「ほっ、本当にデートに行くの?」
「本当だ」
相手がいなくて、今までしたことがなかった憧れのデート。
その言葉を聞いただけでドキッとして顔が熱くなる。
でも、外で仕事をして、汚れた姿で行けというのだろうか。
髪の毛が乱れていて、顔に土がついているこの状態で……。
強引に始まったデートだけど、できれば身なりを綺麗に整えてから行きたかった。
そもそもセツナとライさんに監視されている立場として素直に喜んでいいのか分からない。
何を企んで私と出掛けるつもり……?
疑問が残りつつも、前を歩くセツナの背中を見ながらついて行く。
聞きたいことは山程あるのに、デートだと言われた後にふたりきりになると何から話せばいいのか分からなくなる。
胸が高鳴るけど、不安もある。複雑な気持ちだ。
これは“恋”に似ているんだろうか……。
恋をすると、ドキドキして胸が苦しくなるっと女友達から聞いたことがあったけど……。
まだよく分からない――
結局、王都の賑やかな場所に来るまでセツナに話し掛けることができなかった。
向かったのは、多くの人々が行き交い、肉や服など売っているお店が立ち並んでいる真っ直ぐな大通り。
そこから脇道に入ったところでセツナは足を止めて、私に見て欲しそうに指を差す。
「雑貨屋なのかな……?」
可愛いぬいぐるみ、ルームウェア、バッグやポーチ、鏡など多くの種類の物が陳列されている店。
どうやらここに私を連れてきたかったようだ。
「いらっしゃい。あら、セツナ様じゃないか。
ライくんじゃなくて、女の子を連れているとは珍しいねぇ」
店の中からドレスを着た小綺麗なおばちゃんが出てきて私たちに話し掛けてくる。
気軽に話し掛けてくるからきっとセツナの知り合いなんだろう。
「いい女を見つけただろ?
ライに建築の技術を教えて、料理もできる賢い人だ」
「すごいわね。でもセツナ様の妻の座を狙うなら、色々できすぎちゃうのも良くないわよ」
「わっ、私がですか……!? あはは……」
「なぁ、おばちゃん。
女が毎日使う物をくれないか?
高級食材一週間分と交換でな」
「有り難いねぇ。セツナ様のためならいくらでもくれてやるよ。
……ところで紅色の羽織はいつ着るんだい?」
「王子としてやる事ができたからまだ先だな。
かけら、欲しい物をゆっくり見て選んでこい。
必要な物がここにあるはずだ」
「分かった。セツナも一緒に見ないの?」
「じっ、自分で選べ。
オレにはまだ……選ぶ勇気がない……」
急に頬を赤くするセツナを見て首を傾げた私は店の中に入って商品を見ることにした。
毎日使っていた櫛や鏡など見ているとおばちゃんが隣にやって来て商品を入れる籠を渡してくれる。
その籠が赤い色をしていて、さっきしていた話がふと頭に浮かんできた。
「あの……、紅色の羽織ってなんですか?」
「知らないのかい。
クレヴェンの王が代々受け継いできた羽織さ。
紅色をした羽織に金色で綺麗な刺繍が入っている。
背中には獅子のように逞しいノウサ様が描かれているんだ。
それに、王族は必ず赤色の物を身につける決まりがあるのよ」
「セツナ王子の羽織は赤くないですよね?」
「あの子は国を背負う重さを小さい頃から気にしているのか、赤系の色の服は着なくてね。
前回の戦いで王様が足を怪我して動けなくなってしまったから、余計に責任を感じているのかもしれないわ」
「そんな事があったなんて……」
「この前、スノーアッシュから迷って来た人がいてね。
セツナ様とライくんが助けたんだけど、看病して回復した後に裏切られて問題になったんだよ。
それもあってセツナ様は今も大変な想いをしているの。
身分や生まれた場所も関係なく、誰にでも手を差し伸べられる優しい子なのにね……。
早く結婚して幸せになってもらいたいものだよ」
「…………」
「そうだ! お嬢さんがセツナ様の代わりに赤を身につけるかい?
うちの店では、女物の下着が売れていてね。
今は紅色の下着が人気なんだよ」
「目立たない色でお願いします」
おばちゃんに世話を焼かれながら商品を手に取り、籠の中がいっぱいになっていく。
櫛や下着だけではなく、パステルカラーのパジャマやポーチ、化粧品のような物まで入っている。
毎日使う物が一通り揃った後、籠の中に入れた商品をおばちゃんが黒い革で作られた大きめのリュックに詰め替えて渡してくれた。
「リュックはおまけ。セツナ様をよろしくね」
笑顔でそう言ったおばちゃんに見送られて店を出てからセツナを探して合流する。
どこかに行っていたのか、袋を背負っている。
「待たせてごめんね」
「必要な物は全部揃ったか?」
「十分なくらい揃ったよ」
「大事なことに気がつけなくて悪かった。
髪を整えたり、着替えたりしたかったよな」
「準備不足の私が悪いだけだからセツナは何も気にしないで。
……気付いてもらえただけでも嬉しかったから」
「そうか……。待っている間にかけらにあげた服に似ているやつを持ってきたんだ。
もう一着あれば困らねぇだろ」
「これをくれるために私を連れ出したの……?」
「まだ終わってないぜ。次の場所に行くぞ」
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