『Gradation』
デビューしたその日、瑠姫の心は晴れやかではなかった。 自分が選ばれるということは、誰かが選ばれないということ。
その日からずっと何かに囚われたように心の奥深くに灰色の煙が渦巻いていた。
それはやがて瑠姫の心を深く蝕んだ。
煌びやかな舞台から降りて、家に帰り着く。
玄関を開けると、そこは何も見えない暗闇。
カーテンを閉め切り、ほんの少しの光も入らないそこは、まるで瑠姫の心の中のようだった。
ベッドに腰掛けて、膝を抱える。
今にも暗闇に引き摺り込まれてしまいそうなほど静かで色のない世界。ただ時間だけがすぎていく。
ピコン
🌱「起きてる?」
静かな部屋に音が響いたのは、携帯の画面に4:39を表示していた時だった。まだ眠れない夜。メッセージを確認してすぐに画面を見えないように伏せて置く。
大した用事ではないはずだ。メッセージを返すのは後でいいか。
そう思ったが、 こんな時間に何の用だろう。
瑠姫はもう一度携帯を手に取った。
すると、続けてメッセージが送られてくる。
ピコン
🌱「朝の散歩付き合ってや」
👑「いやだ」
🌱「えー。この時間瑠姫しか起きてへんねん。お願い!」
頭を下げるスタンプまで送られてきた。
そこまでしてこんな朝っぱらに散歩がしたいのか?と、 少し呆れながらも、ついていってやることにした。
👑「後でコーラ奢りな」
🌱「えー!まぁ、分かった。下集合な」
2人は5分後に1階で待ち合わせた。
まだ辺りは真っ暗で、朝というよりは夜だ。
瑠姫は部屋着のポケットに手を突っ込んでロビーで純喜を待った。夜が落ち着く。朝日が昇る前に帰ろ…。
🌱「お待たせ」
👑「おう」
足並みをそろえて歩き出す。
🌱「ちょっと寒いな」
👑「うん」
夜の街は暗闇に色を奪われていて、純喜はなぜこんな時間に散歩がしたいのか理解できなかった。
2人の間に会話らしい会話はない。
ただ何も言わずに歩き続けた。
こんな事なら自分がついてくる必要はなかったではないか。
チラっと純喜の顔を見ても、ただ前だけを見て歩いているだけ。時折 何か言いたそうにしているが、それが何なのか皆目見当もつかない。
暗闇にかかる厚い雲が本心を隠すようで2人に似ていた。
もうどれくらい歩いたのだろうか。
宿舎からかなり離れてしまった。
これではきっと朝日が昇るまでに帰宅することはできないだろう。
2人は街の外れにある高台までやってきた。
土と木でできた階段を登り、頂上まで登った後、やっと歩みを止めた。
静かで誰もいないこの場所は、2人がかつて夢を語り合った場所で、街を見下ろすのにちょうど良かった。
👑「何か言いたいことあったんじゃない?」
🌱「何でわかったん」
👑「いや、お前がこんな時間に俺を誘ってこの場所に来るってそういうことやろ」
純喜は困ったように笑い、少し押し黙った後、意を決したように言った。
🌱「瑠姫お前…デビューしたこと後悔してる?」
想像もしていなかった質問に、今度は瑠姫が押し黙る。
🌱「俺はさ、後悔してへん。歌うこと好きやし、JAMにも会えるし、メンバーにも、それと何より、こうやって瑠姫と一緒におれるし。だから、瑠姫も辛いことがあったら、俺を頼って」
👑「…」
春の暖かな風が2人の頬を撫でるように吹いた。
🌱「よっしゃー!今日も頑張るか!瑠姫!帰るぞ!」
まだ少し淡い色の朝焼けの中、そう言って瑠姫に手を差し出し振り返った純喜の笑顔は、眩しいくらいに美しくて、世界がパッと彩りを取り戻す。
世界はこんなに美しかったのか。
瑠姫は迷わずその手を取った。
👑「純喜、 ありがとう」
🌱「ん?なんか言った?」
👑「ふふ…なんでもない」
今の純喜への気持ちを何一つ言えない自分は素直ではないけれど、 どんな辛い事だって、純喜といれば乗り越えられる。そんな気さえしてくる。
🌱「朝日めっちゃ綺麗やな」
👑「うん」
言葉にするにはあまりにも大きすぎる感情を確かめるように繋いだ手を強く握る。
太陽のように明るい笑顔に秘められた真っ赤に染まる温かい心と、青い空のように澄んだ広い心を持つ同じ歳の恋人。
今この一瞬一瞬に重ねた思いの中に見つけた色は、
『愛』の色…
コメント
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るんきほんとうにしてそう😻😻 今回もさいこうです👌🏻💧