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K side
ルイと別れた。
長年の夢だったデビューが決まって、これからがもっと大事になっていくから。
仕事に私的な事を持ち込まないために。グループの大きな夢を実現するために。
しばらく忙しさに追われて、お互いやるべき事に集中できていたんだけど…。
K「…?」
MVの撮影の合間の休憩、ルイの視線を感じて顔を少しあげる。
思い詰めたような悲しい瞳と目が合う。
K「ルイ…?」
仕事では見せない表情だから、少し動揺してしまう。
R「っあ、ごめん…っ」
俺を見つめていた事に自覚がなかったのか、狼狽えている。
K「朝からだったから、疲れてきたよね」
悲しい目の本当の理由を知っているのに、当たり障りない言葉を放つ。
R「うん…ね」
仕事の流れを掴んできてから、ルイと付き合っていた頃の事をふと思い出すようになった。考えたくなくても、脳内で勝手に再生されてしまう。ルイの笑顔、泣き顔、喧嘩した時の事、それから…。
K「っ…」
だめだ。集中しないと。
切り替えるように立ち上がって、スタジオから控室に向かう。特に用はないけどルイと同じ空間にいたら、あの頃に戻りたいと強く願ってしまいそうだったから。
R「待って」
背後からルイの声と走ってくる足音が聞こえる。
俺は振り向かずに控室に入り、すぐにドアの鍵を閉める。
ドアの向こうでルイの足音が止む。
R「カノン?…開けて?」
振り絞ったようなか細い声を無視する。
そうでもしないと、あの頃に戻りたくなってしまう。
しばらく沈黙が続く。もう向こう側にルイがいるのかも分からない。
『あ、いた!ルイさんのカット撮るんで来てください!』
スタッフさんが焦って呼びに来る声が聞こえる。
R「すいません」
ルイとスタッフさんの足音がパタパタと聞こえ、遠ざかっていく。
K「…はぁ……」
深く溜め息を付いてその場にへたり込んでしまった。
今日は地方での撮影だ。
ロケバスに乗り込むと隣に誰も(ルイが)座れないように荷物を置く。
しばらく談笑する声が聞こえていたが、連日のハードスケジュールで全員寝てしまっていた。
メンバーの楽しそうな声が近くで聞こえる。
K「ん…」
…着いた?
A「ルイってほんとカノンが好きだよね」
メンバーが笑いながらロケバスを下りていく。
え?
隣を見るとルイがいつの間にか座っている。
しかも俺の手を握っている。恋人繋ぎで。
K「なっ…ッ///」
慌てて手を離す。
R「ん?着いたー?」
ルイがあくびをしながらこっちを見る。
R「あ、カノンおはよ」
K「ルイ…これはダメだって…」
R「なんで?友達だった時も普通にやってたよ?」
K「…でも今はそうゆう関係じゃないでしょ?」
ルイに言い聞かせるように言って、さっさとロケバスを下りる。ルイの反論なんて聞きたくなかったから。
『お疲れさまー!』
今日一日の撮影が無事に終わる。
T「あとでカノンの部屋行くね〜♪」
G「あ、俺も」
A「うん、じゃあまたあとで」
それぞれの部屋に散っていく。
返答がなかったルイの背中を目で追う。
さっき突き離してしまったこと、気にしてるかな…でも、これでいいんだよね。
自分に言い聞かせる。
何が正解か分からない…。
悶々と考えている内に、メンバーが一人、二人と部屋に遊びに来てあっという間に騒がしくなった。
ルイが来ない。
A「あれ、ルイは?」
T「疲れて寝てんじゃね?」
G「カノン見てきて」
いつも必ず来るのにと、ゴイチが心配そうに言う。
メンバーに促されるまま部屋を出て、ルイの部屋の前に立つ。
何となくだけど、ここに居ない気がする。
そう思って、宿の外に出てみる。
K「…ルイ…?」
辺りは街灯があまりなく真っ暗だ。 不穏な黒。 その中にルイが吸い込まれてしまうんじゃないかと不安に襲われる。
ザザァ……
波の音が聞こえる。
海、近かったっけ?
音のする方に足を向ける。
暗くて何も見えない…。
目を凝らしていると、雲間から満月が現れてその光が海を照らす。
波打ち際に人影が見える。
K「ルイ?」
R「…カノン?」
ルイの声だ。足早に近づく。
R「…なんでここにいるの?」
そっちこそ、と言いかけたけど月明かりに照らされたルイの姿が儚くて消えてしまいそうで、立ちつくしてしまう。
R「探してくれたの…?」
言葉が出ず、ただ頷く。
いつの間にかルイが目の前にいて、強く抱き寄せられる。
K「ルイ…!」
気持ちが揺らいでしまう。
ルイの身体を押し返すけど離れてくれない。
R「…カノン…もう…苦しいよ…」
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