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ある日のスタバでのデート中
2人でカウンターの席に腰かけ
僕は先程注文したブラックフラペチーノ
太齋さんはコーヒーフラペチーノを飲みながら
談笑していた。
そんなとき、太齋さんが触れたのはあと1ヶ月後のバレンタインのことだった。
「そういえばもう1月終わるんですもんね…え、まさかまたBLやる気ですか…?!」
「いや、今年はやらないよ。」
「あ、そうなんすね……ってえ?じゃあなんでバレンタインの話を…」
「いや、バレンタインだよ?好きな子にチョコあげる日じゃん。」
「そ、そういえばそうだ…!イベントの根本忘れちゃうなんて…いけないいけない」
「まあそれでさ、お互いにチョコ作ってみない?っていう提案なんだけど」
「僕、太齋さんみたいに上手くないですけど、それでもよかったら…」
「むしろ作って欲しい。ひろくんのなら焦げても食うし」
「いやあの失敗する前提やめてもらえます??」
いつもの調子でそんな会話を交わしていたとき、女性の金切り声が店内に響いた。
「あっっ!いたー!!!」
それも、すぐ真横でだ。
何事かと思って声のした方に視線を向けると
そこにはダークブラウンのロングコートに、足元は黒のロングブーツ
中はシンプルなキャメルのカシミアニットとスカート風パンツで、洗練された大人の雰囲気の女性が立っていた。
ウエストが絞られたベージュのコートと、タイトなニットワンピースの組み合わせ。
ヒールの高いパンプスブーツで全体を引き締めている。
インスタグラマーにいそうな人だ。
首元には薄手のシルクスカーフが控えめに揺れる。
耳には小さなゴールドのピアスが輝いていた。
「あ、えと……」
太齋さんも同様に振り向くと
どうしてか彼は憂鬱そうな顔をして
女性は嬉々とした表情で飛び跳ねる兎のように高いテンションでぐいっと太齋さんに距離を詰める。
「敦…?敦だよね?!」
(確かこの人、今、しゅんって言ったけど…)
突然のことに驚きで目を白黒させる。
「あの、この方は…?」
僕がそう聞くと、太齋さんよりも先に女性が言った。
「しゅんの元カノだけど」
「も、元カ…元カノ……?!」
聞けば
「違う、彼女じゃないし、ただの」という太齋さんの言葉を
遮った彼女が「元セフレだし元カノと変わんないって」と訂正する。
僕は思わず眉を顰めた。
そして太齋さんに視線を向けると
彼は「あー……」と居心地が悪そうに頭を掻く。
「敦くん今フリーだよね?女の子と遊んでないってことはそういうことでしょ?だったら私の事…!」
彼女がそう言うと、太齋さんはバツが悪そうな顔で呟くように答えた。
「いや、恋人目の前にいるんだけど」と。
すると彼女は驚いた表情で僕と太齋さんを交互に見た後
「は?!男じゃん!多様性を使って見え見えの嘘つかないでよ!」
と甲高い声を上げる。
「え、いや……」
僕が口ごもると
太齋さんは「嘘と思うなら思っときゃいい」と言ってから
「ひろくん、悪いけどちょっと店変えよっか」
それに僕がぎこちなく返事をすれば
太齋さんは僕の手を引いて店の外に出た。
もちろん女性が食い下がるわけもなく
どういうことか説明して、と太齋さんに野次を飛ばす。
「ねえ、聞いてんの?!」
すると、太齋さんは急に僕の肩を抱き寄せた。
その行動に僕は驚いて目を見開く。
「俺の恋人がこの子で、俺はこの子しか見えてないの。」
と太齋さんが言うと女性は納得いかないといった様子で僕を見る
「は?まじ無理、男とか更にありえないんだけど。」
吐き捨てるように言って
女性は舌打ちしてその場を後にした。
その後、僕たちは近くのカフェに入った。
席につくなり、太齋さんが口を開く
「ごめんねひろくん、嫌な思いさせたよね……」
申し訳なさそうに謝るので、僕は慌てて首を振る。
「いや、太齋さんは悪くないですよ……!むしろ恋人だってこと言ってくれて嬉しかったですし…」
と感謝の気持ちを伝える。
それでも苦笑いして申し訳なさそうにする彼を安心させようと言葉を選ぶように続けた。
「太齋さんモテるから、本当にああやって宣言してくれるだけでも嬉しくって…だから、気にしないで下さい」
すると、彼は僕の頭に手を伸ばして優しく撫でた。
「ありがとね」
そんな彼の目を見て続ける。
「でも、元カノさ…元セフレさん…?かなり怒ってましたけど大丈夫なのかな、って」
不安を口にすると
太齋さんは少し間を置いて、口を開いた。
「大丈夫でしょ。あいつ、もう彼氏いるし」
「え?!そうなんですか?!…で、でもそれじゃあ、太齋さんを追いかけてる理由は…」
「俺の顔と体しか求めてないでしょ、またセフレになってとでも言いたいんじゃない?ご都合主義すぎてほんと無理」
「…やっぱ、身体の相性とか良かったんですか…?その、セフレだったくらいなんだし」
「え?…あぁ、つっても本当に昔だよ、俺がひろくんのこと好きになる前…だし。」
と彼は歯切れ悪く言う。
そりゃあ、恋人にセフレのこと聞かれてるんだから動揺するか。
僕が傷つかないように気を使ってくれてるんだろうなということも分かる…
「それに、恋人は本当にいないし、ひろくんが初めてだから、ね?」
「…でもそれで言ったらあの人って太齋さんの全てを知ってるようなもんですよね…」
「んー、それはどうかな。あいつが見てんのは俺じゃなくて俺の顔だよ」
と彼は笑う。
「中身まで見てくれんのは、ひろくんだけだからさ」
そう呟く太齋さんは、どこか寂寥感を感じさせた
───その後、僕たちは店を出て帰路についた。
太齋さんに家まで送ってもらい、別れ際に
「あの、本当に気にしてないんで。」
と伝えると彼は微笑んで僕の頭をくしゃりと撫でた。
「うん。でも、ひろくんには嫌な思いさせちゃったろうから……お詫びさせて?」
そう言って彼は僕にキスをした。
それは触れるだけの軽いキスだったけれど、それでも十分すぎるくらい幸せな気持ちになった。
「じゃあまた連絡するね」と手を振って帰って行く彼の背中を見送った。
そして、その日の夜。
「あ~!無理っ…気になりすぎて眠れない!!」
ベッドに寝転がって頭を抱えてジタバタしてしまう理由はただひとつ。
セフレの人のことだ。
あのときは気にしてないとか言っちゃったけど
やっぱ無理
どうしてもセフレの事が気になってしまう。
もうセフレ解消したならヤってないんだよね?なんて聞けもしない不安が飛び交う。
「いや、ないない!あの太齋さんに限ってそんなことは無い!」
そう自分に言い聞かせてスマホの写真フォルダを開く。
そこには、太齋さんとのツーショットや太齋さんの写真が溢れていて
「うん……大丈夫」と声に出して
自分に言い聞かせるものの
やっぱり気にしてしまう。
…太齋さんとシたことのある人
それだけで
場面が想像できてしまうことに
苦慮するしかなかった。
翌朝になっても
昨夜のことを思い返してしまう自分がいて
どこに行こうかと考えたとき
僕が必ず行ってしまうのはやはり太齋さんのお店だった。
徒歩で向かい、店の中に入ったとき
太齋さんがいて、ついガン見してしまった。
その理由は太齋さんの隣にいる女性だ
それは昨日太齋さんの元セフレと言っていた人だった。
(な、なんであの人がここに…にしても、何話してるんだろう…)
そんなことを考えていると、意外にもあっさりと女性は帰っていって
僕に気づいた太齋さんが注文を取りに来た。
「ひろくん、いらっしゃい」
「あ、太齋さん……」
太齋さんの顔を見ると、彼はすぐに笑顔を浮かべる
僕はいつものメニューを頼んでから、思い切って口を開いた。
「…あの、太齋さん。その…さっきの女性って昨日の…?」
あたふたしながら言うと
太齋さんは少し驚いた顔をしたあと
「あー、うん。」と言ってから困ったように笑って続けた。
「あまりにしつこいようだからさ、出禁にするって言ったら帰ってったよ」
と言うが、どうしても不安になってしまう自分がいる。
そんな僕を見て太齋さんは優しく微笑んで、頭を撫でてきた。
「大丈夫、ひろくんだけだよ」と。
その言葉だけで胸が熱くなったし、安心してしまった。
それから3時間ほどして、お会計をする。
「今日もごちそうさまでした!」
「ふふ、あっそうだひろくん、明日リハビリの日だから、夜、俺ん家きてね」
(そ、そういえばもう明日土曜か…!)
「は、はい!」
そんな会話を交わしてから店を出た。
すると店の前で、先程の女性がまるで僕を待っていたかのように立っていて、目が合う。
しかし目配せして何も言えず沈黙してしまう。
先に口を開いたのは相手で
「ねっ、暇ならちょっと話そーよ?」
「えっ、ちょっと……っ!!」
半ば強引に近くのファミレスに連れて行かれた。
互いに、適当に注文を済ませてから
気まずい雰囲気の中 彼女が口を開いた。
「あんた、しゅんの彼氏なんだっけ?」
「え?えっと…そうですけど」
「ふーん、じゃあガチなんだぁ」
「なにがですか…?」
「しゅんが好きな子出来て女関係全部切ったってウワサ」
彼女の口元がにやりと弧を描くのを見て、嫌な予感に襲われる。
「でも私はまだしゅんのこと好きだし、私の方が相性もいいと思ってんの。」
「相性…っ」
「てかあんたはしゅんとどんなセックスしたの?」
今1番聞かれたくなかったことを聞かれ
言葉を失う僕に、彼女は鬼の首を取ったように
顔をグインっと近づけて言ってきた。
「あっれ~やっぱなんもしてないんだ??だよねだよね男同士だもんね~!」
意地悪そうに嘲る姿に、僕は負けじと言い返す。
「そ、そういうわけじゃなくて…っ!僕がそういうことが苦手だから、太齋さんはできるまで待ってくれてるってだけ、で…男とか女とか関係ないですよ」
「え?いやいや関係あるでしょ!まず男同士でセックスとか世間的に見てキモイって」
語尾に笑をつけて言われたその言葉はあまりにも鋭かった。
付き合ってから、僕も太齋さんもその事を気にしたことは無かったけど
世間一般の人からしたらやはり普通ではないと、今更感じさせられた気がした。
僕の様子を察したのか、彼女はまた口を開いた。
「まっ、そんなんじゃそのうち飽きられて捨てられるのも時間の問題って感じ?あははっ!」
そう嘲る彼女、それは僕にとってはあまりにも残酷な一言だった。
耐えられなくて、その場から立ち上がる
「だ、太齋さんの恋人は僕なんですから、渡しませんし、これ以上関わってこないでください…っ!」
自分の注文した分のお金をテーブルに置いて
そう吐き捨てて僕は店を飛び出した。
帰り道、僕は悔しくて堪らなくて唇を噛んでいた。
太齋さんのセフレだった女性の言葉が頭から離れなかったからだ。
また胸が締め付けられたような感覚になる。
そして、そんな自分が嫌になってきて……
早くシないと、だめなのかな
僕もしかして
太齋さんに、凄く無理させてる……?
なんて思考に囚われたまま帰宅した。
そして翌日
約束のリハビリの日を迎えてしまった。
太齋さんのマンションに着くと、ラフな部屋着姿の太齋さんが僕を出迎えてくれて
いつものプレイ部屋に移動した。
「この前いじめすぎちゃったし、今日はアロマとか使って雰囲気作りでもしようかなって思ってんだけど」
「ひろくん、カモミールとシナモンだったらどっちがお好み?」
と聞かれたので
「あ……じゃあ、カモミールで」と答えた。
「ん、わかった」と言ってからすぐに太齋さんは
準備をし始め
無印や100均にあるようなアロマを炊いてくれて
部屋中にカモミールの甘く優しいハーブの香りが広がった。
そうして太齋さんは静かに僕の隣に座り込む。
そんな太齋さんの肩に頭を預けて温もりをを感じた。
「ねえ、太齋さん」
「ん?」
「太齋さんとあの女性って、本当に、体だけの関係だったんですか…?」
「もう、そんな気にしなくても」俺は、
という太齋さんの言葉を強い語気で遮る。
「だって、あの人…太齋さんのことまだ好きだとか言って、昨日も…っ」
「…まさかあいつに何か言われた?」
僕は小さく頷いた。
「……ごめんね、でもひろくんが俺の恋人なんだから不安ならなくていいからね」
「だったら……僕のこと、抱いて貰えませんか」
「ひろ、くん……?」
「僕、太齋さんを満足させたいんです。ずっと待たせてるし……あの女性の言葉だって……」
だから、お願いします。と僕は太齋さんに頭を下げた。
そんな僕の頭にそっと手を置いて 撫でてくれる温かさを感じた後、彼は口を開いた。
「まだ、いいんじゃない?ゆっくりでさ」
「あいつとひろくんは違うんだし。ね?」
「…僕じゃ、だめってことですか?」
「は?違うよ、俺はひろくんを大切にしたいの」
「だって、僕は…太齋さんのこと、もっと知りたい、感じてみたい…」
「気持ちは嬉しいしそれは俺も同じだよ」
その手を握られたかと思えば突き放すように
「でも、とにかく今日はまだやめとこ?」
と言われる。
張り付いたように笑う太齋さんに、僕には言えないなにかがあるんだと察して
悲傷に耐えられるほど大人ではなかった。
「あの人のことは簡単に抱いたのに、僕は嫌なんですね」
違う
「…いや、なんでそうなるわけ?」
違う、
「太齋さん、元はノンケですし…僕みたいな男よりああいう女性のが隣に似合うんだろうなって」
何言ってんの僕
「…なにそれ、本気で言ってんの?」
太齋さんの酷く尖った声に顔を上げる
「…っ」
違う、そんなことが言いたかったわけじゃない
「それに、俺は別にひろくんが嫌とかじゃなく、って、ひろくん…?泣いて、るの?」
「っ…!ごめんなさい、今日はもう帰ります」
「っ、ひろ…!!」
ベッドから立ち上がって、部屋を出ていこうとしたところ、手を勢いよく掴まれて
壁際に追い詰めれる。
「っ……」
「俺、本気でひろくんが大切なの。」
「大事すぎて、抱いたら、壊してしまいそうなぐらい」
さっきとは違って真剣な眼差しで僕を見つめてきてはそう言い、謝られた。
「え……っ」
「ひろくん、隣はひろくんじゃなきゃ俺は嫌だよ。ひろくんだって、そうじゃないの?」
熱を帯びた眼に捕らえられ、そう聞かれてしまえば出てくるのは本音たけだった。
「酷いこと、言って、ごめんなさい…僕だって太齋さんじゃなきゃ嫌に決まってます…っ」
「でもっ、あの人の言葉聞いてたら…僕は、太齋さんに無理させてるんじゃないかって」
「捨てられるのも時間の問題って言われたら、急に不安が押し寄せてきて…っ、」
そのとき、柔らかい感触に、話すのを止められた。
「…っ!!」
太齋さんの唇だ。
「不安になったら全部俺に吐き出して、そんで」
「…っ!ぁ…」
「こーやってたくさんキスしてそんな不安忘れさせてあげるから」
そう言って、舌を入れられて僕の舌を絡めとられ
離されれば、間には銀色の糸ができていて
太齋さんは僕の後頭部を優しく掴みながら
そのまま啄むようなキスを何度もしてくる。
「ん……っ、だざぃさん……」
「なに……?」
気づけば太齋さんの服の袖を縋るように掴んでい
た。
「……もっと、ほしいです」
そう強請ればまた唇が重なり合う。
「ん……ひろくんは本当、たまに大胆だよね」
「んぅ……っ、ごめ、なさい」
「謝んないでいーよ、ほら、口開けて……?」
「……っ」
僕が口を開けば太齋さんの舌が口内へ侵入してきて
唾液に濡れた舌が糸を引きながら
「……はぁ……っ」
太齋さんの手は僕の腰へとゆっくり回され
逃げ場なんて与えないとでも言うかのように
引き寄せられてはキスをされながら上顎や歯列をなぞられる
「は……っ、ほんとひろくんの口…お菓子みたいにうまい」
「っ、ん……ぁ」
「腰、揺れてるの気付いてる?…」
そう耳元で囁かれては、太齋さんの膝で僕の股間に刺激を与えられれば
もう我慢ができなかった。
「っあ……!あ、た……って」
「この方が感じられて興奮するでしょ」と囁かれてまたキスを交わす。
「ん……っ!んぅ……っ!」
太齋さんの背中に腕を回しては必死に快楽に耐えた。
「不安完全に消えたら、解放したげる」
1時間後
満足してお互いが離れた頃には、すでに深夜を回っていた。
完全に、太齋さんに分からせられた、気がする。
ベッドに2人で横たわっていると、こっちを向いた太齋さんが言った。
「ひろくんがもう無理ってなるくらい愛し尽くしてあげるから、覚悟してて」
そう言って太齋さんは僕の唇をぺろりと舐めては笑うので。
「ん……っ」と僕は頬を赤らめずにはいられなかった────。