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鷹槻れん

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#ロマンスファンタジー
百はな🍑
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世羅 鈴🎨🎤
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ゆゆ

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見渡す限りの銀世界が目の前に広がっている。
雪を踏みしめながら山道を進む。
肩に止まった蝙蝠型ゴーレムが、小さく翼を震わせた。蝙蝠の目にガス灯を思わせるオレンジ色の光が灯る。
『そろそろだ。村が見えてくる』
ヴァルの声がした。蝙蝠人形に搭載された通信機の機能だ。今回の任務、彼は裏方に徹して、表に出ないつもりらしい。喧嘩が苦手で、現場の役に立たないのだとか。
「……こんな寒い場所でよく暮らせるね」
『ほかに居場所がないんだろ。まつろわぬ民ってやつさ』
ゴーレムが疲れたといわんばかりに、僕の頭上にとまり、羽を休めた。
しとしとと降る雪の向こうに、小さな集落がかすかに見えた。
コートのポケットから望遠鏡を取り出して、村の様子を覗く。
雪を被った木造家屋。煙突から立ち上る白煙。人の営みを感じさせる、ごく普通の寒村に見える。
ただもちろん、普通の村じゃない。僕の持つ地図に、この村は記されていないのだから。王立測量局発行の地図で、本来であれば記載漏れなどありえない。
「……王国が秘密にする村、ね」
一歩踏み込もうとした、その時だった。
僕の右肩に投擲ナイフが突き刺さった。
「……首は外したか」
男の声が森に響く。
木々の陰から、一人の男がこちらを伺っていた。黒のマフラーにゴーグルに帽子と、肌を一ミリも見せない特殊な風体の男だ。
男は長剣を手に跳躍し、斬りかかってきた。
僕は右手を差し出す。足元の岩肌が崩れ、黒い砂となって宙へ舞う。砂粒は渦を巻き、黒の短刀へと姿を変えた。
耳を劈く金属音。
互いの刃が真正面から噛み合った。
「馬鹿な……どこから武器を!」
男が目を見開く。
まあ、向こうからすれば意味がわからないと思う。刺された方の腕で受け太刀してるし。再生の魔術にも慣れたもので、肩の治療はもう済んでる。
僕は静かに短刀を押し込んだ。
「さ、切れ味勝負をしよう」
甲高い音を立て、襲撃者の長剣に一本の亀裂が走る。
次の瞬間。
刀身が真っ二つに裂けた。
「……引き分けか」
僕の短剣にも亀裂が広がる。乾いた破砕音とともに短剣が砕ける。よく斬れるけど脆いな、黒曜石。
武器を失った男は、即座に拳を繰り出してきた。
僕はナイフを手に、拳が向かう先に突き立てる。切っ先が男の拳に吸い込まれていく。男が痛みに呻き、手を抑えようとした頃には、彼の両腕の腱は斬り裂かれていた。喉笛にも、心臓にもナイフが突き立てられている。
近場の岩石を分解して生成した、黒曜石のナイフ総勢六本のカウンターだ。敵視点、無から刃が湧いて出たようにしか見えないだろう。
「ごめんね、僕もこんなの、ズルだと思うよ」
赤い雫が雪へ落ちる。
男は声を上げない。裂かれた喉からヒューヒューと空気が漏れるだけだ。やがてそれも、静かになる。
僕は死体の傍へしゃがみ込み、血に濡れた帽子を摘まみ上げる。
「……変わった門番だね」
『目的の村に着いた証拠だ』
現れた顔は、人間のものではなかった。
漆黒の鱗が顔全体を覆い、縦に裂けた紡錘形の眼が金色に光っている。鼻先は前へ尖り、閉じた口元からも鋭い牙が覗いていた。
死に際の絶望顔はまさしく人間らしい表情だけれど、顔の造形は鰐に近い。
僕は小さく頷く。
「竜だ」
******
二日前
「北方の寒冷地に二つ、竜族が住む領地がある。名前はブリムとヴィローデール」
ノクス様は地図上の何もない地点に、二か所、赤でバツ印をつけた。
「地図上は原っぱだけど?」
「この二つの村は国にその存在が秘匿されている」
「何でまた?」
「竜族の隠れ里だからだ」
ノクス様がテーブル上に手を翳すと、手のひらサイズの小さな石像たちが生成された。
テーブルの中央に、王冠を被った男が佇む。
彼を円状に囲み、剣を手に礼をする十二の貴族たちがいる。
貴族の中に一人、明らかに異質な存在が混じっていた。
服装こそほかの貴族と同じだが、容貌は人間のそれではない。二足歩行の竜だ。
「王国建国時の十二諸侯。その中に人語を話す竜の一族がいたのは知ってるか?」
「五百年前の御伽噺としてなら」
「一般の認識はそうだな。歴史からは抹消されているが、竜族は実在する。魔術による認識阻害を受けた、特別な領地を国から与えられていてな。引き換えに、彼らは常日頃から自らの肉体と術式を磨き上げ、有事には戦士として身を捧ぐ契約を結んでいる」
「外界から秘密裏に隔離された、戦闘訓練に励む竜の一派……いや、それって……」
「革命家フィールディングからすれば格好の餌場だな。竜を支配する術式で、あっというまに魔術師の兵隊が出来上がる」
王と十二の貴族の像は、いつの間にか竜の石像へと姿を変え、牙を剥いている。
ノクス様が机を指でコツンと鳴らすと、石像たちが塵へと消えた。
「村で待ち構えて、フィールディングを待ち伏せする?」
「先手を打てるなら、そうしたいな」
「後手に回れば?」
「竜の隠れ里は既にフィールディングの手中。一族全員魔術師の村で、多勢に無勢の魔術の撃ち合い……という展開もあり得る」
ノクス様は地図上のバツ印をペンの先でつく。
「スピード勝負だ。私たちかフィールディング、どちらが先に竜の領地に入ったかで話が変わる。だから……」
「二手に分かれるのが妥当かな。ブリムとヴィローデール、どっちが僕で、どっちがノクス様?」
ノクス様が嫌そうな顔をした。一瞬、「だから……」の続きを読み違えたのかとも思ったけれど、そうではないらしい。
この人は、僕を一人にするのが嫌なのだ。
僕はノクス様の両頬を抑え、少しだけ笑ってみせた。
「過保護」
ノクス様がムッとする。すごく大事に思われているのは感じるけれど、当人に指摘されるのは嫌らしい。
******
僕が雪を踏む音だけが村に響く。
煙突からは白煙が上がっている。軒先には干し肉が吊るされ、井戸には桶が置きっぱなしだ。窓辺には編みかけの毛織物が放置されていた。
生活感はある。それなのに、誰もいない。物陰からこちらを窺う気配だけが、ずっと肌に感じられた。
村の中央広場へ出た瞬間、思わず足を止めた。
まっさらな一面の雪に、大きな赤黒い染みが広がっていた。
粗末な防寒着を着た人間の死体が、二十体以上、無造作に重ねられている。
「はて、来客は聞いておりませんが?」
建物の陰から、黒ずくめの男がひょっこりと現れた。
見張りの男と違って、黒い鱗に覆われた頭部を露わにしている――竜の一族だ。
僕は転がっている死体たちを目で指した。
「これ、何?」
「練兵でございます。人民解放戦線の兵士と我々で戦闘訓練を実施したのです」
事情は分かった。
フィールディングは人間の手下を引き連れブリムに来ていた。彼は術式で竜の軍勢を支配下に置き、用済みになった古い仲間を試運転感覚で殺したわけだ。
ノクス様は今頃、空振りに終わったヴィローデールで頭を抱えている頃だろうか。本当に二分の一の確率を引き当てる才能ないな、あの人。
「訓練でここまで殺すことある?」
「彼らが使い物にならなかっただけです」
「……ふーん」
死体を観察する。若い――幼いと言っていい死体も混ざっている。
彼らはおそらく、人民解放戦線に襲われた村の子どもたちだ。自称革命家は村々を巡回し、現実の出来上がっていない少年たちを攫い、兵士に仕立て上げているのだろう――テロリストとしては定番だから、イメージしやすい。
この子たちは、自分たちの両親を殺したものたちの列に無理やり加えられただけ。強力な魔術師である竜族と殴り合って、まともな戦闘訓練ができたとは思えない。
多分、一方的な虐殺だったと思う。
竜族の男を見る。竜たちはフィールディングに支配され、泣く泣く子どもたちを殺したのだろうか。多分、違う。
『あいつ、死体を見てほくそ笑んでてたぞ』
蝙蝠人形から、ヴァルの声がした。
竜は、人間が大嫌いらしい。
まあ、初手で見張りが殺しに来た時点で察してた話ではある。
『十二諸侯唯一の異種民族が、寒冷地に追いやられ、五百年近くろくな交遊ももたず、放置に近い自治をする……お察しな点が多すぎる。対等な力関係で結ばれた盟約じゃない。長年虐げられだ鬱積もあるんだろうよ』
「もし竜の一族が、訓練とやらに成果を見出しているとすれば……」
僕は竜族の男に向き直る。
「人狩りの作法、ちゃんと覚えた?」
「お見せしましょう」
竜族の男が指を鳴らした。
屋根の上、煙突の陰、雪を積んだ木々、家屋の裏、村を囲む柵の向こうと、そこかしこに、黒い影が現れる。
それまで気配を消していた竜族の一団が姿を現す。
彼らが僕に手を翳す。
火球が舞い、雷光が冷たい空気を裂いた。岩の槍が雨のように降り、風の刃が建物の壁や石畳を裂きながら迫ってくる。
いろんな術式があるらしい。多種多様な魔術が僕を狙う。
地表の雪を分解し、氷の防壁を再構築した。ロザリア様の真似事だ。幾重にも重なった氷の壁が、ごちゃ混ぜになった魔術の猛攻を阻む。
『……雑魚の術式だ。こいつらのは要らねえよな』
ヴァルの奴、自分は喧嘩ができないくせに、どういう立場で言ってるんだろ。
相手を煽る流れになったし、僕も、悪戯っぽく見える笑みを浮かべた。
「君たちじゃ話にならない。フィールディングを出してもらう」
コメント
2件
フィオ 魔術の力で敵の攻撃を交わして、すごいですね。竜族との出会い、続きを楽しみにしています。
いやー、第5話②、めっちゃ良かったっす!肩刺されても再生しながらカウンター決める主人公、かっこよすぎんだろ。「ズルだと思うよ」って言いながら無から武器作るスタイル、完全に脳筋じゃないタイプの強さで痺れるわ。ノクス様が過保護なのもギャップ萌え。ラストの「フィールディングを出してもらう」で終わる感じ、続きが気になりすぎる🔥