性の悲鳴を上がり、両国の騎士たちが動く。
最初に行動を起こしたのは、最前列にいる黒い軍服を身に纏った、エルフィンストーン王国の元帥ギルバートだった。
彼は電光石火で抜剣すると、国王に切り掛かろうとした騎士と切り結ぶ。
騎士は若い青年だった。
まだ少年の面差しが見え隠れする彼は、顔を蒼白にして歯を食いしばっている。
顔も汗だくで、この凶行を引き起こすまで酷い緊張に見舞われていたのが窺えた。
素晴らしい反射神経で青年の剣を受けたギルバートは、まったく動揺せず告げる。
「退け。今ならまだ重罰で済む。神聖な調印式で血が流れれば、再び戦争が起こりかねない」
「……っ、俺には後がないんだ……っ」
だが青年はギルバートにしか聞こえない声で言ったあと、腹の底から声を絞り出し、二撃、三撃と猛攻を始める。
「何者かに唆されたのか」
しかし歴戦の元帥と子供に近い彼とでは、実力の差がありすぎる。
ギルバートは難なく青年の剣を受け流し、さらに質問した。
「お前には――、関係ないっ」
青年は後戻りのできない目をしている。
だからこそ彼は場がどこであれ、相手が悪名を轟かす〝死神元帥〟であっても、捨て身の攻撃を仕掛けるしかないのだ。
反撃して命を奪うなら簡単だが、ここは神聖な調印式の場だ。
豊穣の女神の腕の中で血を流す訳にいかないし、青年がなぜこのような行動を起こしたのか、きちんと取り調べる必要がある。
瞬時に判断したギルバートは、腰の後ろに装備してある短剣を抜き、両手剣で青年の相手をし始めた。
長剣で相手の剣をいなし、短剣で急所を突く戦い方は、ギルバートならではの戦い方だ。
彼は通常なら両手で使う剣を、片手で扱う膂力と技術を持っている。
「く……っ」
すぐに劣勢となった騎士は、死に物狂いで反撃し――。
「うわああぁぁっ!!」
渾身の一撃と言わんばかりに、捨て身で突いてくる。
ギルバートは難なくそれを長剣で払った。
――はずが、勢いを殺しきれなかった剣の切っ先が、彼の顔を傷つける。
「きゃあぁっ!」
絹を裂くような女性の悲鳴が響き、床に鮮血が滴った。