あの実習から時が経ち 、
六年生だった方々は 、卒業を迎えてしまった
そして 、五年生は最上級生へ
私達四年生も五年生に成り上がった 。
喜八郎の死から 、様々な人が変わってしまった
一年生には 、喜八郎の後輩である
笹山兵太夫と黒門伝七が居た 。
笹山兵太夫は 、絡繰により一層力を込め
そうして 、第二の天才トラパーになった 。
でも、もう絡繰を褒めてくれる人はいないのだ 。
黒門伝七は 、泣かなくなってしまった 。
ましてや 、委員会の無い日はずっと自室で
勉強を遅くまでしているそうで 。
同室の左吉が心配していると三木ヱ門から聞いた
そして 、厳禁トリオと呼ばれていた
喜三太としんベヱは覇気のない立花先輩に
全く相手にされず 、おまけに
よく用具委員会に遊びに来ていた喜八郎が
今や来ていないことに悲しんでいた 。
乱太郎は 、保健委員会の当たり前のルーティーン
となっていた 、落し穴に落ちる 。というのが
キッパリ無くなり 、安堵よりも寂しさがあった
二年生には 、比較的喜八郎と関わりのある
奴は居ないが 、私と同じ委員会の四郎兵衛は
私を酷く心配していた 。
三年生は 、我々四年生と仲が悪い 。
でも 、喜八郎にはそんな風には見せなかった
同じ委員会の藤内は 、予習を倍増やしたそうだ
それはどれも年相応のものではなく 、
うんと先の予習までも 。
そして 、生物委員会の孫兵は
少しばかり口が悪くなったように思えた 。
それと同時に 、ジュンコへの重い愛が
別に移ったようにも思えた 。
それに伴い、私や三木ヱ門の後輩である
左門や三之助は 、より一層刺々しくなった 。
彼らも 、私達にはキツイものの
喜八郎とはよくやっているようだった 。
数馬や作兵衛も基自身の委員長達のつてで
仲良くなった喜八郎を想っていたときく 。
みんなにとって 、他愛もなく日常だったあの日
喜八郎との思い出が 、喜八郎への想いが
ぽっくり置いてけぼりになってしまった 。
そうして 、春が訪れて 。
我ら体育委員会の委員長 、七松小平太先輩が
忍術学園を離れた今 、この平滝夜叉丸が
委員長代理となった 。
そうして 、本来なら同じく作法委員会だって
喜八郎が委員長代理だったのにな 。
なんて思いながらも 、今年度新しく入った
一年生の入学式のとき 、私達は目を疑った 。
「はぁい」
あの間の伸びた声に藤色のウェーブな髪
白い体や茶色い目 。
間違えるわけがなかった 。
この子はあの綾部喜八郎なのだと
入学式の夜 、私達上級生は
六年生ろ組の部屋に集まっていた 。
「……皆 、言いたいことは分かるか」
そう告げたのは 、六年い組の久々知兵助先輩で
あれから豆腐作りが格段に減った変化があった
「….あれは 、喜八郎だよね」
我々の思っていた事を言ったのが
同じく六年い組の尾浜勘右衛門先輩 。
彼は 、あれから少し意地悪になったようだ
「…..まさか 、生まれ変わりって言うんですか」
そう告げたのは 、浦風藤内で 。
その目はまっすぐと先輩方を見ていた 。
「….さーな 、生まれ変わりでもそっくりさんでも
どっちみちアイツ自体は居ないわけだろう」
そうキッパリ言い切ったのは
六年ろ組不破雷蔵先輩 。に装った
同じく六年ろ組の鉢屋三郎先輩だった
彼は 、よく喜八郎に変装をして六年生に
本気で怒られていた 。
我々にとっては 、いい元気づけであったけど、
「….でも 、それでも僕は嬉しいよ 。」
「喜八郎が戻ってきてくれたみたいだもん 、」
そう優しく笑う人こそ 、不破雷蔵先輩 。彼は 、
より一層人に優しくなったんじゃないだろうか
そのお人好しさといったら 、過去の喜八郎を
超えてしまうんじゃないかと言うほど
「だな!!」
「是非とも 、生物委員会に入って欲しいものだ!」
そう告げたのは六年ろ組、竹谷八左ヱ門先輩で
より生き物を大切にしだした方であった 。
そんな先輩に張り合うかのように
我々は自身の委員会を主張した
「何を言うんだハチ!
喜八郎は我々火薬委員会に」
「いいや!違うね兵助!喜八郎は俺ら
学級委員長委員会でお菓子パーティーするの!」
「お菓子パーティーは違うけど喜八郎は俺らのだ」
「勿論 、図書委員会だって譲らないよ」
「お、お言葉ですが!
会計委員会だって負けません!」
『いいや!この花形の体育委員会だって!!』
「用具委員会だって面白いぞ!」
「火薬委員会だってお豆腐食パーティーするよ!」
「そーだそーだ滝夜叉丸いけー」
「もっと言えないのか三木ヱ門ッ!!」
「こら先輩だぞ!?!」
「保健委員会も負けてないです….」
「作法委員会です!!!!」
藤内の言葉に 、皆がピクりと止まった
「….作法委員会なぁ、」
「でも 、六年生や五年生が居た方が…」
「ご安心くださいッ!!
顧問はあの立花仙蔵先輩なので!!」
えぇぇええという大きな声が響いたとき 、
バン!!と大きく戸が開いた
「なんだこんなに集まって 、楽しそうだな?」
そう言って不敵な笑みを浮かべる黒い服装の人は
「…..た、たた立花先輩っ….」
「竹谷 、立花“先生”と呼んでほしいな」
「立花先生ッ」
皆が息を飲んだ頃 、私の口が動いた
『立花先輩….先生 、
あの子は 、喜八郎なのですか 。』
「…..かもな」
そんな答えが聞こえ 、少しばかり顔が緩まった
そんなのもつかの間 、立花先輩が話し出した
「私があの子を見つけた時 、孤児だったのだ」
見つけた?
孤児?
はてなを浮かべる四年生に
彼は笑ってゆっくりと説明をした 。
「私が卒業をしたあのあと 、村で一揆があった
その村を覗いてみれば 、なんとも悲惨な状態で
そんな時 、ある子供が何かを埋めていたんだ」
「まさか 、それが喜八郎….?」
タカ丸さんがそう聞けば 、彼は小さく頷いた
「名前を聞けば 、喜八郎と答えた 。
残念ながらああいった記憶ないが 、間違いなく
あいつは綾部喜八郎そのものだった 。
そこから 、訳あって喜八郎は
私と住むことになった 。
土井先生ときり丸のようなものだな」
頭が追いつけなかった 。
喜八郎がまた生きていた 。
ずっと願っていたことが 、あっけなく叶った
皆が泣いて喜んで 、笑って 。
立花先生の幼い喜八郎の話を聞いた 。
そうして翌朝には 、各委員会による
立花喜八郎の勧誘競走が始まった 。
「….たきせんぱい」
『…呼び捨てで良い 。』
「….たき」
『なんだ 、喜八郎』
「穴から出られません 。だっこ 。」
『あーはっは!!この平滝夜叉丸が 、穴から
出られなくなった喜八郎を助けてやろう!』
「….うるさぁい、」
強く 、ぐっと掴めば 、
その感触や温もりは確かに感じられた
喜八郎は生きている 。
別の生をもち 、またこの地へやってきた
だから私は 、あの時伝えられなかった
あの言葉やこの思いは 、
お前が大きくなったら伝えてみようと思う
『いいか 、喜八郎 。』
『今日から私とお前は家族だ 。』
「はい 、せんぞうさん」
『…..なんだかむず痒いな 。』
『…それに伴って 、ひとつ決まりを設ける』
「….決まり」
『自分の命は大切にしろ 。』
『優しさはいつか人を傷つける』
「……おやまぁ」
コメント
4件
良すぎる😭
最後の喜八郎の『おやまぁ』が刺さるよおおおおお