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その後、私とルイスはトキゴウ村の公衆浴場で汗を流した。
トキゴウ村の公衆浴場は高温の蒸気で汗を出し、火照った身体を冷水で流すもの。
男女別で入浴をする。
髪を洗うのは週三回と決まっており、私が滞在する日は丁度その日だった。
身体を清め、髪を洗った私は、公衆浴場を出た。
外ではルイスが私を待っていた。
「待たせてしまったかしら」
「……少しだけ」
短い会話をした後、滞在している家へと帰る。
暗い道を照らす洋灯と衣服が入った荷物はルイスが持ってくれた。
「トキゴウ村の公衆浴場って、孤児院のものとは違うのね」
「孤児院ではお湯を張って、男女別で入ってたからな」
「私とルイスで下の子たちを世話していたわね」
帰り道は思い出話で盛り上がった。
孤児院では近くを流れている川の水を汲み、それを沸かしていた。
そのため、風呂は三日に一度と限られていて、特別感があった。
「お前がいなくなってからは、俺が全員面倒みてたけどな」
「そうなんだ」
孤児院の話題はすぐに終わる。
私がいなくなってすぐに、孤児院は火事で全焼し、そこに住んでいた子供たちが惨殺されたのだから。
「あの、さ」
「なに?」
「家に戻ったら、大事な話があるんだ」
「大事な……、話」
私たちが帰る家まではもうすぐ。
どんな話がされるのかドキドキしながら、私は家に帰ってきた。
☆
「……こっちに来てくれないか?」
家に帰るなり、私はルイスに腕を掴まれ、引っ張られる。
そのままついて行くと、ルイスの部屋に入っていた。
私はベッドの端に座らされる。
「お前に渡したいものがあるんだ」
「……開けてもいい?」
「おう」
私はルイスからプレゼントを貰った。
それは包み紙とリボンが飾られていて、中身が分からない。それはくすんだ色をしていて、購入してから、数年経っているようだ。
私はリボンを解き、包み紙を開く。
「あ……」
それは、一冊の絵本。
私がお母さんに買ってもらった童話の本。
暖炉の炎で焼け、読めなくなってしまった形見の本だ。
「これ、私に?」
「……五年前、初めて貰った給料で買ったんだ。いつかロザリーに会って渡すんだって」
「嬉しい。ありがとう」
私はルイスから貰った本をぎゅっと抱きしめた。
「読んでもいい?」
「ああ」
「……隣に座って」
貰った本を開く。
私は裏表紙に【ロザリー】と自分の名前を書いていた。真っ白になっている箇所を指でなぞる。
昔、母は寝室でベッドの端に座り、絵本を読み聞かせてくれた。
私はルイスを隣に座らせ、母のように絵本の文を読み上げる。
ルイスは黙って私の音読を聴いてくれた。
一つの物語を読み終え、私は絵本を閉じる。
「ロザリー」
「なーー」
ルイスの方へ顔を向け、返事をしようと口を開いたところまでは覚えてる。
(え……?)
言葉を遮られ、私の唇に柔らかい感触がした。
それがキスで、相手がルイスだということを理解するのに、時間がかかった。
「ルイス……?」
唇が離れ、ルイスの顔が離れたところで、私は彼の名前を呼ぶ。その声は震えていて、動揺が隠せなかった。
「ずっと、五年前から……、お前が好きだ」
「えっ!?」
「初めて出逢ったときから、一目惚れだった」
食事の時に話していた好きな人が私だったんだ。
ルイスに愛の告白をされ、私の心臓が高鳴る。
「私……、仲直りしたけど、ルイスのことーー」
「昔の俺は嫌な奴だったと思う。でも、ちょっかいをかけることしかロザリーと話せなかったんだ」
「あの頃から、私のことを……、好きだったの?」
「ああ。ずっとお前しか見てない」
私とルイスが再会するまでの五年間。
クラッセル子爵家に拾われた私は、その暮らしが幸せでルイスのことなど考えたことがなかった。
けれど、ルイスは別れてからも私のことを想っていた。彼の真摯な眼差しから、本当のことを言っているのだと分かった。
「俺はロザリーと一緒になりたい」
「……」
頬が熱を帯びている。
私、ルイスにプロポーズを受けた。
きっと、五年前に同じ話をされていたら、「嫌」と即答し、振っていただろう。
五年で、ルイスは変わった。
身長は私よりも伸び、身体も一回り大きくなった。剣だこのある大きな手に、鍛え上げられた肉体。
抱きしめられたときは、息が出来なくて苦しかったけど、護ってくれそうな安心感があった。
過酷な過去を乗り越え、侯爵家で使用人として働き、士官学校生として生活したおかげか、精神面も強くなっている。
魅力的な男性に成長したと思う。
現に、仕えていた侯爵令嬢から言い寄られているようだし。
「私で……、いいの?」
「ロザリーがいいんだ」
ルイスであれば、私よりも綺麗で地位のある貴族と結婚できるはず。
ルイスの相手が私でいいのだろうか。
そう呟くと、ルイスは即答した。
「俺が騎士を目指すのは、貴族になったお前と結婚したいからだ」
士官学校で上位の成績をキープしているのは、騎士になるため。その目的も私のためだったなんて。
「お前はひとりぼっちにならない。俺が、ずっと傍にいる」
「……うん」
私はルイスにもたれかかった。
互いの肩が触れ合う。
ルイスの大きな手が私の肩にまわされる。
「ロザリー」
「……ルイス」
私たちは互いに顔を近づけ、キスをした。
そして、長い夜を過ごしたのだった。