テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◇◇◇◇
「セレナ」
レオニスが静かに呼ぶ。
「少し、バルタザールと話がある」
「え? 私もご一緒しては……」
「いや」
きっぱりと遮る。
「クリスを付ける。城下を自由に散策してこい」
「はい」
セレナは察して、それから小さく頷いた。
「クリス」
「は」
「守れ」
「命に代えても」
短く答え、クリスはセレナと共に部屋を出る。
扉が閉まる。
空気が変わった。
「ここで会食する気か?」
バルタザールが腕を組む。
「我以外には誰もいないのだぞ」
「お前が居たら、それでいいだろ」
レオニスは椅子に深く座り直す。
「教皇は飾りか?」
「バリスハリスは先代から知っているが、今の王は教養もないと見える」
「それはお互い様だ」
一瞬の間。
「……確かに」
バルタザールが豪快に笑った。
「で?」
教皇の声が酷く冷静になる。
「何用だ?」
「もう知っているだろ。あちらさんは、戦争を国技として決着をつける気でいる」
「ああ知っている。ユークリッドのやつがな」
バルタザールは鼻を鳴らす。
「そんな愚かな奴に成り下がっているとは知らなかった。だが……良い手だ。見世物にした方が他の国は手を出せない」
「そうだ。全世界に宣言した。逃げれば臆病者。乗れば血祭りだ」
レオニスの目が細くなる。
「俺がそれを知ったのは、お前らと同じ。全世界に宣伝した時だ。でも俺は突っ返してもいいと思っていた」
そこで、声が一段低くなる。
「勝利報酬に『万能薬・白の魔女』と書かれていなければな」
空気が軋んだ。
圧が生まれる。
竜を斬ってきた男の殺気が、静かに滲む。
「他国の見世物になる気はなかった」
ゆっくりと立ち上がる。
「だが、エルピアータ帝国もろとも、ヴァルディウス王国を叩き潰す」
その目は鋭い。
「協力しろ。教皇バルタザール」
沈黙。
空気すら重かった。
「……我らが協力した暁には、何がある?」
「俺に貸しが作れる。それで十分だろ」
「我らが、白の魔女が欲しいと言っても、同じことが言えるか?」
レオニスの瞳がわずかに揺れた。
「何だと」
「白の魔女は、神と呼ばれるほどに信仰を集めていた」
バルタザールは淡々と言う。
「奇跡は、教義を揺るがす。救済は、神の専売特許だ」
レオニスがガタンと椅子に座った。
「我らも、白の魔女には『生きていてもらっては困る』のが事実だ」
バルタザールが椅子から立ち上がる。
「今日は、それを伝えに来た」
「……お前の考えか?」
「我ではない」
バルタザールは首を横に振る。
「エリシュニカ聖教国の総意だ」
低い声で告げる。
「バリスハリス王国との同盟を返上する。我らはヴァルディウス王国に付く」
空気が凍る。
「本気か、バルタザール」
「盟友レオニス・バリスハリスに誓って、敵対はせぬ」
苦い顔で続ける。
「だが、味方にもなれぬ。これが教皇バルタザールの、我にできる精一杯だった」
長い沈黙。
「……そうか」
レオニスは目を閉じる。
「すまなかったな」
「いい」
バルタザールは眉間に皺を寄せる。
「力になれなくて、こちらこそすまない」
二人の間にあるのは、裏切りではない。
かつて竜を討った英雄と、共に杯を交わした盟友。
その距離が、確かに一歩離れた。
窓の外では、まだ陽が高い。
バルタザールは部屋を出て行った。