女が俺に差し出してきたのは…真っ赤なトマトだった。
は?トマト?差し出されたものは俺が想像していたものよりもはるかに平和なものだった。
「お兄さんにこれあげる!」
女は笑顔で俺に言い寄ってくる。混乱している俺はとりあえずなぜトマトをくれるのかを聞くことにした。
「ど、どうして…トマトを俺に…?」
「だって、お兄さんすごく疲れた顔してるよ?知ってる?トマトってスゴいんだよ!疲労回復はもちろん…美肌効果に…ダイエットにもいいし…!何より美味しいじゃん!!トマト!!」
女はしばらく熱くトマトを語った。俺は女のトマト語りを無言で聞いていた。
「あ…ごめんなさい…すっかりトマトの世界に入っちゃってましたね…私…。」
トマトの世界?もう訳がわからない。そんなことより俺はこの女に聞きたいことがたくさんある。まず、この女は何者なのか。
「えっと…貴方は? 」
「あ!自己紹介がまだでしたね!私は、メンタルクリニック『リコピン』専属メイドの[トマリナ]です!よろしくお願いします!お兄さんのお名前は?」
「メンタルクリニック…『リコピン』の専属メイドの…トマリナ…さん?」
情報量が多すぎる自己紹介に頭がパンクしそうになる。何だよ…『リコピン』って。クリニックの専属メイド?なんだよそれ…。
「えっと…」
何から話せばいいのかわからない…言葉が出てこない。ただ、一番気になるのは…
「メンタルクリニック…って…その…」
トマリナは納得したような顔をして俺の手をとる
「じゃあお兄さん、私についてきてください!実際に行った方がわかりやすいですから!」
「え…ちょっ…!?」
俺はトマリナに手を引かれ数分間この知らない道を歩いた。
「着いたよ!お兄さん!」
目の前には[メンタルクリニック『リコピン』]と書かれた看板が掛けてある、こぢんまりとした2階建ての建物がある。トマリナは俺の手を引っ張ったまま『リコピン』に入って行く。
中に入ると…すごく…何と言うんだろうか…木の暖かみを感じる造りの室内だった。部屋の中央には大きな丸いカウンターキッチンがあったり、数個のテーブル席があった。メンタルクリニックというよりも、飲食店という感じだ。すると、どこからか食欲をそそられるような匂いがした。
もう、何日食事をしていないだろうか……。
「改めまして!お兄さん!メンタルクリニック『リコピン』へようこそ!」
トマリナが元気に言う。改めましてと言われてもさっぱりわからない…。ここは病院なのか?それとも飲食店なのか…?
「お兄さん!こちらのお席にどうぞ!」
言われるがままに案内されたカウンター席に座る。トマリナは俺を席に座らせるとカウンターキッチンの中へ入った。そうして口を開いた。
「さてと…お兄さん、今日はどのような症状ですか?」