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名前をつけない約束
1話
ローレンは、石造りの広間で名を呼ばれた瞬間、自分の運命を悟った。
逃げ場はなく、選ばれることすら拒まない場所。
--人身売買のオークション。
視線が突き刺さる中、静かに手を挙げたのが葛葉だった。
高い身分を示す装い、落ち着いた態度。
周囲がざわめく中、あっけないほど簡単に取引が終わった。
ローレンは葛葉の屋敷に連れて行かれた。
鎖はなかった。
閉じ込められることも、乱雑に扱われることもない。
「お前は俺の世話係だ。無理はさせない」
そう言われたとしても、ローレンは信じなかった。買われたという事実は消えない。
優しさは、支配の形を変えただけだと思った。
食事を拒み、命じられた仕事を放り出し、近づかれれば鋭く睨みつけた。
「どうして従わない」
葛葉の問いに、ローレンは声を荒げる。
「自由を奪った人のそばに、いたくない」
沈黙が落ちた。
怒鳴られると思ったローレンは身構える。
だが葛葉は、ゆっくりと距離を取った。
「……なら、無理に従う必要はない」
その言葉は、命令でも脅しでもなかった。
「ここは逃げない限り、罰は与えない。それでも俺のそばにいるのが嫌なら、考える時間をやる」
ローレンは戸惑った。
これまで、「選ぶ」ということを許されたことがなかったからだ。
その夜、ローレンは眠れなかった。
恐れと恐怖、そしてわずかな混乱。
――この人は、何を望んでいるのか。
葛葉もまた、自室で考えていた。
救ったつもりでいた自分の行為が、
ローレンにとっては新たな檻だったことを。
二人はまだ、理解し合えない。
けれどこの日を境に、
「主と所有物」ではない関係を探す時間が、静かに始まっていく。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます。