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2話
ローレンは、屋敷での生活に慣れようとはしなかった。
慣れてしまえば、ここが自分の居場所だと錯覚してしまう気がしたからだ。
それでも、奇妙なことに――
拒んでも、何も奪われなかった。
食事を残しても怒鳴られない。
命じられた仕事を断っても、罰はない。
部屋に閉じこもっても、無理に引きずり出されることはなかった。
ある日、ローレンは思わず口にする。
「……どうして何も言わないんですか」
葛葉は書類から視線を上げ、少しだけ考える素振りを見せた。
「拒まれたからといって、価値が下がるわけじゃない」
その言葉は、ローレンの胸に引っかかった。
拒否=罰だった世界しか知らなかったから。
数日後、屋敷の倉庫で、古い帳簿を運ぶ仕事を頼まれた。
埃をかぶった書類の中に、見覚えのある言葉があった。
――人身売買。
ローレンの手が止まる。
その様子に気づいた葛葉は、しばらく黙ってから言った。
「それ以上は見なくていい」
低い声だった。
怒りではなく、どこか痛みを含んだ声音。
その夜、葛葉は珍しくローレンを呼び止めた。
「……俺が人身売買を嫌う理由を、知りたいか」
ローレンは迷ったが、うなずいた。
葛葉は窓の外を見つめながら語る。
「俺には、妹がいた。
昔、金のために売られた。助けられなかった」
短い言葉だったが、十分すぎた。
「だから俺は、あの場所にいた。
お前を“手に入れる”ためじゃない。
二度と、同じ形で失わせないために」
ローレンは言葉を失った。
初めて、葛葉が力を持つ側であることを、恐れている人間だと知った。
それでも、ローレンはすぐに信じることはできなかった。
「……それでも、俺は買われました」
正直な言葉だった。
葛葉は否定しなかった。
「ああ。それは事実だ。
だからこそ、俺はお前に選ばせる」
翌日から、葛葉はさらに距離を保った。
命令は減り、仕事も選択制になった。
「今日は休むか」
「それは嫌なら断っていい」
「離れたいなら、言え」
最初は疑いしかなかった。
罠だと思った。
それでも何度拒んでも、何も起きなかった。
ローレンは、少しずつ気づいていく。
――ここでは、拒んでも壊れない。
――拒んでも、捨てられない。
ある朝、ローレンは自分から言った。
「……今日は、そばにいます」
葛葉は驚いたように目を見開き、
そして静かにうなずいた。
それは命令ではなく、
初めての自分で選んだ一歩だった。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます。