コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「おい! ゴブリン王! うちの家族に手を出そうとするとは、さすがは強欲の罪に例えられるモンスターなだけあるな!」
全身に纏《まと》っている黒い鎧と背中から生えている四枚の黒い翼と、尾骨から生えている先端がドリルのシッポと黄緑色の瞳が特徴的な『ナオト』が仰向けで倒れているゴブリン王を空中から見下ろしながら、そう言うと。
「ふっふっふっふっふ……。人間ごときが我に敵うとでも思っていたのか? どこの誰だかは知らないが我に歯向かうのなら、我は貴様を全力で潰すまでだ! 覚悟しろ!!」
ゴブリン王は地面に落ちていたケリュケイオンのような杖を持ちながら、立ち上がった。
「ミノリ、雲雀《ひばり》を連れて一度、撤退しろ」
ミノリ(吸血鬼)にそう言ったナオト(『第二形態』になった副作用でショタ化してしまった身長『百三十センチ』の主人公)に対してミノリはこう言った。
「バ、バカなこと言わないでよ! あたしはまだ戦えるわ! だから、一緒に……」
「ダメだ。お前に、こいつは倒せない」
「そんなのやってみなくちゃ分からな……」
「お前の唯一の弱点は、自分と相手の強さの差がどれくらいあるのか、ろくに知ろうとせず突っ込んでいくことだ。だから、今回勝てなかった。そうだろう?」
「う……そ、それは……そうだけど……」
「なら、こいつは俺に任せて、お前は雲雀《ひばり》を連れて一度、撤退しろ。あと、ゴブリンはまだまだいるから、そっちを頼む」
「……わ、分かったけど、無茶はしないこと! いいわね!」
「ああ、肝に銘《めい》じておくよ」
「うん。それじゃあ、またあとでね」
「ああ……」
ミノリ(吸血鬼)は気を失っている雲雀《ひばり》を抱き抱えると、その場から急いで離れ始めた。(雲雀《ひばり》は四聖獣の一体『朱雀』である。ここに登場したのは、その本体のことである)
「さてと……」
ナオトはゆっくりと地面に着地すると、ゴブリン王を見上げた。
「待たせたな。さあ、続きをやろうぜ。ゴブリン王」
「たった一人で我を止められるとでも思っているのか? バカなやつだ。今からあの吸血鬼と同じ目に遭《あ》わせられるということが分かっているのか?」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとやるぞ。臆病者」
「人間ごときに我が恐れを抱くだと? 勘違いも甚だしい! 貴様など、我の敵ではないわあ!」
「なら、見せてみろよ。ゴブリン王。お前の本気を」
「……! 人間ごときが、調子に乗るなあああああああああああああ!!」
ゴブリン王は杖の握りを俺に向けると、こう言った。(部位がわからない人は『杖のしくみ』で検索)
「我の前に跪《ひざまず》けえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
____しかし、俺の身には何も起こらなかった。ゴブリン王は、もう一度俺に命令した。
「我の前に跪けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
____またしても、俺の身に何も起こらなかったため、ゴブリン王は何度も……何度も……何度も、俺に命令した。
しかし、何度やっても、目の前の人間はピクリとも動かなかった……。
ナオトは溜め息を吐《つ》くとこう言った。
「なあ、もうやめにしないか? 俺は別にお前を恨んじゃいないし、できれば、お前と戦いたくもないんだ。だから……」
「黙れ! 人間風情が我に命令するな!!」
「命令? 俺はただ提案してるだけだぞ?」
「我にとってはどちらも同じことだ! こうなったら我が直々に貴様を殺してやろう! 覚悟しろ!」
「あー、やっぱりこうなるのか……。じゃあ、冥土の土産にいいこと教えてやるよ。聞くも聞かないもお前次第だけどな」
「ふん! 時間稼ぎのつもりか? いいだろう、貴様の策に乗ってやろうではないか!!」
……この上から目線なのがゴブリンたちの王様か。偽りの王を倒す英雄がゴブリンたちの中から生まれることを願うが……まあ、今はいいか。
俺は自分がなぜ、ゴブリン王の杖の効果を受けないのか、説明し始めた。
「いいか? たしかに俺はただの人間だが、この世界に来る前から耐性がついているものがあるんだ。その一つが『命令系の魔法』だ。なんでかわかるか?」
「我がそれを知っていたとしたら、貴様に使うわけがなかろう!」
だよなぁ……。でも、知ってても使いそうだよな、こいつ……。
「分かった、分かった。今から教えるから、よーく聞けよ? 俺に『命令系の魔法』が効かないのはな、お前がさっき跪《ひざまず》かせていた吸血鬼の魔法がお前と似たような魔法で俺はそれを何度かくらったことがあったからだ」
ゴブリン王はそれを聞いて、この人間は……普通の人間とは明らかに次元が違うと思った。
この人間の強さがどれくらいのものかはわからない。
しかし、この人間の言うことを聞いていた吸血鬼たちが、この人間と同じ……もしくはそれ以上の力を持っているとしたら?
ゴブリン王は『王の直感』という『王の称号』を持つ者だけが得ることができる『専用スキル』から、それを理解した。
____しかし、ゴブリン王はそれを知ってなお、その人間に戦いを挑んだ。
「それがどうしたというのだ? まさか、そのような小さな体で我に勝てるとでも思っているのか? やめておけ、貴様が我に勝てる可能性など、ゼロに等しいのだからな! だが! それでもなお、我の前に立ちはだかるのなら、全力で相手をしてやろう! さあ、かかってこい! 小さき人間よ!!」
ナオトは戦う気満々のゴブリン王を目の前にして、恐れを抱くどころか、とても面倒くさそうに首を回したり、指をポキポキ鳴らしていた。
そしてなんとか、これから戦うぞ! という気持ちにした。
「そっか、そっか。なら、望み通り戦ってやるよ。これ以上、家族に手を出されたくないからな」
「よおし! ならば、かかってくるがいい! だが、貴様に勝利はない! 我にはとっておきの技があるからな!!」
とっておきねえ……。とっておきを前もって伝えるなんて、バカなのか優しいのか、よくわからないな。
「そうか、そうか。なら、注意しないとな」
「無駄だ! 無駄だ! 我のとっておきの技を見て、生きて帰れた者はいない!!」
なら、わざわざ言う必要ないんじゃないですかね。
「あー、そうか。なら、さっさと始めようぜ。体が鈍《なま》っちまう」
「いいだろう! ならば、このゴブリン王の力を存分に味わわせてやろう!!」
これって、悪役がやられる前に言うセリフじゃなかったっけ? 俺、この展開『ワ○パンマン』で見たことあるぞ……。アニメだと、二話あたりかな?
「行くぞ! はぁあああああああああああああ!!」
ゴブリン王の右拳が迫ってきたが、ナオトは真上に飛んでそれを回避。(いつのまにか杖は地面に置いていた)
そして、ゴブリン王の額めがけて勢いよく突っ込んだ。しかし、ゴブリン王はゴブリンの王。二度も同じ攻撃をくらうような間抜けではない。
「それはもう見たぞ! 死ねええええええええ!!」
ゴブリン王の左拳がナオトの右半身に当たる直前、ナオトは直角に急降下して、地面スレスレのところで方向転換。
再びゴブリン王に向かって突き進んだ。
「どうやら、我に踏み潰されたいらしいな! いいだろう! 望み通り、粉々にしてくれるわあああ!!」
ゴブリン王の右足の裏がゆっくりと、確実に彼を潰そうと迫ってくる。
しかし、今のナオトにはそのような攻撃は通用しない。それどころか、彼はこの状況を楽しんでいた。
自分の翼ではないが、空を飛んでいるのに変わりはないのだから、楽しいに決まっている。
「あらよっと……」
ナオトはジグザグに飛行しながら、ゴブリン王の弱点はないか探していた。
しかし、残念ながら、それらしきものは見つからなかった。
ナオトはスピードを上げて、一気にゴブリン王の背後に回ると背中に張り付き。
「この辺かな?」
先端がドリルになっているシッポをクネクネと動かすと、それをゴブリン王の背中に二回刺した。(一回目と二回目は違う場所)
「がはぁあああああああああ!! お、己《おのれ》え! よくもおおおおおお……お?」
その時、ゴブリン王は気づいた、体の疲労がどんどん抜けていくことに……。
そう……ナオトが背中にドリルを刺した場所は全て人間でいうところのツボだったのだ……。
わかりやすく言うと、肝兪《かんゆ》というツボである。
人間のように二足歩行で生活しているのだから、当然ツボも似ているだろうと、ナオトは考えた。
ナオトはゴブリン王の目の前に移動すると、こう言った。
「どうだ? ゴブリン王。ツボ押しされて気持ちよくなっただろう?」
「な……何をバカなことを……! 言って……いるのだ! 我は気持ちよくなど……なっておらぬわ!」
「……肝臓の疲労とか眼精疲労なんかに効くツボを押しただけで、この反応。さては、お前、戦うことしかやってこなかった戦闘《せんとう》馬鹿《ばか》だな?」
「な……なんだと! 我を……このゴブリン王を……愚弄《ぐろう》する……つもりか!」
「別にバカになんてしてないさ。ただ、これからお前には、戦いとはちょっと違う快楽を教えてやろうと思ってな」
「その必要は……ない。我は……貴様と……決着をつけなければならない……からな!」
「はぁ……そっか。でもまあ、それもそうだな。お前の本気を見ずに殺《や》るのは、ちょっともったいないよな。じゃあ、使ってもらおうか。お前のとっておきの技ってのを!」
ゴブリン王は地面に置いていた杖を天に掲げると、大声でこう言った。
「ゴブリンたちよ! 今こそ我と一つになり、我の力となれ!! |奇跡を起こせる融合《ミラクルフュージョン》!!」
その直後、倒されたはずのゴブリンたちやミノリたちと戦っていたはずのゴブリンたちが一斉にゴブリン王のところへ吸い寄せられ始めた。(倒されたといってもゴブリンたちは気絶しているだけである)
彼らがゴブリン王の体に吸収されると、ゴブリン王の身長はどんどん伸び、同時に筋肉も膨れ上がっていった。
「ほえー、すげえな、あいつ。こんなことできるのか」
「ナオトー! 感心してる場合じゃないでしょ! 早く倒さないと、あんたでも倒せなくなっちゃうわよー!!」
ミノリ(吸血鬼)の声はナオトに届いてはいた。しかし。
「悪いなー、ミノリー。こいつと本気で戦いたいから、こいつが完全体になるまで、俺、待つことにするわー」
「はぁ!? あんた正気!? ここで倒しておかないと|後々《あとあと》、厄介になるわよー!」
「それが面白いんじゃないかー。お前には分からないのかー?」
「分からないわよー! さっさと倒しちゃいなさい!」
「あー、すまん。もう手遅れだー」
ナオトは完全体になったゴブリン王の目の前に行くために、猛スピードで飛んでいった。
「あっ! ちょっと待ちなさいよ! ナオト! 話を最後まで聞きなさいよおおおおおおおおお!!」
しかし、ミノリ(吸血鬼)の叫びは、もうナオトには届いていなかった。
今のナオトには、目前の敵しか見えていなかったのだから……。