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ATTENTION
※人肉嗜食を推奨するものではありません。イタイぞ!!病気になるぞ!!
※趣味・癖、コッテコテです
※序盤gdgd失礼
◆
「いただきます」と言えば牛も鶏を食べていいのに、どうして人間は食べちゃいけないの?
そう聞くと、大抵の人は嫌な顔をする。
先生は「人権があるからだよ」と。
科学者は「リスクに対してカロリーもメリットも少ないからさ」と。
友達は「自分が食べられたくないから」と。
僕こと小林 満は、昔から人の気持ちやみんなの当たり前がよくわからない。
僕はただ──皆で仲良く食卓を囲んで
温かい人間のステーキが食べたいです。
◆
窓の外で散る桜を横目に「一緒に帰ろう」なんて言葉が教室で飛び交う中、僕は人だかりが過ぎるまで机で本に目を落とす。
最近、まともに人を見られなくなった。
昔から何度も人を食べているせいか、人を見るたびに「どこから切り分けるのが綺麗か」と考えてしまう。独学だけど。
きっとこの思いは誰もわかってはくれないんだろう、なんて思っていた。
「あのー、小林先輩って、いますかー?」
「…僕?」
◆
「ごめん、忘れてた。新入生に教えるやつか。すぐ行くよ。」
「全然大丈夫ス。
てか図書委員ってぶっちゃけ仕事ないと思ってたっス。」
前髪を上げた額。不機嫌そうな目。
「あはは、そんなことないよ。本の管理が主な仕事。ゆっくり説明するから、一緒にやっていこうね。」
「うっス。」
首だけで挨拶した彼は、西園寺 颯というらしい。
なんだかいちごの良い香りがする、小さなヤンキー。
◆
「…なんか…いちごの匂いする?」
「あー、昼にいちごオレ飲んだんで、それスかね。」
ミルクと、人工的な苺の香料。
それに混ざる体温の匂い。
「そうなんだ…。
なんだか…──」
おいしそう、と言いかけて口を噤んだ。
「…?」
「ご、ごめん。なんでもないよ。
…いちご好きなの?」
「まぁ、嫌いじゃないスね。」
颯くんはそう言いながら、乱暴に鞄を机に置いた。ジャラ、と安っぽいキーホルダーが鳴る。
「子供っぽいってよく言われるんスけど。」
「ふふ、いいと思うよ。甘いもの好きな人。」
「……先輩、なんか先生みたいな喋り方するッスね。」
「そう?」
「怒んなさそう。」
「そうかな。怒るよ、ちゃんと。」
「へぇ。」
興味なさそうに返事をしながら、颯くんは本棚を見上げた。
窓から春の風が入ってくる。
桜の匂い。
紙の匂い。
埃。
それから、颯くんの匂い。
あたたかい。
「……。」
喉が鳴りそうになって、僕は慌てて口を閉じた。
駄目だ。
最近ほんとうに良くない。
人を見るたび、お腹が空く。
「先輩?」
「え?」
「これ、どこに戻すんスか。」
差し出された本を受け取ろうとして、
指先が触れた。
びくり、と肩が揺れる。
颯くんじゃない。
僕の方だ。
「……?どしたんスか。」
「ご、ごめん。」
たったそれだけなのに、
胸の奥がざわざわした。
柔らかかった。
人間だ、と思った。
その瞬間
空腹とは別の何かが、腹の底でゆっくり熱を持ち始める。
嫌な予感がした。
「…は、颯くん。」
「なんスか」
「……これ終わったら、一緒に帰ろう?」
◆
「満ってかいてんのに”ミチル”じゃなくて”ミツル”なんスね、珍しい気がします。」
「そうかな?僕は西園寺の方が珍しいと思ったけど。本でしか見た事ないもん。」
夕暮れ、桜並木の下を二人で並んで歩く。絵に書いたような青春の1ページだと思った。
「…見て、桜…綺麗だよね。僕この景色を歩きたくてここに入学したんだ。」
「へえ、文学的っスね。
俺は家に桜いっぱい植わってるんで、もう見飽きたっス。」
「いいな、お家に桜あるんだ。でもたしかに、近くにあると薄れちゃうのかも…」
「あ、でもピンクは好きっスよ。おいしそうなんで。」
他愛もない会話をしながらも、僕の心は穏やかじゃなかった。
颯くんを見ていると何故か落ち着かない。綺麗な首筋、風に揺れる前髪、ふと見えるうなじ、綺麗な指先。総てを目で追ってしまう。
どうしよう。なんて、解決する気もないのに悩む言葉だけが燻って、何にもならない。
思考を逸らそうと視線を逸らすと、大きな家の塀の向こうに、これまた綺麗な桜が見えた。
「ここも桜咲いてるんだね。ああ…これが1週間で散っちゃうなんて、勿体ないな。」
その時、颯くんが「あ。」と声を出した。
「俺ん家、ここッスね。」
「……──!?」
声にならない、変な声が出た。
◆
颯くんは立ち止まり、当然みたいな顔で門柱を指さす。
そこには確かに、『西園寺』と彫られていた。
「……ほ、本当だ。」
「そんな珍しいスか。ずっと前から建ってますよ。」
「そ、そうだけど…。」
あまり実感が湧かない。地味な家に住むのが普通だと思っていた。こんなに煌びやかな家は、夢物語だとばかり。
庭には桜の木が何本も並んでいる。どれも手入れされていて、いかにも”お金持ち”の家だ。
「……すごい。
なんか…羨ましいや。」
「そスか。俺も、感謝はしてるっスけど。」
どこか含みのある言い方だったが、あまり詮索はしなかった。
その時。
ぎゅるる、と小さな音が鳴った。
「あはは、お腹空いたスか。」
「…ご、ごめん。」
「まあ生理現象っス。
あれ、先輩一人暮らしなんスよね?夕飯何食べるんスか。」
「え。」
さりげなく探られている気がして肩が強ばった。
「…あんまり、決めてないや。余り物でなにかするよ。」
「へえ。なんか、自由でいいスね。」
──自由。
あまりにも、自分とかけ離れた言葉だと思った。世間に縛られている感覚が強かったから。
「…そうかな。」
「俺ん家、ご飯は豪華なんスけど…。なんか、落ち着かなくて。
もっと、”お母さんの作ったハンバーグ”とか、食べてみたかったっス。」
「…そうなんだ。
なんか──憧れるよね。」
ゆっくりと沈む日の中。
夕暮れの風が桜を揺らした。
花びらが一枚、颯くんの肩に落ちる。
綺麗だ、と思った。
触れたくなるくらいに。
「……先輩?」
「え?」
「どうかしました?」
「あ、ごめん。」
慌てて視線を逸らす。
心臓が変だった。
お腹が空いている時みたいに、胸の奥がじわじわ熱い。
颯くんは少しだけ笑って、
肩の花びらを払った。
「先輩って、なんか変な人っスね。」
「そうかな。」
「そうっスよ。
…でも優しくて、そんで意外と面白いっス。」
くすくす笑いながら言う声は、見た目よりずっと柔らかい。
そのまま沈黙が落ちる。
遠くでカラスが鳴いていた。
帰らなきゃ。
そう思うのに、足が動かない。
もっと一緒にいたかった。
もっと。この匂いの近くにいたかった。
「……先輩。」
「ん?」
「今日、適当に食べるって言ってましたよね。」
「うん。」
「一人で食うんスか。」
「まあ、そうだけど。」
「ふうん。」
颯くんは少し考えるみたいに空を見上げてから、何でもないことみたいに言った。
「ウチで食べていきます?」
「……え?」
「ご飯ならいっぱいあるんで。」
その瞬間。
ぐらり、と頭が揺れた気がした。
“ご飯ならいっぱいある”。
その言葉だけで、胸の奥がいっぱいになる。
知らないはずなのに。
ずっと昔から、欲しかった言葉みたいに聞こえた。
「…いいの?」
確かめるような震えた声が出た。
それに颯くんはなにか察したのか、わざとらしくニシシと笑った。
「いいんスよ。」
◆
チリンチリン♪
「ただいまー」
心地いいベルの音と同時に、軽い声が落ちる。
「おかえりなさいませ、颯さま。」
すぐに返る、丁寧すぎる声。
整った所作で使用人が頭を下げる。
颯くんは靴を脱ぎながら、さっさと奥へ声を投げた。
「先輩の、友達の満さん。今日ここで夕飯食べていい?」
少しも迷いがない。直ぐに明るい声が返ってくる。
「ええもちろん。颯さまのご要望ですから。」
「ありがと」
「お、お邪魔します…!」
そのまま振り返りもせず歩き出す颯くんの後ろを追うと、廊下の先で別の声が飛んできた。
「はやちゃんおかえりなさい♡」
派手な香りと一緒に現れたのは、やけに明るい笑顔の人だった。
「ちゃんと服着てから来いエロ親父……ッ!」
颯くんの声が一段階低くなる。
そのやり取りを見て、使用人が慣れたように咳払いをひとつする。
「颯さま、夕食はすぐにご用意できますが。」
「う、うん。おねがい。」
「かしこまりました。」
何事もなかったように会話が流れていく。
僕はその光景を見ながら、少しだけ息を飲んだ。
誰も止めない。
誰も否定しない。
ただ、全部がそのまま流れていく。
「……先輩、こっち。」
颯くんが振り返る。
さっきまでの乱暴さが、もう少しだけ薄れていた。
その声に、僕はようやく足を踏み出した。
◆
「とりあえずここ座ってもらって。ここ。」
当然のように、ぽんぽんと隣を叩く颯くん。
距離が近い。なのに、嫌な感じはしなかった。
「さっきの人……お父さん?」
「んぁー…」
颯くんは一瞬だけ言葉を探してから、顔をしかめた。
「…いやほんと恥っス。やめてほしい……」
そう言ったまま、膝に顔を埋めるようにして頭を抱える。
「いわゆるオカマなんすよ。親父。」
「……そうなんだ。」
否定でも肯定でもない言い方になった。
どう受け取ればいいのか分からなかったけれど、颯くんは特に気にしていない様子だった。
「でもさっきの、面白かったよ。」
僕がそう言うと、颯くんが顔を上げる。
「マジすか?
「うん。」
その一言で、少しだけ肩の力が抜けたみたいに見えた。
「いや昔の話なんすけど、まだ母さんがいた時、親父が…───」
颯くんが身振りを交えて話し始める。
それはたぶん、家の中で繰り返されてきた日常の話だった。
途中で何度も言葉を間違えて、何度も言い直して、最後には自分で笑ってしまうような話。
気づいたら、僕も笑っていた。
息が詰まるくらい、ちゃんと笑っていた。
「もう何言ってるかわかんないと思うんスけど!ほんとなんスよ!!」
「あはははっ」
涙が出るくらい笑うのは、いつぶりだろう。
こんなふうに、誰かの話を聞いて笑うことが。
「んふふ…。なんか、いいっスね。」
颯くんがぽつりと言う。
その声は少しだけ静かだった。
「……こういうの。」
笑いの余韻が残ったまま、時間がゆっくり落ち着いていく。
「……あの。」
颯くんが少しだけ姿勢を正す。
「名前…満さんでいいスかね。」
「満でいいよ。」
「じゃあ満。俺も颯で。」
「うん。」
短い沈黙。
そのあと、颯くんが少しだけ眉をひそめた。
「……なんか違うな。」
「え?」
「満。」
一拍置いて、言い直す。
「みつる……?」
「うん。」
「…あ!みつるんとかどーっスか。」
「え?」
「みつるん。」
「ふふっ……」
思わず笑ってしまった瞬間。すぐそばから声が飛んできた。
「なーに話してんの♡」
「うわっ!?」
颯くんが一気に顔をしかめる。
「ねーねーみつるん、うちのはやちゃんとどんな関係なの〜?」
「やめて、普通の友達だ!」
「えーでも結構イケメンじゃない?♡」
「やめろって!もう!」
「あははっ、いいんだよ何でもさ。」
声が重なって、部屋の空気が少しだけ騒がしくなる。
でも不思議と、嫌ではなかった。
むしろ、さっきよりずっと“生きている音”がした。
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