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夕方、リビング。
reちが床に座って、押し入れの整理をしながら言った。
re「なあ、reらってさ、ちっちゃい頃…っていうか、お母さんとかの記憶あんまなくない?」
ku「急にどした?」
kuが顔を上げる。
re「いや、昔の写真とか見てもさ、写ってんの4人が多いなーって」
coが笑う。
co「そりゃそうでしょ。ずっと5人だったし」
yuはソファにもたれて、その会話を聞いていた。
――それ、違う。
そう思った瞬間、
口が勝手に開いた。
yu「いや、でも――」
声が、出なかった。
yu「……え?」
自分で驚いて、もう一度。
yu「ちょ、待っ――」
音がない。
息だけが、喉を通る。
yuは思わず喉を押さえた。
re「yuくん?」
reが顔を上げる。
re「今、何か言った?」
何回か声を出してみる。
でも、音が出ない。
『声、出なくなった』
スマホに打って、見せる。
co「喉?」
coが心配そうに聞く。
yuは首を傾げる。
朝は普通だった。
ついさっきまで、普通だったのに。
こんなの、初めて…
少しして、声は戻った。
yu「……ぁ、出た」
自分の声に、自分でほっとする。
re「よかったー…、びっくりさせんなよ」
reが笑う。
yuも、つられて笑った。
yu「ほんとに焦った」
でも、その笑いの裏で、
さっき何を言おうとしたのかを思い出してしまう。
昔の話。五人じゃなかった頃。
喉が、きゅっと縮んだ。
翌日。
朝は問題ない。
普通に会話できる。
yu「ko〜、何してるの?」
koが、棚を片付けながら言う。
ko「昔の書類、ちょっと整理してて」
その言葉を聞いた瞬間、
yuの背中に、冷たいものが走る。
yu「どんな――」
言いかけて、
yu「……」
まただ。
音が、落ちた。
完全に、出ない。
ko「yuくん?」
coが振り返る。
yuは、ゆっくり首を振る。
喉を押さえて、息を整える。
『また出ない…昨日と同じ』
ko「病院…行く?」
yu「…(頷」
iris病院
niの検査は、あっさり終わる。
ni「声帯…は、問題なさそうだね」
ruも頷く
ni「炎症もないかな」
yuは、紙に書く
『喉は全然痛くなかったから、炎症とかではないの、わかってたんですけど……、』
…少し間が空く。
『初めてで』
ifが、yuのスマホの画面をみて、少し考える。
if「初めて、か」
そう言ってから、やさしく笑った。
if「ほな余計、怖かったやろ」
yuは、軽く頷いた。
ifは続ける。
if「無理に説明せんでいい。出ん時は、出さんでいい」
その言葉を聞いた瞬間、
頭が、少しだけ楽になる。
帰り道。
reが隣で言う。
re「そろそろ、落ちついた?」
yuは答えようとして、
yu「……」
出ない。
『まだダメっぽい』
スマホに打って見せる。
reは、気まずそうに笑った。
re「そっかぁ〜はよ、治るといいな」
それから。
yuさんの声は、
過去に触れそうになる
自分が“言おう”とする
その境目で、突然落ちる。
yuさんについた病名は、
【機能性発声障害】
でもyuさんにとっては、病名よりもただ一つ。
“本当は初めてじゃない”ことを隠すのに精一杯だった。
昼過ぎのリビング。
coとkuがテーブルで何かを調べていて、reは床に座って、段ボールを畳んでいた。
re「これ、どこ置く?」
reが、段ボールの中身を見ながら言う。
re「古い書類とか写真とか。まとめてたら、こんなん出てきた」
reは、特に深く考えずに一枚の写真を掲げた。
re「これさ、reらがもっと小さい時の写真やろ?」
koが一瞬、視線を逸らす。
ko「……それ、どこから?」
re「押し入れ。いや別に大したもんちゃうけど…」
reは笑いながら続けた。
re「なあyuくん、これ撮ったん誰やと思う?めずらしく5人とも写ってて…」
その瞬間だった。
yuは、反射的に口を開いた。
yu「それは――」
声が、出なかった。
yu「……」
一拍遅れて、自分でも異変に気づく。
yu「……、」
喉に手を当てる。
痛くない。掠れてもいない。
ただ、音だけがない、あの症状。
co「yuくん?」
coが不思議そうに見る。
co「今、何か言おうとした?」
yu「ちょ、待――」
出ない。
心臓の音だけが、やけに大きい。
『出ない また』
スマホに打って見せる。
ku「…また?」
kuが眉をひそめる。
re「さっきは…出てたよな?」
reは、ようやく空気が変わったのを感じたのか、
写真を下ろした。
re「え?……あ、やばかった?」
悪気はない。
本当に、何も知らない顔だった。
yuは、首を振る。
『たぶん、yuさんの問題 気にしないで』
そう打った瞬間、
自分でそう書いてしまったことが、胸に刺さった。
沈黙。
全員が、次の言葉を探している。
reが、気まずそうに頭を掻いた。
re「ごめん。なんか…声出んくなるきっかけみたいなやつ、出しちゃった?」
その言葉に、
yuは答えようとして――
yu「……」
やっぱり、出ない。
『いや、大丈夫』
reは、その画面を見て、少し困ったように笑った。
re「そっか……」
それ以上、踏み込まなかった。
でも、踏みかけた足は確かにあった。
夜。
キッチンで水を飲んでいると、
koが後ろから声をかけた。
ko「……無理しなくていいよ」
yuは振り返って、言おうとする。
yu「別に無理して――」
途中で、声が切れた。
yuは、悔しそうに息を吐く。
少し渋ってから、スマホの画面を見せる。
『過去の話 しないで』
koは、その画面を見て、少しだけ目を丸くした。
ko「過去の話…?」
『小さい頃の話されると』
『声、でなくなってる気がする』
ko「、え?」
それだけ言って、
それ以上は何も説明しなかった。
翌日。
reは、いつも通りだった。
re「声、まだでーへん?」
yuは首を振る。
yu「もう大丈夫」
re「そっか。よかった」
その軽さに、救われる部分と、
置いていかれる部分が同時にあった。
yuさんの声は、
写真
昔を想像させる一言
その直後に、突然消える。
悪気なんて、誰にもない。
ただ、知らないだけ。
最後に、まだ小さく残る名前。
機能性発声障害。
でもyuさんは分かってる。
あの時、reが写真を出した瞬間、自分は“言わなきゃいけないこと”に近づきすぎた。
だから、体が拒否して、声出ないんだと思う
ーーー
夜更け
電気の落ちたリビングで、yuは一人、ソファに座っていた。
手には、reが見せたあの写真がある。
五人。
みんな、いる。
1番小さい頃の写真。
誰が撮ったのか。
yuさんは知ってる。
胸の奥が、じわっと嫌な感じに熱を持つ。
yuは息を整えて、口を開く。
yu「……」
音は、出なかった。
喉に手を当てると、
また、あの“締め付けられる感じ”。
yuはスマホを伏せ、目を閉じた。
(言おうとするな)
(思い出すな)
そう思えば思うほど、
逆に、頭の中に浮かんでくる。
——四人で並んだ、別の写真。
——名前を呼ばれた記憶。
——途中で、消える声。
「……起きてる?」
小さな声。
目を開けると、廊下に立っていたのはkuだった。
ku「水飲みに来たら、電気ついてたから」
yuは、ゆっくり頷く。
ku「……声、まだ?」
yuは、少し迷ってから、首を横に振った。
kuは何も言わず、向かいの椅子に座った。
しばらく、沈黙。
ku「………さ」
その一言で、yuの喉が反応する。
きゅっと、縮む。
ku「無理に話さなくていいからさ」
yuは、スマホを手に取る。
『考えてるだけで、出なくなる』
ku「……考えてるって」
yuは、少しだけ指を止めた。
『昔のこと』
kuは、息を吸ってから、静かに吐いた。
ku「……やっぱり、そこなんだ」
yuが顔を上げる。
kuはyuを見ないまま、続けた。
ku「俺さ、正直、全部覚えてるわけじゃない…っていうか、ほんとに何も覚えてない。」
ku「でも……日常になってて、おかしいって思うこと、あんまりなくて」
yuの心臓が、強く打つ。
ku「yuさんとkoが説明してくれた日、覚えてる」
ku「でも、今もう一回あの説明、頭のなかで繰り返すと、変なところあって」
ku「話の辻褄とか、うまいこと合ってないところ、あって」
ku「reちはさ、たぶん…気づかないと思う。気づかないままでいられる」
ku「coも、たぶん、深く考えないと思う」
ku「……でも」
kuが、初めてyuを見る。
ku「yuさんは、知ってる側なんでしょ?覚えてるんでしょ?」
yuは、答えようとして——
やめた。
代わりに、ゆっくり打つ。
『言おうとすると、体が止める』
ku「……守ってるつもりなのかもな」
その言葉に、yuの指が止まる。
ku「思い出したら壊れるって、どっかで分かってて…だから、声が先に消える」
優しい声だった。
決めつけでも、追及でもない。
ただの、仮説。
yuの喉が、ほんの少しだけ、ゆるむ。
yu「……っぁ、」
かすれた音。
二人とも、固まる。
yuは驚いて、自分の喉を押さえた。
yu「……今」
小さく、小さく。
ku「出た」
kuは、笑わなかった。
ただ、静かに言った。
ku「無理に続けなくていい」
ku「今日は、それだけでいい」
yuは、ゆっくり頷いた。
翌朝。
reは、いつも通り、キッチンでパンを焼いていた。
re「おはよー」
yu「……おはよ」
ちゃんと、声が出た。
reが一瞬目を見開いてから、にっと笑う。
re「出とるやん。よかったな」
その軽さに、yuは少しだけ救われる。
でも。
テーブルの上に、昨日の写真が伏せて置いてあるのを見て、
胸の奥が、またざわっとした。
reが、それに気づいて言う。
re「なあ、この写真さ」
——来る。
yuの体が、先に反応する。
re「やっぱ気になる」
yu「……」
音が、落ちた。
re「あ」
reは、ようやく気づいた顔をした。
re「……ごめん」
その一言は、軽くも、重くもなくて。
ただ、ちゃんと止まった言葉だった。
yuは、スマホを出す。
『まだ、言えない』
reは、少し考えてから、頷いた。
re「そっか…。じゃあ、言える時まで置いとこ」
写真を、そっと引き出しにしまう。
ガタン、という小さな音。
yuの喉が、少しだけ楽になる。
いつか、
誰かが「思い出してもいい場所」を作れたら、
声は、戻るかもしれない。
でもそれが、
家なのか、
病院なのか、
それとも——
まだ、yuさん自身にも分からなかった。
…翌朝
yu『みんなに、聞いて欲しいこと、ある』
co「なに?」
yu『あの写真のこと』
re「5人、写ってる、?」
yu『あれ、撮ったのは、yuさんたちの親戚の人』
ku「親戚…?」
ko「…俺ら、俺が6歳の時に捨てられてるんだよね」
co「、えっ?」
ko「お母さんが、coくん生んだあとに、死んじゃって」
ku「…うん」
yu『親戚の人に「5人生んだせいで死んだ」って詰められて』
ko「それで、施設から、国の支援もらって、5人で暮らしてたの」
re「そー、なんや…」
yu『yuさんの声、この話に触れると出なくなるみたいで』
ko「さっき思い出したとこなんだけど、yuくん、あの時も声出てなかったんだよね」
re「え?病院で 初めて、って…」
yu『ごめん、嘘ついて…あの時は、まだこの話できる自信なくて』
co「大丈夫だよ~、こんな大事なこと言うのに時間かかって当然だし…」
yu「…ありがと、」
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