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「お嬢様、そろそろお時間です」
「はい。わかりました」
執事に促されて部屋を出る。執事が靴箱から新品の学校指定のローファーを玄関に出す。
「ありがとう」
「いえ」
ローファーを履いて玄関から家を出る。そこそこの長さの通路を歩き
神社にある小さな門のような、中雀門と呼ばれる門に似た建造物を潜ると駐車場に出る。
そう。もうわかると思うが、執事の少し前を歩く彼女はお金持ちの家に生まれたお嬢様。
名が神亀善(しきぜん)優穏(ゆお)。このとんでもない屋敷の住人の1人。
優穏は老舗旅館グループ「神付亀(かみつきがめ)」の創業者の孫娘にあたる。
そして駐車場で優穏を笑顔で待っている2人。優穏の父と母。執事は
「失礼します」
と少し早足で駐車場に停めてある複数の車のうちの1台に乗り込む。
エンジンをかけて出口付近で一時停車。執事は運転席から出て、後部座席のドアを開ける。
「ありがとう本心(ほし)ちゃん」
「ありがとうね。本心くん」
「ありがとう本心ちゃん」
と言って3人が後部座席に座る。
「お閉めいたします」
と言って後部座席のドアを閉める。そしてまた運転席に。
「でも本心くん。やっぱり家守神学院の入学式だし、国産車で行ったほうがいいんじゃないかな?」
優穏の父が笑顔で、でも少し不安そうに言う。
「…そうですねー…。でも大丈夫です。いくら和を重んじてる学校だからって
入学式に外車で来た生徒を蔑ろにするなんてことないでしょうし。
もしそんなことするようなクソみたいな学校だったらすぐ辞めたほうがいいですし」
「おぉ。まあ、たしかにね」
「あと個人的に外国産車のほうが好きなんですよね」
めちゃくちゃ個人的な意見である。
「では車動きます」
と一言断って、優しく車を動かす。先に会話の中で出たように
今日は優穏がこれから通う高校、家守神学院の入学式。車で家守神学院の付近へ来ると
やはり他の生徒も車などで来た生徒も多く、高校の敷地付近に一旦停車している車が多かった。
「うわぁ〜…派手ぇ〜」
徐行しながら思わず声が出る。黄色いスポーツタイプのオープンカー。
運転席には白髪に毛先がピンクの長い髪の海外の方が座っていた。
スペースを見つけて停車。運転席から出て後部座席のほうへ回り、後部座席のドアを開ける。
「足元お気をつけください」
手を差し出す。
「ありがとう本心(ほし)ちゃん」
「ありがとう本心くん」
「ありがとう本心ちゃん」
「では、お写真をお撮りしまして。
おそらく入学式は入学式とクラス分け、教室で少しお話しするくらいだと思うので
終わり次第、お3方一緒にお迎えに上がります」
と言って「家守神学院入学式」と書かれたパネルの前に。
「ではお撮りします」
まずは父のスマホで、そして母のスマホ、そして優穏のスマホで撮影。
「お願いします」
そしてあらかじめ頼んでおいたプロのカメラマンによる撮影。
「ありがとうございました」
「では後日ご自宅のほうにお送りしますね」
「よろしくお願いします」
とプロのカメラマンは帰っていった。
「本心ちゃん」
「はい」
「本心ちゃんも優穏と一緒に撮りなよ」
「え。でも、しかし」
「いいからいいから」
と優穏の母に背中を押されて優穏の隣に。
「おぉ」
「んふ〜。いいね。お姉ちゃんみたい」
「いや、本当のお姉さんいるでしょ」
「お姉ちゃんより頼りになるもん」
「お姉さん涙目敗走よ」
「?」
と小声で話す2人。
「じゃいくよぉ〜。はい!チーズ!」
「お金持ちでもはいチーズなの笑うよね」
「たしかにね」
「もう1回!はい!チーズ!」
「入学おめでと」
「ありがと」
と笑う2人の写真が本心のスマホに残された。
「では。いってらっしゃいませ」
と3人を見送る本心。そして車に戻ると
「おぉ〜…カッコよ」
と眺めている先程の白髪の毛先がピンクの派手な人が車を眺めていた。
「…」
視線に気づいた白髪の毛先がピンクの海外の方が振り返る。
「おぉ!あ、すみません!…この車の持ち主の方」
「…まあ…に近いですかね」
「めちゃくちゃカッコいいですね」
「ありがとうございます。…ん?私がお礼言うのも変か」
「あ、自分ここの高校の」
「え!?生徒!?」
「違います違います」
と笑う。
「ビックリしたぁ〜。生徒にしては派手髪すぎるし
…年増(小声)…丁寧に言うとなんだ?…大人すぎると思ったんですよ。焦ったぁ〜」
「お?そんな大人っぽく見えました!?」
とテンション高く目を輝かせる白髪の毛先がピンクの海外の方に
「うわ。反応ガキクセェ」
と本音が漏れた。
「ガキクセェって」
と笑う白髪の毛先がピンクの海外の方。続けて
「ここの高校の、”の“というか”に“か。
ここの高校に今年から通う生徒の執事をさせていただいております。百噛(ももがみ)レオンと申します」
と軽い自己紹介をした。
「執事?おぉ。一緒だ」
「おぉ!そうなんですか!どうりで燕尾服なわけだ」
「そっか。そちらも燕尾服」
「お。今気づきました?」
「お互い様」
「たしかに。いや、てっきりコスプレ趣味の方かと」
「時と場所よ」
「たしかにね」
と笑うレオン。
「私もここの高校の」
「生徒!?」
「…。ツッコまなくていいっすか」
あからさまにめんどくさそうな顔を向ける本心(ほし)。
「続けて続けて?」
「ここの高校の、今年1年生の生徒の執事をさせていただいております
針鼠(ハリネズミ)本心(ほし)と申します」
「ハリネズミ…?ほし?芸名かなんかですか?」
「本名です」
「ハリネズミ?」
「針鼠」
「苗字?」
「苗字」
「スゲェ苗字っすね」
「よく言われます」
「あ、ここだとなんだし、どっかで話しません?たぶん入学式終わるまで待ちですよね?」
「まあ…。奢ってくれます?」
「んん〜…いっすよ!」
「じゃあ行く」
という現金な本心とナンパなレオンはそれぞれ車で近くのゆっくりできるカフェへと向かった。
席についてメニューを開く2人。
「あのスポーツカーはご自分のですか?」
「あぁ。はい。カアロ コンブーチバルって車で
小さい頃見た映画に出てきて、憧れてて憧れてて、憧れ続けて買いました」
「いくらっすか?」
「んん〜…。700ぅ〜…50だっけな。ま、800万くらいですかね」
メニュー表をテーブルに落とす本心。
「は?800万?」
「だいたい。ま、中古だったらもっと安かっただろうけど、やっぱ新品がいいから」
「車に800万ってアホかよ。ヤバすぎでしょ」
「ちなみにそちらの車は?同じツィボレーですよね?」
「おぉ。あ、そっちもツィボレーなんですか」
「そうそう」
「あの車は…社用車?…なんていうのかな?」
「あぁ、その仕えさせていただいてるお家のお車」
「んん〜…。なんともいえない。私が欲しかったのもあって。
で、ご家族的にも大きめの車がほしいって話してて」
「おぉ〜。なるほどね。ツィボレー好きなの?」
「なんか…。カッコよくて」
「わかる!」
話しながらメニューを決めて、店員さんを呼んでそれぞれ注文を終える。
「ちなみにお名前って伺ってもいいんですかね」
「名前?言ったじゃないですか」
「…あぁ!違う違う!違くて。お仕えさせていただいているお家のお名前ですね」
「あぁ。…名刺あります?」
「名刺!名刺ね!はいはい!」
と言ってレオンは胸ポケットから名刺入れを取り出し、その中から1枚出し
さらに財布も取り出し、テーブルの上に免許証を置いてから
「改めまして。百噛(ももがみ)レオンです。よろしくお願いします」
と名刺を差し出した。
「頂戴します」
受け取る。
「相手の素性知らないとねぇ〜。ダメですよねぇ〜」
免許証にはレオンの顔。そして名前。その他諸々の個人情報のオンパレード。
「じゃ。こちらも」
本心(ほし)も胸ポケットから名刺入れを取り出し、その中から1枚を抜いて
財布から免許証を取り出そうとする。
「あ!免許証はいいですよ」
「え。でも」
「危害加えるような人だったら、そのときはそのときなんで」
笑顔のレオン。しかしどことなく怖い。
「こっわ」
と言いながら本心は財布をしまい
「改めまして。針鼠(ハリネズミ)本心(ほし)です」
と名刺を差し出す。
「頂戴します」
レオンが名刺を受け取る。
「針鼠。そのまんまなんですね」
「ですね」
「本心(ほし)。本心(ほんしん)って書いて本心(ほし)なんだ」
「読めないですよね」
「読めないねぇ〜。あ、ちなみに自分は黒白家(にしきけ)家(け)
…黒に白に家って書いてにしきけって読むんだけど」
「あぁ。家具屋の」
「そうそう!」
「錦家具の」
「そうそう!そこのご子息の執事です」
「へぇ〜。うちにも錦家具の家具ありますよ」
「おぉ!」
「それで話に出たから知ってました」
「おぉ〜」
「失礼します」
店員さんが注文したものを届けてくれた。
「ありがとうございますぅ〜」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
「どもぉ〜」
店員さんが軽く頭を下げて去っていった。
「で?」
レオンがストレートティーをふーふーする本心に向かって言う。
「猫舌?」
「そ」
「アイス頼めばよかったのに」
「あったかいのが飲みたかったの」
「で?」
「ん?」
「そちらは?」
「あぁ。私か」
ストレートティーを恐る恐る飲み
「熱っ!…まだダメか」
とティーカップをソーサーに置く。
「私は神亀善(しきぜん)家(け)ってところのお嬢様にお仕えさせていただいてます」
「神亀善?あのお屋敷の?」
「そうですね。どう考えても普通の家じゃない、家か?ってくらいの」
「たしか神付亀(かみつきがめ)旅館の」
「そうです。だからその旅館だったり家だったりに、そちらさんの錦家具の家具をよく置いてるんですよ」
「なるほど!」
「うるさっ。声デカっ。いちいちリアクションもデカいし。アメリカ人か」
「BINGO!!」
「また」
「Collect.アメリカと日本のハーフなんですよ。わかりました?」
「いや。顔でなんとなく」
「あぁ〜。ま、イケメンに生まれてきちゃったからなぁ〜。日本人とはかけ離れたこの美形」
「ふっ。すごいな。ここまで自画自賛されると、神様も両手放しでジーザスって言うだろうな」
と苦笑いする本心。世界一有名な赤黒い炭酸ソラ・オーラを笑顔でストローで飲むレオン。
「バッチリアメリカ人かと思ったらそうじゃないんだ」
「そ。ハーフなんすよ。母がアメリカ人で父が日本人のハーフ」
「へぇ〜。アメリカの血って強いんだな」
「あ!そうだ。情報交換のために連絡先交換しましょうよ!」
とレオンがスマホを出す。
「…。ま、いいけど」
「っしゃー!」
「情報交換は建前で。本当は?」
「ただ連絡先聞きたかっただけぇー」
「チャラい。ウォレットチェーン10本つけてるバカくらい、うるさいくらいチャラチャラしてる」
「本心ちゃん毒舌ぅ〜。でもそんな人いないでしょ」
その頃体育館では1人ずつ生徒の名前が呼ばれていた。
そしてクラス分けが発表され、それぞれが担任の先生に連れられてそれぞれの教室へ。
「えぇ〜。今年度はこのメンバーでやっていきます。よろしくお願いしますということで」
入学記念の写真をクラス全員で撮った。その後クラス全員とその両親も交えて写真を撮った。
そしてその日は解散。優穏も両親と共に正門を潜り、外に出た。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
優穏が笑顔で本心に言う。本心が後部座席のドアを開け、優穏の両親と優穏が乗り込む。
「ドア、お閉めします」
と言って後部座席のドアを閉め、運転席に乗り込む。
「クラス「は」組になった」
「「は」組?」
「家守神学院はクラス分けがいろはで」
「あ。そうなんですね。なかなかユニークというか、わかりづらいというか…。車、動かしますね」
と言って、優しくゆっくりと車を発進させる。車が並ぶ道を徐行していくと
黄色いスポーツタイプのオープンカーの横で車に寄りかかりながらレオンが手を振っていた。
「わぁ〜スタイルいいカッコいい海外の方〜。本心ちゃん、知り合い?」
「あぁ…。まあ…。知り合いになってしまったって感じですかね…。
チャラチャラチャラチャラ、うるさいくらいチャラい男ですね」
毒を吐いて通り過ぎる。
「レオンくん、知り合い?」
「えぇ。坊ちゃんたちを待っている間に知り合いました」
「ナンパ?」
「んん〜…まあ?」
「チャラい」
「んへぇ〜。ま、帰りますか」
と言って運転席に乗り込むレオン。
「ねえ。今度からは別の車で送ってね」
「Why?」
「この車派手すぎるって。周り見てみなよ」
左ハンドルの運転席からドアに肘を乗せて周囲の車を見てみる。
黒い車ばかり。中には白い車もあるが少ない。しかもみんな、漏れなくバンタイプ。
「みんな黒。黄色なんていないし、しかもスポーツカーはうちだけよ」
「みんな地味だなぁ〜」
「レオンくんが派手すぎるんだって」
「坊ちゃんも地味すぎますって。もっとこうカジュアルにカジュアルに。さ、車動かしますねぇ〜」
スポーツカー、そして外車特有のエンジン音を響かせて家へと帰った。
駐車場に車を停めて、家へと戻った優穏の両親と優穏と本心。
「今日はパーティーらしいから本心ちゃんも楽しんで寛いでね」
と優しく微笑む優穏。
「ありがとうございます。…ちなみに夜ご飯はなんです?」
「んーと。和食とは聞いてる」
「Oh…。懐石料理じゃないですよね」
「んん〜…どうだろ」
「懐石料理でないことを祈ろう」
と斜め上を見ながら手を合わせる本心(ほし)。
「なんで?」
「いやぁ〜懐石料理割とマジで苦手なんですよね」
「割とマジで。なんで?」
「なんか…。あの…なんていうんですかね。別にコース料理ほど堅苦しくないけど、なんか堅苦しくて。
あとなんか、こう、小鉢とかでちまちまあるじゃないですか。あれ無理なんですよねぇ〜。
あと単純に食べれないものも多いんで」
「本心ちゃん偏食だよね」
「偏食ではない気がしますけど。とにかく懐石料理だったらピザ取って食べていいですか?」
「ピザ」
思わず笑う優穏。
「それかワク・デイジーでハンバーガー」
「懐石料理よりいいんだ?」
「断っっ然」
「ふふっ」
笑う優穏。
「ま、私も実は懐石料理よりピザとかハンバーガーのほうが好きかも」
「ほら。あ、お寿司とかなら全然食べますけど」
「!いいね!お寿司!」
「もし懐石料理だったらお嬢様の鍋の肉と豆腐だけ掻っ攫いますね」
「サイテー」
「肉と豆腐以外いらないんで」
神亀善(しきぜん)家のパーティーはお寿司と和食のビュッフェ形式だったので
本心も普通に食べて楽しむことができた。