第39章 英雄、裁断の刻
地球の静寂を引き裂いたのは、刃の風だった。
カティナ――かつて「光の英雄」と呼ばれたウカビルの戦友は、
今や感情も理性も捨て去り、ルシフェルの刃としてその前に立ちはだかっていた。
⸻
【交錯する過去】
ウカビル「……お前は……俺と並んで戦っていたはずだ。
ルシフェルの軍に抗い、命を懸けて民を守ったはずだ……!」
カティナ「……記録は記録。現実は変わった。
私は新たな使命を与えられた。旧き誓いなど、価値はない」
ゲズ「どうして……! そんな言い方、まるで――!」
セレナ「……魂ごと、ルシフェルに食われている……!」
目の前にいるのは、もはや“カティナ”ではない。
だがウカビルの眼差しは、それでも揺らがなかった。
ウカビル「……お前がどれだけ変わろうと……
おれは、英雄を裏切ったままではいられない」
⸻
【決戦、開幕】
黒と金の閃光が、戦場に刻まれた。
カティナの刃が空間を裂き、超高速の斬撃が次々にウカビルを襲う。
だが、ウカビルはそのすべてを盾で弾き、間合いを詰めていく。
カティナ「読んだつもりか。……甘いな」
一瞬で背後に回り込むカティナ。刃が閃き、地を削る。
ウカビルは間一髪で体をひねり、左肩にかすり傷を負った。
ゲズ「……っ、今の動き……!」
セレナ「完全に戦いのためだけに最適化されてる……“感情の重さ”がない」
⸻
【斬り結ぶ意志】
ウカビル「……カティナ、お前はいつも俺の隣で、
皆を守るために剣を抜いていた。あのとき、俺は……お前に救われた」
カティナ「そのような情緒は、もう必要ない。
私はただ、与えられた対象を斬るのみ――“裁断”」
黒き双刃が天へ跳ね上がり、ウカビルを真上から叩き落とすように振り下ろす。
だが――!
ウカビル「俺も……守るだけじゃない!」
“巨神断・終式”
巨大な一閃が空気ごとカティナを貫こうとするが、
カティナは空間を裂いて後方へ跳び、再び刃を構えた。
⸻
【決着の一撃】
カティナ「……やはり、かつての英雄か。
少しばかり、手応えがある……だがそれも、ここまで」
ウカビル「……そうか。なら……せめて、お前の最後は、俺が受け止める」
静かに、二人は間合いを詰める。
最後の一撃――それは、過去に別れを告げるための一太刀だった。
次の瞬間、世界が光に染まった。
斬撃と斬撃がぶつかり合い、爆風が戦場に轟いた。
……そして。
⸻
【沈黙】
そこに立っていたのは、ウカビルひとり。
彼の刃は血に濡れ、彼の目は哀しみに曇っていた。
ウカビル「……すまなかった。……本当は……お前を……」
その足元に倒れるカティナ。
その身体には、もはや動く力も、語る意志も残されていない。
彼女はもう戻らない。
だがウカビルは、最後までその遺体に背を向けなかった。
ゲズ「……あれが……英雄の、覚悟」
セレナ「ウカビル……」
⸻
【次なる闇へ】
遠く、空が再びうねり始めた。
そこには、ルシフェルの気配とは違う、もっと深い“悪意”がうごめいていた。
セレナ(感じる……これは、別の王……?)
だが今はまだ、その存在は語られない。
ただ一つ。
ゲズたちは知っていた。カティナの死が告げたのは、戦いの終わりではなく、始まりだったということを。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!