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ルーブルでモナリザを見るより凄いものを見たって言ったら,その話信じる??
いっぱいあるけど
もうひとつ増やしましょう Can you give me one last kiss…
イヤホンから流れる歌を聴きながら,スマホ片手に景色と散歩を楽しんでいたら.
「あれ…??」
シャッターを切った瞬間,都会的な建物は無くなっていて.雪山の中にぽつんと私は立っている.
「(ウソでしょ!?電波入らない!!)」
右往左往していると,遠くから人影が.その人の方へ歩いていて唖然とした.
「こんにちは.こんな雪道を1人で,どうかされましたか.」
声をかけてくれた人は,交わることのない世界の,あの物語の中で私がいちばん好きな….
「菊田さん…!?」
彼は怪訝な顔をして身構える.
「お前さん,何者だ??」
「それは…!?」
私の背後で声がする.振り返れば兵士が数名.
「菊田特務曹長殿,温泉はいかがでありました…か??」
1人が声をかけた.不穏になりそうな空気を打ち破るため,私は勇気を出して彼にぐっと近づいて.
「ねぇ軍人さん.私のこといくらで買ってくれる??」
あまりにもベタな台詞で,恥ずかしくて気を失いそうなところを.
「そうだなぁ.場所を移して話そうか.」
“そう言うことで”と彼は兵士達に一瞥して.
並んで歩きだした.
そこからは,廃宿でナガンを向けられながらの尋問.やっぱり持ってたスマホやウォークマンにベタな反応をしたのが面白くて.
「分かったからもう撮るな.没収だ全部没収!!」
「そんなだったら私にも,菊田さんの何かを没収させてください.等価交換です!!」
「等価交換の使い方間違ってねぇか??」
「私にも,元の時代に帰るまでの心のよすがが欲しいんです.菊田さんの強さにあやかりたい.」
「…良いだろう.何が欲しい??」
「その外套の,第2ボタンを.」
「なんで指定する??」
「第2ボタンは心臓に近いから.鼓動を感じられて良いなって….」
「変わった考えをするお嬢さんがいるもんだ.」
“貴方から教わったんだよ”とは言えず.渡してくれたボタンに,願掛けで息を吹きかけてポケットに入れた.そしてこの行く末を知る者としてこう預言した.
・もうすぐ貴方はこの登別で鶴見中尉と合流する.そして樺太まで行ってアシリパを確保しようとするが失敗する.
・金塊の暗号は必ず鶴見中尉が解く.
「その間,お前さんはどうするんだ.」
「菊田さんの背後にいる人と行動します.私の存在は鶴見中尉に知られてはいけない気がして.」
「なんで俺の背後に誰かいるって思うんだ.」
「だってスパイなんでしょ??中央の.あくまで預言ですけど.」
「ったく…!!確かにこんなエセ預言者を鶴見中尉に差し出すわけにはいかんな.」
「邪魔は一切しません.貴方の3歩後ろを歩きます.」
「分かった.その代わり,目立たないようにしろよ.」
ということで,宇佐美や二階堂と入れ違うかたちで私は,彼の部下に引き渡された.
たまに届く手紙に,預かりものを大事にしてるかとか,不憫なことはないかなどのやり取りもさせてもらった.
そして,例の探偵に付き合わされることとは知らず,札幌に前入りした彼に電報でこう伝えた.
最後の預言をする
*ある蕎麦屋で待つ.*と.
そしてその当日.
「お前さんの預言,怖いくらい当たってたよ.」
スーツ姿に身を包んだ彼を見つけて,視線を送ると,どこか安堵した表情をしてそう言って,私の向かいに座る.
「エセ預言者の汚名返上ですね.」
「で,次はどんな預言をしてくれるんだ??」
「それはこの上で話しましょう.」
「通りでおめかししてるとおもったら…!!この2階がどういうところか知ってて言ってるのか!?」
彼は小声ながらも動揺が隠せないでいる.
「知ってますよ.だからお酒飲みながら待ってたんです.ただ預言するだけですから.」
「だよな.ただ預言するだけ…よし.」
彼は店員を呼んで.
「蕎麦,2階で食べたいんだけど良いかな.」
と合図して席を立った.
「そういうことしないって言ったじゃねぇか!!」
「布団の中で話した方が他の人に聞かれずに済むでしょ!!」
先に布団に入った私を気まずそうに見ながら,彼は私に背を向ける形で横になる.
「今晩あなたは宇佐美上等兵と一緒に,自称ジャックザリッパーなる刺青囚人と対峙します.その後はちゃんとしっかり目を洗うことをおすすめします.」
「なんで??」
「ぶっかけられますので.」
「なにを??」
「今晩になればわかります.」
「嫌な言い方するな.」
「その後ジャックザリッパーはビール工場に現れてそこになんと,アシリパ達や土方一行も勢揃いです.」
「おぉ.それから??」
「花火に大炎上ありの大乱闘の末に,アシリパを無事確保.それで….」
なぜかあふれてくる涙.
「泣いてるのか…??」
鼻をすすった音を,彼は聞き逃さなかったようだ.バレないようにすすったつもりだったのに….
「それで…小さな教会に潜伏するんです.暗号を解く手がかりも得て見事,鶴見中尉は解くんです…!!」
嗚咽しそうになるのを防ぐため思わず起き上がる.その間も涙は溢れて止まらない.
「で,金塊はどこにあるんだ…!?」
「五稜郭の馬用の井戸に.でも…!!」
「でも??」
彼の顔を見て.ダメだった…生きた彼に会うのがこれで最後というのに耐えれずに.心配して起き上がった彼の胸にしがみついて預言を続ける.
「貴方も私も,五稜郭にはたどり着けない.だって貴方は教会で…!!」
私の両肩にぎこちなく,彼の手が添えられた.
「泣くな.お前さんが元の時代に戻れるなら,それはそれで万々歳だ.教会で俺の身に何が起ころうとも,任務は果たさにゃならん.覚悟はできてるよ.」
「地獄行きの特等席なんて座らなくていいです.私がぶっ壊しておきますから!!」
「物騒な物言いをするお嬢さんだこと.」
とからかうように笑って,ジャケットの裏ポケットからウォークマンとスマホを出して.
「これ,返すよ.次いつ会えるかわかんねぇから.」
「ありがとうございます.」
「壊れてないか??」
「はい.充電がないけど,元の時代に帰れば動くようになります.じゃあ私も….」
とポケットから第2ボタンを出すと.
「そいつはお前さんにやる. 」
「どうして,ですか??」
「明治時代にやってきた記念ってやつ.」
「良いんですか??」
「もちろん.」
「大切に,します…!!」
「うん,だからもう泣くな.」
また涙がこみ上げて肩を震わせる私の頭を,彼はそっと撫でて.
「預言はもう終わりか??」
「はい.とにかく,金塊は五稜郭の馬用の井戸です.くれぐれも内密に.」
「もちろんだ.じゃあ俺は先に降りるよ,元の時代でも達者でな.」
「菊田さんも,道中お気をつけて.」
行ってほしくない・もっと触れていたい,色んな気持ちを目一杯抑えて見送ったあと.
「(この世に未練残すべからず!!最後に大仕事と行っときますか!!)」
念入りに身なりを整え,蕎麦屋を後にした.
「では,手はずどおり行きましょう.」
ビール工場で大乱闘が始まる日の,完全に陽が落ちた頃,とびきりおめかしした私は部下の人と一緒に,ビール工場に近いレストランに向かう.
「(菊田さんにも届くと良いな.)」
そう思いながら,客席の中央に立って….
初めてのルーブルは
何てことはなかったわ
私だけのモナリザ
もうとっくに出会ってたから…
手拍子とアカペラ,たったそれだけであの歌を歌う.
なんで歌うか,歌わずにいられなかった.ほんとは彼にも聞いてほしかった.私が彼に抱いた感情をこの歌が代弁してくれてるような気がしたから.
「とにかく今は身なりを変えて一般人に溶け込みましょう.」
歌い終えると早々にレストランを出て,潜伏先のホテルに戻る.
「(始まった….)」
仮眠を取っていたところ,花火の音で目が覚めた.そして外はみるみる慌ただしくなっていく.
「待って!!落ち着いて!!」
彼が撃たれるタイムリミットが迫る頃,引き留める声も人目も気にせず私は走る.
登別で彼と別れたあと,私は札幌でアニメで見た教会を探した.そこに最短で行けるルートも潜伏先も全部探して今に至る.
「菊田さん!!」
勢いよく教会のドアを開ける.後始末を任せられたであろう兵士と鉢合わせたが,どうでも良かった.
なぜなら,兵士が捕まえようと伸ばした手は私の体をすり抜けたから.
ついに元の時代に帰る時がきた.
「菊田さん…!!」
まだ温かい肌に触れ,血を拭い.
「貴方のこと,絶対忘れません.」
額に口づけを落とし,そのまま意識が遠のくまで彼を抱きしめた.
それから無事にタイムトリップする寸前の場合に戻ってから,さらに月日は流れた.
「そのボタンかわいいね.この箱は??」
事務所の机に置いてあるボタンとマッチ箱を見て同僚が話しかける.
「軍服に使われてたボタンよ.この箱はマッチ箱で,150年前のもの.」
「すごい!!そんなヴィンテージ品,誰から貰ったの!?」
「話せば長くなるけど,聞きたい??」
本物のモナリザが見てみたくなったという理由だけで,私は今ルーブル美術館で働いている.それを通して鮮明に蘇る彼との記憶.
「(写真は全部消去させられたなぁ….ま,私も写るのは嫌いだし.)」
休憩時間に,外の空気を吸いたくて中庭に出る.風が頬を撫でた感触が彼を思い出させてくれるようで,手を空にかざす.
「おーい!!絵の修復作業再開するよー!!」
「わかった!!今行く!!」
まぶしい午後の光を受け,その風を追いかけるように同僚のもとへ走った.