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それからルイスさんの行動は早かった。分身達の体内から次々と白い紙を見つけ出しては燃やしていく。再生さえできなくなってしまえばこっちのものだ。最初から戦闘面ではルイスさんの圧勝だったのだから。釣り小屋を取り囲んでいた数十体の分身は、そう時間もかからないうちに一掃されてしまった。


「全部片付いたかな……」


少女の分身を全て倒してバルコニーに戻ってきたルイスさんは、剣を鞘に収めた。燭台もテーブルの上に置く。それを見てようやく肩の力が抜けた。ルイスさんが窓を開けて釣り小屋に入って来る。


「ふたり共、よく頑張ったな」


彼はそう言って私達の頭を撫でた。すっかり緩くなってしまった涙腺は、それだけで涙が溢れそうになる。


「あいつらを倒せたのは姫さんのおかげだよ、ありがとう。後はレナードの方だな」


そうだ、まだ終わっていない。レナードさんは大丈夫かな……。ルイスさんが桟橋の方へ視線を移したので、私も一緒にそちらに目を向けた。そこにはいまだ少女と激しい攻防を繰り広げているレナードさんの姿があった。


「俺が相手してた雑魚共よりは良い動きをする。でもレナードの敵じゃないよ。手こずってるっていうのは何度倒してもすぐに元に戻っちまうからだね」


そこは分身達と同じなんだよな。見た目の精巧さや戦闘能力の高さからしても、本体の少女が分身達よりも優れているのは明らかだけど。あの少女の体内にもあの紙が存在するのだろうか。


「火種を持って助太刀に入ろうと考えてるけど……姫さんはどう思う?」


ルイスさんは再びバルコニーへ移動すると、テーブルに置いていた燭台を手に取った。そして私に向かって手招きをする。分身達がいなくなったから外に出てもいいようだ。


「姿勢を低くしてゆっくりこっちにおいで。静かにね」


人差し指を口元に当てながら、彼は小声で囁いた。私は言われた通りに膝を曲げ、しゃがんだ体勢でバルコニーに向かった。リズが心配そうな顔でこちらを見ているが、今はルイスさんが側にいるので大丈夫だと判断したのか何も言わなかった。ルイスさんが立っている手摺りの近くまで行くと、彼も私に合わせて腰を下ろす。


「こっちを気にする余裕は無さそうだから多分平気。でも一応念のためね。そこの手摺りから覗いてみな」


手摺りの下から半分だけ顔を出すと、小屋の中から窓越しで見た時よりもレナードさん達の姿がはっきりと分かる。桟橋の上を動き回る足音や、武器同士が触れ合う音まで聞こえてきた。


「見てくれだけなら人間と変わらないんだよなぁ。あんなの俺達も初めて見るよ」


「あの黄色に光る紙から不思議な力を感じました。まるで……」


「魔法みたいだよね」


ルイスさんもそう思っていたのか。彼はレオンの側近だし、魔法を身近で見る機会も多いのだろう。最近になって知識を付け始めた私なんかよりよっぽど詳しいのかもしれない。


「あの紙に心当たりが無いわけじゃない。どこから来たとか、誰の仕業だとかはさっぱりだけどな」


「どうして私達を襲ってきたのでしょうか」


「さあ……それも含めて詳しく調べなくちゃいけないね」


レナードさんがまた少女の腕を切り落とした。やはり強さは彼の方が圧倒的に上だ。勝負になっていない。腕を切られた衝撃でよろついた所へ更に足払いをかける。足をすくわれて少女は仰向けに転倒した。彼は畳み掛けるように少女の腹部を足で踏みつけ動きを封じ、胸元に思いっきり剣を突き刺した。なんてえげつない……しかし、流れるような一連の動作に目を奪われてしまう。


「切っても切っても元に戻る。心臓を抉っても無駄か……内蔵自体あるか怪しいけど。キミはどうやったら死ぬのかな?」


レナードさんが何か喋っている。内容まではよく分からないけど、少女を見下ろしているその顔が笑っているようにみえて少し怖かった。


「あのハゲ……また変なスイッチ入ってんな。おーい! レナード、加勢しようか?」


ルイスさんの呼びかけにレナードさんはすぐに反応した。顔を上げて私達がいるバルコニーの方を見る。足は少女を踏みつけたままだ。レナードさんの瞳がみるみるうちに丸くなる。さっきまでの顔とは別人だ。今の驚いてるみたいな表情は普段よりもあどけなかった。


「クレハ様!? 駄目ですよ! そんな所にいたら、危険です! ルイス、何やってる!!」


「わっ、私!?」


まさか自分のことを言われるとは思わなかった。でも私達とは離れて戦っていて、こちらの状況など知らない彼から見たら当然の反応か。


「お前が気色悪い顔してっから姫さんビビってたぞ。つか、そんなキレんな。こっちはもう片付いた。姫さんのおかげでな」


「えっ! うそ、そんな顔してなっ……クレハ様違います!! ちょっと気が昂ってただけで……お願いだから怖がらないで下さい!」


「気にすんのそっちかよ。おい、ハゲ! お前の下にいる黄色いガキの体よく観察してみろ。どっかに白い紙隠し持ってないか?」


あったらこいつで燃やしてやると、ルイスさんは燭台を目の前に掲げた。すると、倒れていた少女の体がたちまち崩れてドロドロになっていく。分身達と同じだ。傷つけられると一時的に形を保てなくなる。でも、すぐに元に戻って……


「あっ!!」


ドボンと何かが水の中に落ちるような音がした。突然のことに私はもちろん、レナードさんとルイスさんも呆然としてしまう。

少女が桟橋の縁から湖の中へ飛び込んでしまったのだ。体を再生することもなくドロドロの状態のままで。どれだけ傷つけられても、自分の分身達がやられてしまっても全く引こうとしなかったのに……

ルイスさんが燭台を見せたから? やはり、少女の体内にもあの紙が入っていて、燃やされることを恐れて逃げ出したのだろうか。


「あー、クソ。やられた……」


ルイスさんが悔しそうに呻いている。湖に逃げられては、もうどうすることもできない。釣り小屋にボートがあったけど、それで追いつけるわけがないし……


「クレハ様……化け物逃げちゃったんですか?」


後ろからリズが恐る恐るといった感じで覗き込んできた。その手には、私が渡した包丁が今もしっかりと握り締められている。


「うん、そうみたい。ほら……もうあんな所まで泳いで行っちゃった」


少女は私達が釣りをしていた生簀も通り越して、どんどん島から離れていく。ここからではもう豆粒くらいの大きさにしか見えない。あの体で泳げるんだ……しかも早い。


「取り逃したのは残念だけど、クレハ様達に怪我が無かっただけ良しとしようか」


レナードさんもこれ以上の後追いは無理と判断したようで、剣を納めた。

少女は湖を渡っていく。少女と言っても、今は水飴みたいな姿だけれど。私はリズと共にその光景を眺めていた。すると、逃げていく少女のすぐ隣に黒い影のような物が浮かび上がっているのに気づいた。その影は次第に大きくなっていく。


「ルイスさん、あれ……」


周囲の水が波打ち、湖面が盛り上がっていく。何かいる……湖の中にとても大きな何かが――

それを見た瞬間、私は言葉を失った。



大量の水飛沫をあげながら姿を現したもの……それは、10メートルは優に超えるであろう巨大な魚だった。水中から勢いよく飛び上がると体を捻るように一回転させ、再び水の中に潜っていく。ここからでは距離もあり、その姿を鮮明に捉えることはできなかったけれど、あんな大きな体が水から完全に浮かぶくらいの大ジャンプに圧倒されてしまう。近くにいた少女は、魚が現れた時の衝撃で起きた波に煽られて泳ぐことができず、その場に漂っている。

魚がまた浮上してきた。今度はその巨大な体に見合った大きな口をばっくりと開けながら……そのまま少女の方へ近付いていき……



「食べた……」



やっとのことで口から出たのは、何とも間の抜けた声だった。それは一瞬の出来事で……魚は周りの水ごと少女を飲み込んでしまったのだ。そして、何もなかったかのように水中へ消えていき、戻ってくることは無かった。


「また化け物!! もう嫌!」


リズは手にした包丁を地面に落として叫んだ。


「リズ、落ち着け。大丈夫だ、あれは俺達も知ってる化け物だから」


「それってもしかして……」


「そう。噂の湖の怪物こと『ミレーヌ』だ。人喰いなんて言われてるけど、大人しくて優しい性格なんだよ」


レナードさんも同じこと言ってたけど、さっきのアレを見た後だと、ちょっと疑わしいのですが……。ミレーヌって女の人の名前みたいだ。誰が付けたんだろ。


「ミレーヌは湖の番人……そして女神の隷属。これはメーアレクト神もお怒りなのかな」


レナードさんがバルコニーの手摺りの上に立っていた。いつの間に桟橋から移動したのだろう。まさか下から飛び移って来たのか。


「レナードさん……って、ひゃあ!?」


「クレハ様!! ご無事で良かったです。怖かったでしょう?」


彼は手摺りから降りて早々、私に思いっきり抱きついてきた。その勢いに驚いたけれど何故だか少しホッとした。レナードさんはやっぱり良い匂いがする。


「お前はホントにこりねーな」


ルイスさんは溜息混じりに呟くと、私にしがみ付いているレナードさんの頭を軽く小突いた。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

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