テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
35
67
44
一頻り泣いて、ようやく少し落ち着いた頃。
顔を上げると、壱月は震える手で頬の涙を拭ってくれた。
それから、そっと私に告げる。
「戻れるなら、戻りたい。離れていた四年間、ずっと愛音のそばにいたかった」
「うん……」
「でも、どうしたって、どうあがいたって、時間は戻らない。だから……これからずっと、愛音と花斗のそばにいさせてほしい」
壱月はそこまで言うと、じっと私の顔を見た。
「それが、俺の償い。俺には、それしかできない」
壱月の瞳が揺れる。その双眼は、悲しい色に染まっている。
私は彼の腕の中で、ごしごしと目元を拭った。
「『償い』だなんて言わないで。壱月が大変だったのも、知ってるから」
「でも……」
「でも、じゃなくて、さ。私は、楽しい未来、つくりたい」
精一杯の笑顔で、壱月を見つめた。
涙で目元が腫れて、きっと酷い顔になっているだろうけれど。
「愛音……」
すると突然、背中に回っていた腕に、ぎゅっと力がこもった。
「わっ!」
壱月の大きな胸が、私を受け止めた。
「好きだ。好きだ好きだ好きだ。愛してる」
頭上から降ってきた声に、愛しさが募る。すると今度は、おでこに彼の唇も降ってきた。
「壱月……」
私は顔を上げ、そのまま彼の顔に自身の唇を近づけた。
チュッと優しく、唇が触れ合う。
私も好きだよと、同じ気持ちだよと伝えたい。
キスの瞬間に閉じた目を開けると、壱月は困ったように微笑んでいた。
それから、どちらからともなく再び顔が近づいた。すると今度は、私の唇を逃すまいと、壱月が何度もついばんでくる。
「好き。好きだ。愛音……ありがとう」
キスの合間に囁かれる愛の言葉に、また涙があふれ出す。
深くなる彼の愛を必死で受け止めていると、やがて体がソファに押し倒された。
はっと目を見開くと、慈しむような視線とかち合う。
「悪い、愛があふれた」
苦笑いを浮かべて体を起こした壱月は、そのまま私の腕を引っ張り私も起こしてくれる。
「ここじゃさすがに、な」
壱月は照れたように笑いながら、私の頭をぽんぽん撫でた。
「壱月……」
彼の名を呼ぶと、また触れるだけの口づけがひとつ降ってくる。
「止まらなくなるから、もう終わり。明日も、お互い仕事だ」
「うん……そうだね」
残念なような、ほっとしたような。
どっちともとれない感情が胸に渦巻いて、ほんのり頬を染めた壱月にそう言う。
「おやすみ」
「うん、おやすみ……」
壱月はもう一度私の頭をぽんぽん撫でて、先にソファを立った私を見送ってくれる。
私は面映ゆい空気から逃げるように、花斗の寝ている寝室へと戻った。
コメント
1件
ああっ、この回…ガチで沁みたわ…!壱月の「戻れるなら戻りたい」からの「償い」の言葉、全部本心なのが痛いほど伝わってきて、こっちまで胸がじんわりした。愛音の「楽しい未来つくりたい」がまた強くて優しくて、二人の距離がちゃんと縮まってるのが尊すぎる。キスシーンも自然で良かったし、最後の照れくさそうな空気感まで丁寧に描かれてて、朝永さんのキャラの心情描写の丁寧さが輝いてた回だったよ🔥